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17.困惑

ルミナスの城の地下、かつてレイガルが捕らわれていた場所とは違い、清潔だが頑丈な魔導鉄の鎖が引かれた一室。

そこに、聖騎士アルフレッドは繋がれていた。



城門前で倒れていた他の聖騎士たちは、ルミナスが指先一つ動かすだけで、傷を癒やした上で国境近くまで一瞬で転送されていた。

「君たちの隊長は、しばらく預かっておくよ。カイン王子の件について、ゆっくり話し合いたいからね」

そんな伝言だけを彼らの記憶に刻み込んで。



ガシャン、と重い鉄の扉が開く。

現れたのは、精悍な顔立ちを不機嫌そうに歪めたレイガルだった。彼はトレイに乗った、およそ牢獄には似つかわしくない豪華な食事をアルフレッドの前に置く。


「……食え。主様が、死なせるなと仰った」


アルフレッドは鎖を鳴らしながら、レイガルを鋭く睨みつけた。

「……貴様。騎士の誇りはないのか? なぜこれほどの力がありながら、あのような怪しげな魔術師に膝を屈している」


レイガルはぴくりと眉を動かし、アルフレッドの胸ぐらを掴み上げた。

「……貴様に何がわかる。主様は、俺に名を、自由を、そして……」

そこまで言いかけて、レイガルはまた「言えない本心」に突き当たり、顔を背けた。「……いいから食え。残せば、次は俺が直接貴様の喉に叩き込む」



そこへ、背後から音もなく黒い霧が立ち込め、ゼノスが姿を現した。


「おやおや、野蛮な犬は給仕もまともにできないのか。主様が、その男には『カイン王子の無実を証明するための証言者』としての価値があるとお考えなのだぞ」


ゼノスはレイガルを嘲笑うと、アルフレッドに向き直った。

「聖騎士殿。主様に感謝しろ。貴様がさっきまで握っていたその槍も、主様が『おもちゃにするには丁度いい』と、庭の飾りにしてくださったぞ」


「おもちゃだと……!? あれは我が国の宝、聖なる……」


「うるさい。主様がそう仰るなら、それはおもちゃだ」


レイガルとゼノスが、牢屋の中で「どちらが主様の意図を正しく理解しているか」で言い争いを始める。

アルフレッドは、その光景を呆然と眺めるしかなかった。


(……待て。何なんだ、この場所は。この男たち、腕は超一流だ。なのに、会話の内容がすべて『あの少年』中心で回っている……。まるでお互いに、あいつの寵愛を競っているようじゃないか)


「あの……お二人とも」

そこへ、おずおずとカインが差し入れの果物を持って入ってくる。


「アルフレッド様、大丈夫ですか? ……ごめんなさい、みんな本当は悪い人じゃないんです。ただ、ルミナス様のことになると、ちょっと……その……」


「カイン王子……。貴方は、こんな狂信者たちに囲まれて平気なのですか……?」


アルフレッドの切実な問いに、カインは困ったように笑う。

「ええと、慣れると……結構、賑やかで楽しいですよ?」


(……だめだ。王子まで毒されている。この城でまともなのは、俺だけか!?)


アルフレッドは、豪華な食事を前にして、深く、深くため息をついた。

監禁されている恐怖よりも、あまりにもズレきったこの城の「日常」に、彼の正義感と常識は、早くも崩壊の危機に瀕していた。

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