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27.命日

朝露に濡れた草原の先に、質素な石の墓標が立っています。

ルミナスはそこに腰を下ろし、持ってきた野花を供えました。


「……おはよう、カーム。そっちは退屈してない?」


ルミナスは膝を抱え、ただ風の音を聞いています。魔王だ、救世主だと騒がれる喧騒から離れ、ここではただの「ルミナス」として、過ぎ去った穏やかな日々を思い出していました。


「カインが焼くパン、君が作るのと似てきたよ。……あ、でも、レイガルたちが少し騒がしいかな」


ルミナスがふふっと小さく笑い、墓石にそっと触れます。魔力を一切使わない、ただの静かな時間がそこには流れていました。



ルミナスの寝室が「空」であると判明した瞬間、城の平和は終わりました。


「……主様がいらっしゃらない」


レイガルの声は、低く、そして絶望に満ちていました。

彼はルミナスのベッドの横で立ち尽くし、冷たくなったシーツを震える手で触れています。寡黙な騎士の顔からは余裕が消え、その瞳には「主を守れなかった」という底なしの罪悪感と、狂気に近い焦燥が宿っていました。


「……私のせいだ。私が、夜通し扉の前で守っていながら……っ!」


「黙れ、駄犬。悔やんでいる暇があるなら探せ!」


ゼノスもまた、冷静さを失っていました。

城全体の魔力探査を極限まで広げ、その反動で周囲の空間がひび割れています。

「主様の魔力気配が……完全に消えている。まさか、あの王宮の残党どもが卑怯な真似を……?」


二人の放つ凄まじい殺気と魔圧のせいで、城の壁には亀裂が入り、窓ガラスは次々と砕け散っていきます。



「お、落ち着け! お前ら二人とも落ち着け!!」


アルフレッドが、震えるカインを背後に隠しながら叫びました。

「ルミナス様は強いんだ! 攫われるわけがないだろう! きっとどこかへ散歩に……」


「散歩なら、私に一言あるはずだ!」

レイガルが怒号とともに剣を抜き、床を叩き切りました。

「もし主様に万が一のことがあれば、私はこの国を、いや、この世界すべてを灰にする……!」


「……賛成だ。主のいない世界など、存在する価値もない」


ゼノスが冷たく同調し、城の地下からどす黒い魔力を噴出させます。

主が独りで出かけたという「自由」を、彼らは「喪失」と受け取り、世界を敵に回す準備を始めてしまったのです。



数時間後、ひょっこりと城門に姿を現したルミナスは、半壊したロビーと、血眼になって飛び出そうとしていた三人に目を丸くしました。


「……え、何。みんなで大掃除? 壁、すごいことになってるけど」


「「「主様……!!」」」


レイガルが、膝から崩れ落ちてルミナスの足元に縋り付きました。何も言わず、ただ主の無事を確認するように、その衣の裾をぎゅっと握りしめて離しません。


「……勝手に出ていくなと、あれほど……」

ゼノスが、震える声で精一杯の毒づきを口にします。


「ごめんね、ちょっとカームに会いに行ってただけなんだけど。……あ、カイン、お腹空いちゃった」


ルミナスのいつもの調子に、張り詰めていた糸が切れた男たち。

カームの命日。ルミナスにとっては「過去」を偲ぶ日でしたが、レイガルたちにとっては「主を失う恐怖」という、新たな執着が刻まれる日となったのでした。

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