第89話 ローラへのお土産
翌日、オーレリアたちはゼフィの家の前の広場に集まっていた。
「リア。これも持っておいき!」
「これも!あとこれも持っていきな!」
「わぁ!こんなにたくさん、ありがとう!」
オーレリアが魔の森に出発するということで、集まった里の人たちが食べ物やら何やらを持たせてくれる。
「オーレリア!シャンプーとリンスに化粧水。こっちはハンドクリームね。それから、マナポーションを持っていきなさい。帰ったらすぐに飲むといいわ」
「イヴェット!ありがとう!」
そうだ、魔の森は魔素が少ないからまた気絶しかねない。気をつけなきゃ。
「リア!私のご飯がなくなったらいつでも帰ってきなさい!」
「うん!そうする!」
アルシアはオーレリアが持ち帰れるように、暇な時間にたくさん料理を作ってくれていた。こちらは昨日のうちに全て収納済みだ。
同じレシピでつくっても、オーレリアとレミーでは、アルシアの味にはたどり着けないのだ。大切に食べよう。
「オーレリア!本当に送っていかなくて大丈夫か?また気絶するかもしれないぞ?」
「大丈夫だよ、ゼフィ。あっちにも大分慣れたはずだし、イヴェットがマナポーションをくれたし」
「そうか?無理するなよ?早めに魔法陣を作るといいぞ!」
「わかった。じゃあみんな、行こうか!」
里の人たちと挨拶していたノルとネロとえっちゃんを呼び寄せる。
「ちょっと待って!リアちゃん!」
「セリアン?どうしたの?」
「今回はリアちゃんにたくさん私の服を着てもらったからね!お礼とお詫びに、冬用の洋服一式をプレゼントするわ!」
「え?フリルがたくさんついてる?」
「ついてないわよ!あなたがいつも着ているような服の、冬用って感じかしら」
「ありがとう!でも、いつものでも十分なのに」
「いくら魔法がかけられているからって、冬にペラペラの外套じゃ寒そうに見えるでしょう?町に行ったら変な目で見られるわよ?」
「なるほど!ありがとう、セリアン!」
「いいのよ!魔の森での生活、頑張りなさい!」
「うん!セリアンも王都で頑張ってね!」
「じゃあね、みんな!」
『ばいば~い!』
『またね~!』
『またなー!』
オーレリアは転移魔法を発動する。眩い光につつまれて、ヒュンっと一瞬で魔の森に帰っていった。
「あっさりしたものだ」
「フフ。リアらしいわね!」
「さすが、イゾルデの弟子だわ!」
***
一方、六日ぶりに魔の森に帰ってきたオーレリアはというと……
「ふぁぁぁあ゛!身体が重い!」
帰ったとたん、庭先でがっくりと膝をついた。
『なんかズッシリくるな!』
『ちょっとだるいよね!』
『うん、ちょっとね!』
「あ゛あ゛あ゛〜」
『りあ!だいじょうぶ?』
『リア!気を確かに持つんだ!』
『りあ!はやく、まなぽーしょん!』
オーレリアは先程イヴェットにもらったマナポーションを一気に飲み干した。
「ゴクゴク……ハァ、助かった!イヴェット!ありがとう!」
フラフラしながら辺りを見渡すと、なんと雪が降っていた。
「わぁ!雪が降ってる!道理で風が冷たいと思ったよ」
『わ〜い!ゆきだ~!』
『ちょっと、つもってる~!』
『畑の野菜は大丈夫なのかな?』
畑の野菜にも雪が積もっている。その周りにはノーグが歩き回った跡がうっすらと残り、降り続いた雪がその跡を少しずつ覆い始めていた。
雪の中を走り回って遊ぶノルとネロ。えっちゃんはちょっと怠いのか、別に雪が珍しくないからか、オーレリアの側でその様子を眺めている。
「えっちゃん。ノルとネロは放っておいて、家に入ろう」
『そうだな。あいつら元気だなぁ』
オーレリアはその後、三日間ほど家に引きこもった。初めてここに来たときは、気絶して二日間も寝ていたし、そのあと十日間ほど引きこもっていたことを考えれば、だいぶ成長したと言っていいはずだ。
「よし、もう大丈夫!とりあえず今日は、ローラのところに行かない?」
『いいね!ひさしぶり』
『ろーら!げんきかな?』
『ローラなら、雪の中でも元気そうだよな』
オーレリアはさっそく、セリアンにもらった冬用の服に着替えてみた。今までのものより厚手の生地だし、タイツも裏起毛で温かい。ブーツも長めで、底も滑り止めがついていて雪の中でも安全に歩けそうだ。紺色のコートは冬仕様で温かく、いつもの外套のようにさまざまな保護魔法が付与されていた。
「この保護魔法はルカが付けてくれたのかな?軽いしいい感じ!」
さらに手袋とニットの帽子もセットで付けてくれていたので、それらもしっかりと被って外に出た。
「あれ?なんか、引きこもってた間にだいぶ雪積もったね?」
『うん!きのうは、すごくいっぱいふってたよ』
『ちょっとはなれたら、みえなくなっちゃうの!』
『昨日はかなり吹雪いてたんだぞ!ノルとネロはすぐに埋まっちゃうから、遊ぶのも大変だったんだ!』
「そんな日は家の中で遊びなよ!」
ハイエルフの里から帰って来た日から、さらに雪は降り積もったようだ。少し雪をかぶっているだけだった畑の野菜も、今では一面雪に覆われ、どこになにが植えてあるのか分からないほどになっていた。
山の木々も空も白く染まり、いつもの森はすっかり雪景色へと様変わりしていた。
「なんだか綺麗だね!じゃあえっちゃん、お願いね!」
『おう!』
えっちゃんに乗って、ローラたちグラスブルがいる山を目指す。
途中で通った聖域の湖にも雪が降り積もっていた。それでも雪の下からは、絵の具を溶かしたような淡い水色がぼんやりと透けて見える。まるで雪のヴェールを纏っているようで、とても美しかった。
山に到着すると、いつものように草原で雪をかき分け草を食んでいるローラたちを見つけた。
「ローラ!久しぶりー!」
『おや?お嬢ちゃんじゃないかい!久しぶりだねぇ!』
『わーい!ろーら!あれ?』
『ろーら、おおきくなった?』
『毛がモコモコになってる!?』
ローラは全体的にモコモコの毛並みになっているが、肩や首周りの毛が特にクリンクリンに膨らんでいて、以前会ったときより一回りは大きく見える。
『そりゃあ、冬なんだから当り前さね!』
「冬毛なんだ!モコモコで可愛いね!」
『バッ!お嬢ちゃんたら!可愛いだなんて照れるじゃないか!』
「相変わらず元気そうだねローラ。実はわたしたち、里帰りしてきたんだ。ローラたちにお土産があるんだよ!気に入ってくれるといいんだけど」
『お土産?なんだい?』
オーレリアは空間収納から、大量の蒼の森の葉っぱを取り出した。蒼角牛が好んで食べる葉っぱを、試しに持ち帰ってみたのだ。
『お嬢ちゃん!何だいこの葉っぱは?真っ青じゃないか!』
「これは蒼の森っていう、わたしの故郷の森に生えている葉っぱだよ。魔素がたっぷり含まれてて、蒼の森の牛たちもこの葉っぱが大好物なんだって!」
『へー。そうなのかい?一体全体、なんだってどうしたってこんなに青いんだろうね?』
「そういう森だからね。やめとく?いつもの岩塩もあるよ?」
『ちょいとお待ちよ!せっかくお嬢ちゃんからもらった土産を、ビビって食わねぇなんて女が廃るじゃないか!ちゃんと頂くよ!』
「う、うん。じゃあどうぞ!」
『……』
「……」
『……』
「……」
『……』
「……ビビってんじゃん」
『バッ!ビビってねーし!お嬢ちゃんはそこで黙ってみてな!!このあたしの生き様をよぉ!!!』
――ムシャムシャ
『う!』
「う?」
『うまーーーーい!』
「美味いんだ。ならよかった!」
『キャハハハハハ』
『ろーらおもしろーい!』
『美味いのかよ!ずいぶん大げさな気合を入れていたな!』
たしかに、生き様がどうのこうの言ってたよね。まぁ、青い色の食べ物ってちょっと躊躇しちゃうよね。分かるよ。
『なんなんだい、この草は!味もいいが、身体がポカポカ温かくなるよ!』
「魔素をたっぷり含んでいるからね。元気が出るよ!」
『ちょいとみんなを呼んでくる!小さい子たちにも食わせてあげなきゃね!』
「うん。たくさんあるから、この辺に置いとくね。皆で食べて!」
『ありがとうよ!お嬢ちゃん!』
ローラは大きな声で仲間たちを集め、ムシャムシャと青い葉っぱを食べている。みんな気に入ってくれたようで最後の一枚まで綺麗に食べ切った。
その様子を、のんびりお茶を飲みながら眺めていたのだが、
『さぁ!お嬢ちゃん!今日も好きなだけミルクを持っていきな!』
ローラがそういうと、搾乳希望の牛たちがずらりと並んだ。
「あ、こんなにたくさん?」
『なーに、遠慮することはないさ!こんなに美味しい葉っぱをもらっちまって、タダで帰せるわきゃないだろうが!』
「いや、お土産だから気にしなくていいよ?」
『何言ってんだい!グラスブルってぇのは、そんなしみったれじゃないよ!』
「いや、でも……」
『りあ、がんばれー!』
『おれたち、あそんでまってるから!』
『夜ごはんのことは気にしなくて大丈夫だぞ!アルシアにもらったのがいっぱいあるからな!』
今日はお土産を渡すだけのつもりだったのに……。搾乳の魔道具ってないのかな?いや、なくても作らなくては!ルカに相談してみよう。
「…………ハァ」
こんな時こそローラを見習って気合を入れたいところだが、カッコいい言葉が思いつかなかったので、黙って乳搾りに向かうオーレリアだった。




