15.新しい日々
ルミナスの城の朝は、これまでになく騒がしかった。
食堂には、豪華な朝食が並んでいる。しかし、テーブルを囲む空気は、火花が散るほどに張り詰めていた。
「主様、目覚めの紅茶でございます。数百年前に貴方様が好まれた、北の果ての茶葉を再現いたしました」
ゼノスが恭しく、完璧な所作でカップを差し出す。彼は魔族の力で、城の執事としての役割を器用にこなしていた。
「……主様の好みは、私が一番よく知っている。今はその茶葉よりも、この森の湧き水で淹れたハーブティーを好まれているのだ。……控えろ、魔族」
レイガルがしなやかな動作で割り込み、別のカップをルミナスの前に置く。その瞳は、いつになく鋭い。
「ほう。浅い付き合いの騎士風情が、主様の『魂の渇き』を理解しているとでも? 滑稽だな」
「なんだと……?」
二人の間には、目に見えるほどの殺気が渦巻いている。
その向かいで、カインは小さくなってオムレツを口に運んでいた。
「あ、あの……レイガルさんも、ゼノスさんも……そんなに怒らなくても……」
「「黙っていろ、小憎」」
二人の声が重なり、カインは「ひっ……!」と肩を震わせてスープに顔を突っ伏した。
「ふふ、二人とも仲が良いね」
ルミナスが楽しげに笑いながら、二人が出した紅茶を交互に一口ずつ啜る。
その姿を、レイガルとゼノスは獲物を狙う獣のような、あるいは神を仰ぐ信者のような熱を帯びた瞳で見つめていた。
「美味しいよ。ゼノスの紅茶は懐かしい味がするし、レイガルのハーブティーは今の僕にぴったりだ」
そう言ってルミナスが微笑むと、二人は一瞬だけ「勝負はつかなかったか」とでも言いたげな顔をしたが、すぐに互いを睨みつける。
午後の散策の時間。
ルミナスの後ろには、当然のように二人の影が張り付いている。
右側を歩くのは、漆黒の衣装を翻すゼノス。
「主様、あちらの庭園の配置、少し変えましょうか? 貴方様がかつて愛した、血のように赤い薔薇を咲かせることも容易いですが」
左側を歩くのは、精悍な顔立ちを険しくさせたレイガル。
「必要ありません。主様は今の、自然なままの森を愛しておられる。余計な魔力を振りまくのは、主様の安眠を妨げるだけだ」
「……レイガル、君は本当に僕を守るのが好きだね」
ルミナスがふと立ち止まり、レイガルの頬に手を添える。
「っ……、……それは、私のすべてですので」
レイガルの顔が、ほんの一瞬だけ、騎士の仮面が剥がれたように赤らむ。その初々しい反応に、ゼノスが冷ややかな視線を送る。
「……情けない男だ。主様の慈悲に当てられて、顔を赤らめるとは。騎士というよりは、ただの拾われた仔犬だな」
「貴様……! 表へ出ろ。その角を叩き折ってやる」
一触即発の事態に、後方で本や魔導具を持たされていたカインが、オドオドしながら声をかける。
「ル、ルミナス様! 僕、もっとお役に立てるように勉強します! だから……お二人とも、剣を抜かないでください……!」
ルミナスは、自分を巡って火花を散らす三人を眺め、優雅に髪をかき上げた。
「あはは、面白いね。退屈しのぎのつもりだったけど、こんなに賑やかになるなんて」




