第83話 マジックバッグ②
着ぐるみ姿のノルとネロを交互に抱っこしてはデレているオーレリアだったが、まだえっちゃんのバッグを見ていないことをようやく思い出した。
「あ!そうだ!えっちゃんのバッグも見なきゃ!」
「あぁ、そうだったわね!エルちゃんのバッグはこれよ!」
「おぉ!」
セリアンが取り出したのは、青くて綺麗なバッグだった。雪の結晶と月のモチーフをあしらった上品なデザインだ。
『わぁ!綺麗なバッグだな!』
「蒼角牛の皮だね。良い色だ!」
「これ、どうやって使うの?」
「これはね、ハーネス型になっていて、バッグは左の脇腹あたりにくるのよ」
今までの首から下げていたバッグとは違い、首と胸にベルトを通してバッグは体に沿わせたようなデザインになっている。それにより動きやすく、走ったり魔物と戦ったりしても邪魔にならないような設計となっていた。
「簡単だから、リアちゃんがつけてあげて!」
「うん。……こうして……こうかな?おお!えっちゃんカッコいい!」
『俺、カッコいい?』
『うん!かっこいいよ!えっちゃん!』
『すごくおしゃれだよ!』
「まぁ!とってもいいじゃない!白い毛並みに青いバッグがよく映えるわ!どう?動きにくくない?」
『うん!全然邪魔にならないよ!すごいね、セリアン!』
「そうでしょう?私は凄いのよ!でもこのバッグにはまだ魔法の付与はしていないから、ただのお洒落なバッグなの。リアとルカがやってくれるんでしょう?」
「うん!やる。いっぱい入るようにしないとね!」
「こんなに綺麗なバッグなんだから、他にもいろいろ魔法を付けたほうがいいよ!」
そうして今度はオーレリアとルカが、えっちゃんのマジックバッグに付与する魔法をあれこれと考え始める。
「マジックバッグは、空間魔法と重力魔法をかければいいんだよ。あとは時間停止とかもあると便利だよね」
「なるほど、それでいいのか。じゃあ耐物理や耐魔法などの保護系の魔法と万が一傷がついたときのために自動修復機能も付けておこうか。あとは――所有者認証もつける?」
「ちょっと、とんでもないバッグになりそうね」
「ルカ!それならノルとネロのバッグにも同じ機能を付けたい!」
「そうだね!みんなお揃いにしよう!」
ルカのおかげで、セリアンが言った通りとんでもない性能のバッグが出来上がった。バッグ自体の容量も以前の倍以上に増やした。魔の森では魔力をたくさん使うと疲れてしまうオーレリアだったが、ハイエルフの里の豊富な魔素なら、これくらいの魔法を使ってもなんてことないのだ。
ルカが手伝ってくれたおかげで、ノルとネロのバッグもアップグレードすることができた。
さらに、ノルとネロがリュックを背負ったときの様子を見て、セリアンが微調整してくれたので、それはもう大満足の仕上がりだった。
『わーい!おれ、かっこいい!』
『わーい!ぼくも、かっこいい!』
『リア、セリアン、ルカ!ありがとう!俺、大事にする!』
『『ありがとー!』』
「みんな凄くかっこいいよ!わたしも今日までセリアンのドレスコーデに付き合ってきた甲斐があったよ!」
里に来てから毎日、派手なヒラヒラ衣装を着たりして大変だった。でもみんなの喜んでいる顔を見ていたら報われた気がした。
「あら、リアちゃん?ドレスコーデは明日まであるわよ?」
「え?……そうだっけ?バッグもできたことだし、もういいんじゃない?」
「だって、里にいる間毎日って約束よね?明日まではいるんでしょう?」
「あ~……いるかも……」
「明日は私の渾身のドレスにしようと思ってるの!今から楽しみだわ!」
明日のドレスはもう決まっているらしい。セリアン渾身のドレスってどんなのだろう。ちょっと、いや、かなり怖い。
それでも、とりあえず今日のところは用事は済んだので、ルカと共にセリアンの家を後にした。
「セリアンはずいぶん楽しみにしていたね。明日のドレスも気になるなぁ」
「わたしは嫌な予感しかしないよ……」
「アハハ!それじゃあ僕は行くね。また面白い魔道具を作るときは声をかけてくれ!」
「うん、ありがとう!またね!」
『るか、またねー!』
『バイバイ!』
『ルカ、バッグの魔法ありがとう!』
ルカはニコニコと手を振って帰っていった。
『リア、今日はどうするんだ?』
『もうすぐ、おひるごはんだよ?』
『きょうは、おうちでのんびりするの?』
「今日はイヴェットのところに行こうかな。世界樹について教えてもらいたいんだよね」
『イヴェットって、凄い酔い覚ましを作った人だよね?』
「そうだよ!植物に詳しくて、凄腕の薬師なんだよ!」
イヴェットの家はオーレリアの家の近くにある。こちらも樹の家だが、庭には様々な薬草や花がきれいに植えられていて、手入れの行き届いた落ち着いた雰囲気だった。
トントンとドアをノックすると、ドアが開きイヴェットが顔を出した。
「あら、オーレリア。今日は珍しい衣装ね!どうしたの?」
「こんにちは!イヴェット。実は、ちょっと聞きたいことがあって」
「そう?それなら中へどうぞ」
「おじゃましまーす」
家の中に入ると、乾いた薬草と花の優しい香りがふわりと鼻をくすぐった。天井には薬草や花束がいくつも吊るされ、木の棚にはガラス瓶や陶器の小さな小瓶が綺麗に並んでいる。窓辺では小花柄のカーテンが風に揺れ、どこか懐かしい空気が流れていた。
「ここに座っていて、今お茶を入れるわね」
「ありがとう」
リビングのテーブルに座ると、イヴェットはオーレリアに薬草茶を、ノルとネロとえっちゃんにはミルクを入れてくれた。
「それで、聞きたいことって何かしら?」
「あのね、魔の森で精霊を増やすのに、世界樹の木を育てるといいって女神様に聞いたの。それで、図書館で育て方を調べたんだけど、なんだか運まかせでさ。そしたら師匠がイヴェットなら何か知ってるかもって言うから聞きに来たの」
「なるほど、世界樹の木ね。蒼の森の世界樹は私の師匠が植えたものだけれど、私が弟子入りしたときにはもうけっこう育っていたのよ。だらか、実際に育てたわけではないのだけど、聞いた話でよければ教えてあげるわ!」
「ほんと!助かる!」
『りあ!おれ、おなかすいた』
『ぼくも、おなかすいちゃった』
『もうお昼だぞ!』
気付けばもうお昼になっていた。セリアンのところでマジックバッグに夢中になっていたから、けっこう時間が経ってしまっていたようだ。
「あら、もうお昼なのね。それじゃあ食べながら話しましょうか」
イヴェットが空間収納からサンドイッチをたくさん取り出して、テーブルに並べていく。
「わぁ~!美味しそうなサンドイッチだね!」
「ウフフ、カミーユがたくさん焼いてくれたのよ。朝露花からとれる天然酵母をあげたらとても喜んでくれてね」
「朝露花って、明け方に30分ぐらいしか咲かない花だよね?」
「そうよ。それがね、なぜだか満月の翌朝に採取したものは、いつもよりも活発に発酵していたの。それで試しに使ってもらったら、とてもフワフワのパンになったのよ!」
「へー!イヴェットは酵母も作っているの?」
「たまたまよ。薬に使おうと思って採って来たのだけど、ちょっと多めに採れたから試しにやってみただけなの。さぁ、食べましょう!」
サンドイッチは、いろいろな種類の具材が挟まっていて目移りしてしまう。オーレリアがよく作るハムレタスサンドや、たまごサンドの他、ベーコンレタストマトサンドや、照り焼きチキンサンド、とんかつサンドやアボカドサンドなど様々だ。
「いただきま~す!」
ノルとネロとえっちゃんが夢中でサンドイッチを頬張る中、イヴェットは当時のことを思い出しながら話してくれた。
「私の師匠がよく言っていたわ。世界樹の木は女神様のようだと」
「え?女神様?」
どういう意味だろう、とオーレリアはキョトンとしてしまった。




