第90話 フェンリルたちへのお土産
ローラにお土産を渡した翌日、今度はフェンリルの里に向かった。
こちらには、えっちゃんと師匠がエルフの里の米のお酒を買っていたはずだ。オーレリアは酔っ払っていたせいで、どんな物を買ったのかは知らないが……。
転移魔法陣でフェンリルの里に移動すると、広場にはだいぶ雪が積もっていた。
『わぁ!ゆきがいっぱい!』
『すごくつもってるね!』
『冬だからな!まだまだ積もるぞ!』
「そうなんだ!でもこれじゃあ、みんなで集まれないね」
『大丈夫だよ!雪は風で吹き飛ばしちゃうから!』
そう言ってえっちゃんは、大きな風魔法で積もっている雪を吹き飛ばした。ゴォーっと大きな音を立てて派手に雪を巻き上げたので、里のフェンリルたちが何事かと集まってきた。
『どうしたんだ!?』
『なにごとじゃ!?』
『あれ?エルディオールじゃない!』
『オーレリアだ!』
『ノル!ネロ!遊びに来たの?』
長であるおじいちゃんや、えっちゃんの家族もぞくぞくとやってくる。
『ビックリさせてごめん!俺たち今日は、ハイエルフの里のお土産を持ってきたんだよ!』
『おお!オーレリアの里帰りじゃったな!ハイエルフの里はどうじゃった?』
『みんなおかえり!お話聞かせて!』
『よし!じゃあパパが獲物を獲ってこよう!』
『あ、父さん大丈夫だよ!俺たち竜を狩って来たんだ!』
『なんだってー!!』
『えー!竜?竜を狩ったの?』
『すごーい!エルディオール!』
シャノンとヴァイゼルが、えっちゃんの周りをピョンピョン飛び回っている。
『おれたちも、りゅうたおしたもんねー!』
『ぼくたちも、がんばったもんねー!』
フェンリルの着ぐるみ姿のノルとネロが誇らしげに言うと、シャノンとヴァイゼルと一緒になってピョンピョンし始めた。……可愛い!
そういう訳で、また広場で焼肉パーティーが開催されることとなった。里帰り中、ノルとネロとえっちゃんは、大容量になった新しいマジックバッグに蒼の森の魔物をたくさん詰め込んできていた。それらをオーレリアが解体して、すぐに焼けるように準備してきたのだ。
そして今回は、オーレリアも落ち着いて食事ができるように、ニックとレミーも連れてきていた。ニックには唐揚げを作ってもらい、レミーには平べったい大きな岩で肉を焼いてもらうことにする。
『にっく、れみー!おれたちのぶん、ちゃんととっといてよ!』
『ぼくも、からあげたくさん、たべたいんだから!』
ノルとネロはフェンリルたちの食べる速度に付いていけないので、しっかりとお肉を確保すべく根回しをしていた。
えっちゃんはといえば、エルフの里で師匠に買ってもらったお米のお酒を取り出し、おじいちゃんとおばあちゃん達に勧めていた。まさか、樽で何個も買っていたとはね……。
レミーに焼いてもらった蒼の森の魔物肉を、フェンリルたちはとても喜んで食べてくれた。特にメインの蒼森竜のステーキを焼いたときは、フェンリルたちも目の色を変えた。
それでも、レミーの手際の良さとおじいちゃんの牽制のおかげで、揉めることなくちゃんとみんなにお肉が行きわたった。
『うまーーーーい!』
『すごい!竜の肉なんて初めて食べた!』
『とろける~!』
『美味しいわねぇ!それになんだかポカポカするわ!』
と、こんな感じでとても満足してくれたようだ。
そのあとは、お酒を飲みながらゆっくりとした食事に移行した。米のお酒は温めても美味しいとのことだったのでレミーに湯煎してもらったら、寒い雪山でも身体がポカポカ温まると大変好評だった。
ちょっとだけ悔しいオーレリアだったが、お酒を飲まない甘党のフェンリルたちを集め、エルフの里で購入した高級茶葉でお茶を入れ、和菓子と一緒に楽しんだ。
『ハイエルフの里は凄かったぞ!魔素の量がこっちとは比べ物にならなくてさぁ!』
『ほう。話には聞いたことがあったが、それほどか!』
『それに、蒼の森って本当に全部青いんだ!綺麗だったなぁ!』
『ぜんぶ、あおいの!これ、おみやげの、どんぐり!』
『あおい、まつぼっくりもあるよ!』
『うわー!きれーい!』
『すげー!こんなに青いどんぐり、初めて見た!』
えっちゃんがハイエルフの里の様子を、嬉しそうに話している。やっぱり、あの魔素の量は魅力的だったようだ。
ノルとネロは蒼の森で拾った真っ青でツヤツヤのどんぐりと松ぼっくりを、シャノンとヴァイゼル他、子供フェンリルたちのお土産にしたようだ。
小さな子供たちで頭を寄せ合ってどんぐりを眺めている。やっぱり、防寒着の着ぐるみをフェンリルにしてもらって正解だった。苦労した甲斐があったというものだ。
ひとしきり里帰り中の出来事を話していたら、おじいちゃんが意外なことを言い出した。
『そういえば、魔の森のダンジョンだが、20階層より下に進む階段が出現したぞい』
なんと!フェンリルたちはダンジョンを見つけてから毎日、飽きもせずに遊びに行っていたらしい。そうしたらとうとう先に進む階段が出現したのだとか。
下の階に進めば進むほど敵は強くなり、今は40階付近まで進んでいるのだそうだ。
『え!俺も行きたい!』
『おれもー!』
『ぼくもー!』
三匹が期待を込めた目でこちらを見つめてくるが、オーレリアは行きたくない。
「う〜ん。わたしは世界樹の種を植えたりしないといけないから、お留守番してるよ!みんなで行ってきていいよ!」
『え?リア行かないの?』
『なんでー?』
『いっしょに、いこうよ!』
「だって、虫がでるし」
大きいのよね、とにかく……。ほんと無理。
『それなら大丈夫よ!一番最初のビーチから、10階層ずつショートカットできる魔法陣が出現したから、ジャングルを通らずに先に進めるわ!』
ライリエルから新情報がもたらされた。すごいね、ダンジョンって……。
『それに、今のところ20階より下では虫は出てきてないよ!ね、ママ?』
『そうね、虫は見ていないわね』
パパもママも、しっかりダンジョン探索を楽しんでいるらしい。
『むしいないんだってー!』
『りあ、よかったねー!』
『これならみんなで行けるな!』
「あぁ、うん……そうだね……」
正直なところ、みんなのようにダンジョンでわくわくできないオーレリアは、微妙な返事で誤魔化した。
『オーレリア。世界樹の木を植えるのかい?』
ふと思い出したように、おばあちゃんが尋ねた。
「うん。精霊を増やすのにいいって女神様に聞いたから、蒼の森にある世界樹の木に種をもらってきたんだよ。聖域の湖の畔に植えようと思って!」
『それはいいねぇ。おばあちゃんは昔、この大陸の西の果てにある世界樹の木を見たことがあるけれど、そこはとっても素敵な場所だったんだよ。聖域の湖に世界樹の木があったら、今よりもっと素敵な場所になるだろうねぇ。楽しみだわぁ』
「芽が出るまでは大変らしいけど、読み聞かせ用の恋愛小説もたくさん持ってきたからね。準備はバッチリだよ!」
『え?恋愛小説?』
『なんで?』
『読み聞かせをするの?』
なぜかご婦人フェンリル方が食いついてきた。
「なんかね、世界樹の種は土に植えたあと、話しかけてあげると育ちがいいんだって。それで、特に恋愛話が好きらしいから、それ用の本をたくさん用意したんだよ」
『それってつまり、毎日世界樹の種のところに行けば、面白い恋愛物語が聞けるってことよね?』
「まぁそうだね。面白いかどうかは分からないけど」
なにしろオーレリアは、その手の本を読んだことがないから分からないのだ。本屋のネレインに面白いとおすすめされたけど、変な題名の本ばかりだったし、ちょっと疑わしい。
『私そういうお話だぁ~い好き!』
『わかる~!』
『あのドキドキ感がたまらないのよね~!』
『わかる~!』
『エモい感じとか!』
『わかる~!てぇてぇのよ~!』
『オーレリアちゃん、種を植えたら教えてね!私たちも絶対に行くから!』
「う、うん……わかった」
フェンリルって人の恋愛話に興味あるんだ……。
盛り上がるご婦人フェンリルたちの話に全くついていけないオーレリアだった。




