16.常識人
ルミナスの城を囲む静謐な森は、その日、一陣の清烈な風に引き裂かれた。
城門の外には、太陽の光を反射して眩いばかりに輝く、白銀の甲冑を纏った騎士団が隊列を組んでいる。先頭に立つのは、黄金の刺繍が施された白のマントを翻す青年、アルフレッド。
「邪悪な魔術師に告ぐ! 私は隣国の聖騎士、アルフレッド! カイン王子を解放せよ! さもなくば、この聖槍をもって、貴様の迷宮を浄化する!」
彼の声は、迷いなき正義感に満ち溢れていた。聖堂で鍛え上げられたその体軀は、しなやかでありながら、揺るぎない芯が通っている。
ルミナスは、城のテラスからその光景を眺めていた。その表情は、不機嫌というよりは、どこか楽しげですらある。
「……おやおや、急に賑やかになっちゃったね。僕、そんなに悪いやつに見える?」
「……主様。地下の不浄な輩は、私が今すぐ斬り伏せて参ります。……門外の無礼な男も、生きては帰しません」
レイガルの声は、これまでにないほど冷え切っていた。しなやかで精悍な体を緊張させ、主の背後を死守する騎士レイガル。
右には、執事のように恭しく、けれど隠しきれない独占欲を瞳に宿した魔族ゼノス。漆黒の衣装を翻し、額から覗く二本の角が禍々しい気配を放っている。
「ほう。新参者の騎士が、主様の隣を私の定位置だと思っているのか?」
「……どけ、小犬。主様の影は、私一人が務めれば足りる」
ゼノスの紅い瞳が燃え、レイガルの手が剣の柄に伸びる。
その二人の間で、あまりの魔圧にガクガクと震えながらも「ルミナス様は、悪い人じゃないんです……っ!」と叫ぼうとしているカイン。黄金の髪が風に揺れ、その瞳には不安と決意が混ざり合っていた。
ルミナスは、自分を巡って火花を散らす三人を眺め、優雅に髪をかき上げた。
「あはは、面白いね。退屈しのぎのつもりだったけど、こんなに賑やかになるなんて」




