第85話 恋愛小説
レネインの本屋に向かって歩いていると、狩人の一人であるハルドールという青年に声をかけられた。
「よう!オーレリア!今日はまた珍妙な格好をしているな!」
「珍妙……セリアンに言っとくね」
「あ~!スマン!不思議パンツスタイルもまた、とても素敵です!」
「……はぁ。それでハルちゃん、何か用?」
「小さい頃お世話してやったのに、なんかつれないなぁ」
「ハルちゃんにお世話になった覚えはないよ。ぜんぜん遊んでくれなかったくせに!」
ハルドールは、実はオーレリアと一番年が近いハイエルフなのだが、年齢はすでに九百歳を超えている。
長らく里で最年少だった彼は、自分より年下がやって来たことを、それはもう喜んだ。ようやく自分が里で一番年下ではなくなったのだ。しかも、里のみんなはオーレリアの世話に夢中。これ幸いとばかりに、彼は狩人業に精を出すだけでなく、以前ならそうそう足を延ばさなかった遠方へ遠征したり、町へ出かけたりと、すっかり羽を伸ばしていた。
それ故、オーレリアはハルドールにお世話になった覚えがまったくないのだ。
「そうだっけ?それよりさ、明日俺たち蒼森竜を狩りに行くんだけど、一緒にどうだ?エルディオール、この間蒼森竜狩りに行きたいって言ってたよな?」
『え!竜を狩りに行くの?行きたい!行きたい!』
『おれも、いきたい!』
『ぼくもいく!』
あれ?ノルとネロまで。寝ていると思ったのに。
「そっか。わたしは明日、世界樹の泉に行く用事があるんだけど、その間この子たちは暇になっちゃうから、この子たちだけ連れて行ってくれる?」
「おう!もちろんいいぜ!」
『リア、いいのか?』
『ひとりで、だいじょうぶ?』
『さみしくない?』
「ふふ。大丈夫だよ。明後日には魔の森に帰っちゃうからね。せっかくだから楽しんできて!」
『『『やったー!』』』
「じゃあ明日の朝、森の入り口でな!」
「うん!よろしくね!」
ハルドールは颯爽と去っていった。基本的にはいいやつなんだけど、たまに口が悪いんだよね。……いや、待って。冷静に考えたら確かに珍妙な格好か。ハルドールが正しいかも。
竜を狩りに行けることが決まって、ノルとネロとえっちゃんはウキウキで歩いている。
『楽しみだなぁ!大きな竜なのかな?』
『おおきさは、えっちゃんぐらいだよ!』
『むれだから、たくさんいるんだよ!』
『そうか!それで、竜だから当然――』
『『『美味!』』』
わーきゃー盛り上がっていて可愛い。明日はオーレリアが世界樹の泉にいる間、その辺で狩りでもしていてもらおうと思っていたからちょうどよかった。
道の先に本屋が見えてきた。オーレリアが通い慣れたネレインの本屋だ。
扉を開けて中に入るとチリンと小さな鈴の音が聞こえ、奥のカウンターに座っていたネレインが顔を上げた。
「こんにちは~!」
「あら、オーレリア。こんにちは!珍しい格好ね。今日はどんな本をお探し?」
「恋愛系の本がたくさん必要なの」
「あらあら、珍しいこと!それならこっち側に並んでいるわよ。恋愛話だなんて、オーレリアも大人になったのねぇ」
「世界樹の種に読み聞かせするんだよ。それが一番いいってイヴェットに聞いたんだ!」
「なんだ、そういう理由なのね」
「ん?」
「まぁ、恋愛なんて私たちにはなかなか理解できない感情だけれど、でも読み物としてはすごく面白いのよ!」
「へー、そうなんだ」
そこでは分かりやすくジャンルごとに分けられていて、【純愛】【ラブコメ】【悲恋】などさまざまな本が本棚に並んでいた。
「ねぇ、ネレイン。女神様だったらどんなのが好きだと思う?」
「女神様?どうして女神様なの?」
「う〜ん。イヴェットの師匠が、世界樹は女神様みたいって言ってたんだって」
「へ〜、そうなの?そうねぇ、女神様だったらやっぱり、【青春】とか【王子様】系かしら。甘酸っぱい感じのが好きな気がするわ」
「甘酸っぱい?味があるの?」
「そうじゃないんだけど、なんていうか、そんな気持ちになるのよ」
ふ〜んと、さっぱり意味が分からないオーレリア。一つ一つ本の題名を読みながら進んでいくと、気になる題名が目についた。
「“101回目の婚約破棄”……もう結婚は諦めたほうがいいんじゃないかな。“世界のすみっこで、愛をささやく”……目立ちたくなかったのかな?“ショートバケーション”……時間がなかったのかな?……う~ん、これ本当に面白いの?」
「面白いから、全部読んでみなさいよ!読み聞かせるんでしょ?」
「そうだけど……“美女とゴリラ”って……。これ本当に恋愛もの?あってるの?」
「あってるわよ!その本はね、性格が悪すぎて魔女にゴリラに変えられてしまった王子様が、意外といい男に成長していく過程が面白いの!そのゴリラにうっかり見染められてしまった美女のお話よ。大人気でお芝居にもなった有名な作品なんだから!」
「えぇ!人気なの?……嘘だぁ」
「特にゴリラがバラを口にくわえているシーンが妙にイケメンだって有名なのよ」
「本当なの?何でそんなシーンが……」
「私のおすすめの本を準備してあげるから、持っていきなさい」
「うん……ありがとう。これ、スプラフロッグがドロップしたいろんな色のインクなんだけど、いる?」
「あら、ありがとう!挿絵を入れるのに使えそうね。あと、できれば世界樹の泉に行ったときに泉の水を汲んできて欲しいわ」
「うん、それなら明日行くから採ってくるね」
「助かるわ!じゃあ、本はこれね。楽しんで!」
「ありがとう!」
大量の本を入手して本屋を出たオーレリアたち。すっかり夕方になってしまったので、アルシアの食堂に戻ってきた。
「ただいま~!」
『『『ただいま~!』』』
「おかえりなさい!ちょっとヤダ、あなた達ったらなんて可愛いの!」
アルシアはえっちゃんの鞄を褒めたり、ノルとネロの可愛さにメロメロになったりと忙しい。
オーレリアはカウンター席に座り、魔法陣の本を取り出した。ハイエルフの里の家と、魔の森の家を繋げる魔法陣のお勉強だ。距離が離れているため魔法陣は複雑になるし、間違えたら大変なのでしっかりと下書きしてから挑みたい。
「セリアンはとってもいいものを作ってくれたわね!今日のリアの服のコンセプトは何かしら?」
アルシアはノルとネロを抱っこして モフモフを堪能しながら言った。
「え〜っと、何だっけ?忘れた」
「フフ。あと一日の辛抱よ」
「明日はセリアン渾身のドレスなんだって!……怖いよぉ」
「アハハハハ!楽しみねぇ!」
「酷いよアルシア!他人事だと思って!」
明日は森に行くのに、一体どんなドレスなんだろう。なるべく地味であれと願うが、セリアン渾身のドレスが地味な確率は限りなく低い。
「ウフフ、まぁまぁ。今日は炊き込みごはんよ!たくさん食べて元気出しなさい!」
『わーい!たきこみごはんだ!』
『やったー!たくさんたべるー!』
『お肉もある?』
「もちろんあるわよ!今日は鶏肉をたくさん貰ったから、照り焼きチキンとチキン南蛮を作ったわよ!」
『『『やったー!』』』
オーレリアたちはキノコがたっぷり入った炊き込みご飯と、根菜がゴロゴロと入ったお味噌汁、そして二種類の味のチキンを頬張って、明日へのエネルギーをチャージした。
『ぼくたちね、あした、りゅうをかりにいくんだよ!』
『そう!ハルちゃんが、つれていってくれるんだ!』
「あら、リアと一緒じゃないのね?」
「うん。えっちゃんが蒼森竜を狩りたいって言ったのを覚えてたみたいで、声をかけてくれたの。わたしが世界樹の泉にいる間は退屈だろうから、みんなを連れて行ってもらうことにしたんだ」
「そう。それじゃあ今日は早く寝たほうがいいんじゃない?リアも忙しいわねぇ」
「そうなの!一日ぐらい家でのんびり過ごしたかったよ」
食事を終えたオーレリアたちは、明日のために早めに自宅へと戻り、お風呂に入った。明日のことを思い、ワクワクしている三匹をなだめつつ、寝室への階段を登る。
「ちゃんと寝るんだよ?寝坊したらおいてっちゃうからね!」
『だいじょうぶだも~ん!』
『ちゃんとねるも~ん!』
『こういう時は、大体リアが寝坊するんだ!』
「そんなことは……でも、確かにそうかも!目覚まし時計セットしとこう!」
明日は里帰り最終日。みんなが楽しく過ごせるといいな。




