13.言えぬ思い
カインを新しい部屋へと送り届け、ルミナスは自室のサロンへと戻った。
背後には、影のように付き従うレイガルの気配がある。足音を立てず、しなやかな豹のように歩くその姿は、重装甲の騎士というよりは、研ぎ澄まされた一振りの剣のようだ。
「さて、レイガル。二人で話したいことって何だい?」
ルミナスがソファに深く腰掛け、首を傾げて問いかける。
レイガルはすぐには答えず、主の前に進み出ると、音もなくその場に膝を突いた。
膝を突くレイガルの背中や肩のラインは、若々しく引き締まっている。首筋から胸元にかけての筋肉は、重厚というよりは、強靭なバネを仕込んだかのように鋭い。
「……主様。私は、あの日……貴方に救われたその時から、この命の使い道を……」
そこまで言いかけて、レイガルの言葉が詰まった。
彫りの深い、精悍な横顔がわずかに歪む。本当は言いたかった。あんな子供に構わないでほしいと。貴方の視線を独占したいのだと。
だが、ルミナスの銀色の瞳に見つめられると、自分の内側にあるどろりとした激情が、あまりに青臭く、かつ醜いものに思えて、言葉が喉に張り付いて離れない。
「……使い道を、どうしたの?」
ルミナスが優しく促す。レイガルは長い睫毛を伏せ、拳を強く握りしめた。数秒の葛藤の末に、結局、心とは裏腹な「忠実な部下」としての言葉を口にしてしまう。
「……いえ。カイン殿の、今後の処遇について、進言したく存じます」
「カインの? なあんだ、あの子の話?」
ルミナスが拍子抜けしたように笑う。レイガルは内心で自分を罵った。
「……はい。あの方は一国の王子。早急に、自衛のための剣を教え込むか、あるいは……」
「レイガル、真面目だねえ。せっかく二人きりなんだから、もっと別の話でもすればいいのに」
ルミナスは面白そうに笑いながら、レイガルの整った顔立ちを覗き込む。
「僕はね、カインを守るって決めたんだ。……それとも何? レイガルは、僕があの子を構うのが、そんなに気に入らない?」
「っ……それは……」
図星を突かれ、レイガルの肩がびくりと跳ねる。
見透かされているのか、それともからかわれているのか。
「私は……ただ、主様の平穏を第一に考えているだけです。あのような、弱き者が主様の隣を歩むのは……」
「ふふ、そうだね。僕の騎士は君だけだ。それは変わらないよ」
ルミナスはそう言って、レイガルのしなやかな手に自分の白い手を重ねた。
その温もりに、レイガルの心臓は早鐘を打つ。本当は、この手を強く握りかえして、自分のすべてをぶつけてしまいたい。けれど、彼はただ「…...肝に銘じます」と、静かに頭を下げることしかできなかった。




