第91話 朗読会
里帰りから戻ってしばらくは、みんなが行きたいと騒ぐので、ダンジョンへ行って攻略に励んだ。
はじめは乗り気じゃなかったオーレリアだったが、海の階層が現れてからは俄然やる気になった。新鮮なお刺身を手に入れてウッキウキのオーレリア。大粒の牡蠣が手に入ったときには、小躍りして喜んだほどだ。
ちなみにお刺身はフェンリルたちにも大人気で、これが米のお酒に合うと大盛り上がり。エルフの里で買ってきた調味料で味付けすれば、お刺身だけじゃなく、焼き魚や煮つけにしても最高にいいつまみになったようだ。
飲酒禁止令が発令中のオーレリアは非常に悔しい思いをしたが、海の幸はご飯にも合うので、もうお酒のことは忘れることにした。
ダンジョンはさらに砂漠や火山など、なかなかバラエティーに富んでいて、思ったよりも楽しい。階層はまだまだ下へ延びていて、フェンリルたちも飽きずに交代でチャレンジしているようだ。
ダンジョンをすっかり満喫したオーレリアだったが、その後にはちゃんと世界樹の種を植えに行った。
聖域の湖の畔に、日当たりの良さそうな場所を選んだ。深く積もった周囲の雪を溶かし、土を掘って種を植えた。そして用意してきた物語を読む。
約束通りご婦人フェンリル方にも声をかけたら、ライリエルやママ、おばあちゃんまで、たくさんのメスのフェンリルたちが集まった。オスも何匹かいるようだ。
「こんなにたくさん来るとは思わなかったよ」
『だって面白そうじゃない!女子はみんなこの手の話が好きなのよ!』
『女子だけじゃないぞ!』
「そうなんだぁ」
フェンリルたちは、オーレリアと世界樹の種を囲むように辺りでくつろぎ始める。
『リアは私のお腹に寄りかかったら?温かいわよ!』
「えっ!いいの?やったー!」
ライリエルの嬉しいお誘いを断る理由はない。オーレリアはフワフワで温かい毛並みに寄りかかって本を読む体制を整えた。
「ノル、ネロ、えっちゃん。こっちでお話聞く?」
『おれは、いい』
『ぼく、あっちであそんでくる』
『シャノンとヴァイゼルと雪遊びするんだ!』
ノルとネロとえっちゃんはまったく興味が無いようだ。……まぁ、そうだろうと思ってたよ。
「さて、それじゃあ今日はこれを読んでみようかな」
そう言ってオーレリアは、空間収納から“美女とゴリラ”を取り出した。
「これ、有名な恋愛小説だって言っていたけど、とても名作とは思えない題名なんだよねぇ……。でも、ネレインを信じて読んでみよう!」
❝昔々あるところに――
『昔々ってどれくらい昔なのかしらね?』
『あるところってどこなの?』
「……物語だから、だいたいで……」
『あらヤダ、ごめんなさいね!』
『続けて!続けて!』
オーレリアは改めて本を読み始める。
❝昔々あるところに、わがままで傲慢で鼻持ちならない王子様がいました。王子さまは周りにちやほやされて育ってしまったので、自分が世界一ハンサムで有能だと信じて疑いませんでした。
ある――
『ヤダわぁ!勘違いしちゃって!』
『ナルシスト王子のお話ね?』
『そんな王子様で国は大丈夫なのかしら?』
『教育係はいったい何をやっているの?』
「……それをこれから話していくんだよ……」
『あら、そうだったわね』
『ごめんなさいね、つい興奮して……」
「……続けるよ?」
『おねがーい!』
❝ある嵐の夜、宴で盛り上がる王子様の元に、真っ黒なローブをまとった年老いた魔女が現れ、一夜の宿を乞いました。
「嵐が去るまでで構いません。どうか雨宿りをさせてはいただけませんか?」
魔女はお礼にと、一本のバナナを差し出しました。
「ふん!醜い魔女め!たかがバナナ一本で何を言うか!身分をわきまえて、さっさと立ち去れ!」
王子様は、差し出されたバナナを無情にも叩き落としてしまいました。❞
『ひゃだ!サイテー!』
『私だったら嚙み殺しちゃうかも!』
『わかる~!』
「……」
ご婦人フェンリル方がいちいちツッコミを入れてくる。実に読みづらい。もう無視して進めてしまおう。
❝ バナナを叩き落とされてしまった魔女は怒り、本当の姿を現しました。なんと、年老いた魔女は、実は美しい女神様だったのです。
「あなたの心根はよぉくわかりました。そのお顔だけではなく、心までもが何とも醜く歪んでしまっているようですね」❞
『なかなか辛辣ね!』
『あら、いいんじゃない?』
『もっと言ってほしいわ!』
❝「わたくしはこの国が滅びようが一向にかまいませんが、一応女神として慈悲をあたえましょう」
「何!女神だと!?う、嘘を言うな!私を騙そうとしたって無駄だ!衛兵!衛へーい!」
女神様は、王子様にゴリラになる魔法をかけました。
「うわぁ!顔が!顔がぁ!!」
「あなたにチャンスを与えます。そんな姿のあなたでも愛してくれる人を見つけなさい。そして、その人を幸せにするのです。さすれば呪いは解けるでしょう」❞
『キャハハハハハ!ゴ、ゴリラ!』
『流石だわ!女神様!』
『でも、なんでゴリラなのかしら?』
❝ 何故ゴリラなのかというと、周りの人たちはハンサムだともてはやしましたが、実は王子様は元々とてもゴリラっぽいお顔立ちをしていたのです。
女神様の第一印象がゴリラだったという、ただそれだけの理由でゴリラになってしまったのです。❞
『ファーーーー!』
『最高!』
『それで、どうなったの?』
❝「あぁ!なんということだ!私はもう終わりだーー!こんな姿の私を愛してくれる者などこの世にいるわけがない!」
王子様は、ゴリラになってしまったことを嘆き悲しみました。
「王子よ!人を見た目だけで判断してはいけません。心をみるのです!」
「だがしかし、相手の女性はゴリラの心が分かるのだろうか!」
「あなたが心までゴリラになる必要はありません。ただ愛をもって接すれば、自ずと道は開けるでしょう。幸運を祈ります」❞
『これって、このゴリラ王子と恋に落ちるのは人間なの?それともゴリラなの?』
『でも題名は、美女とゴリラなんでしょう?』
『美人の雌ゴリラかもしれないわよね?』
『たしかに!』
「まだ導入部分だよ?そういうのはこれから語られていくと思うから……」
まだ開始2ページなんですけど!最後まで読み切るのに、一体どれだけの時間がかかるのだろう……。
「みんながあんまり遮ると、お話が進まないからね?」
『わかったわ、ごめんなさいね!』
『善処するわ!』
『オーレリアちゃん、続き聞かせて!』
❝ ―― 中略 ――
「あぁ、ゴリラ王子。初めて会ったときはとっても嫌なゴリラだったのに、あの愁いを帯びた横顔……。はぁ。私、どうしちゃったのかしら……」❞
『美女!どうしちゃったのよ!』
『正気に戻って!』
『でもゴリラ王子、だんだん素敵になってきたんじゃない?』
『それにしても、美女ならもっといい人と出会えると思うのよ!』
物語も中盤に差し掛かり、ご婦人フェンリルたちもだいぶ熱が入ってきた。ライリエルやママ、おばあちゃんも、ワクワクしながら聞いている。
❝ ―― 中略 ――
「やっぱり、私のようなゴリラでは、美女を振り向かせることは出来ないのか……」❞
『ゴリラ王子!そんな弱気でどうするの!』
『そうよ!序盤の自信満々はどこに行ったのよ!』
『諦めんなー!ゴリラ王子!』
❝ ―― 中略 ――
「私の手をとってくれ!必ず君を幸せにすると誓う!」
「ゴリラ王子!」
美女が手を差し出したが、その手を掴むよりも早く、狩人が放った矢がゴリラ王子を貫いた。❞
『あぁ!なんてこと……!』
『狩人め!私が食い殺してやる!』
「ちょっと!落ち着いて!」
『これが落ち着いていられるかってのよ!』
『いや、流石に落ち着きましょう!続きをお願い!』
❝ ―― 中略 ――
「あぁ!呪いが解けた!人間に戻ったぞ!」
「ゴリラ王子!あなたなのね!えぇ、分かるわ!魔法が解けてもほとんど変わらないそのお顔!」
そして手を取り合い、見つめ合う二人。
その後、ゴリラ王子と美女は城に戻り、盛大な結婚式を挙げました。
やがて王位を継いだゴリラ王子は、領民の声に良く耳を傾け、誰もが豊かに暮らせる国づくりに尽力しました。その立派な治世に、人々は親しみと尊敬を込めて、彼を『ゴリラ王』と呼ぶようになったのです。
ゴリラ王と美女は、その後も末永く幸せに暮らしました。
おしまい。❞
『ゴリラ王子……立派になって……』
『あぁ……美女ぁ……』
『よかったわねぇ……ぐすっ!』
ふぅ。ご婦人フェンリル方が終始口をはさんで邪魔してきたけど、何とか今日中に読み終えることができた。
他のフェンリルたちも満足そうな様子だから、まぁ、良しとしよう。
『リア!見て!』
「あっ!世界樹の種が光ってる!」
ライリエルに言われ、世界樹の種を植えた場所を見てみたら、周辺の土が薄っすらと光っていた。
やった!幸先は良さそうだ。




