第82話 スチームパンクとフェンリルコーデ
翌日は、師匠が仕事のため別の世界に戻る日だった。
朝のうちに帰るというので、朝食後アルシアと一緒に師匠を見送るため、里長の家の前の広場へとやって来た。
広場には、里長のゼフィをはじめ、師匠にゆかりのある人々がお見送りに来ていた。師匠はそれぞれの人たちと挨拶を交わし、最後にオーレリアのところへと戻って来た。
「それじゃあね、リア!頑張るんだよ!」
「うん!師匠も頑張ってね!」
「ノル、ネロ、えっちゃん!リアのことを頼んだよ」
『おれにまかせて!』
『ぼくがついてるよ!』
『俺がいるから大丈夫だよ!』
「ハハハ!頼もしいな。良かったね、リア。くれぐれもお酒は飲まないように!」
「わかってるよぉ」
「ちょっとだけだと言われても断るんだぞ!リアは押しに弱いからなぁ」
「もう!大丈夫だってば!」
「フフフ。じゃあ私は行くよ。また来年会おう!」
師匠はオーレリアの頭をガシガシと撫でると、転移魔法で行ってしまった。
また来年か……。しばらく会えないのは寂しいけど、次に会うときに色々いい報告ができるように頑張ろう!
アルシアが、師匠のせいでぼさぼさになってしまったオーレリアの髪を整えていると、お見送りの一団の中からセリアンがやって来た。
「リアちゃん!ノルとネロの着ぐるみとエルちゃんのバッグが出来たわよ!」
「やったー!セリアンありがとう!」
「今日のコーデのこともあるし、今から私の家にいらっしゃい」
「うん、行く!じゃあねアルシア、行ってくる!」
「悪いわね、アルシアちゃん!ちょっと借りるわ!」
「はいはい、いってらっしゃい!」
オーレリアがノルとネロとえっちゃんとセリアンの家に向かって歩き始めたとき、師匠のお見送りに来ていた人の一人が声をかけてきた。
「オーレリア、セリアン、僕も見せてもらっていいかな?」
「あ、ルカ!ルカもノルとネロの着ぐるみ姿が見たかったの?」
「違うよ。いや、それも見たいけど、マジックバッグをつくるんだろう?」
「そうだよ。なんで知ってるの?」
「セリアンに聞いたんだ」
彼の名はルカといって、魔道具の研究をしている男性だ。師匠やセリアンとは割と年が近く、仲がいいらしい。癖の強い二人とは違い、とても穏やかな人だ。
ちなみに、オーレリアが一番最初に名前を覚えた人でもある。ハイエルフの中では、二文字の名前は彼しかいない。オーレリアは大変羨んだ。
「私がエルちゃんのバッグを作っているとき、ルカが訪ねてきてね。それで興味を持ったみたい」
「僕はマジックバッグを作ったことがないから、ちょっと見せてもらいたいんだ」
「そうなんだ!じゃあ一緒に行こう!」
そうして三人と三匹でセリアンの家に向かった。向かう道中、ルカにもえっちゃんを紹介したのだが、すでに知り合いだという。年越しの宴のときに師匠から紹介されたらしい。
「え?そうだったの?」
「そうだよ。そのときオーレリアはノルとネロとケラケラ笑っていたね」
『そうだぞ!リアはすでに酔っ払ってたんだぞ!』
「あ~……そう……」
「フフフ。イゾルデから聞いたわよ!リアちゃん、禁酒令が出されたそうじゃない!」
「僕も聞いたよ。一口だけでもダメらしいね」
「むー。もうみんな知ってるのか。あ、そうだ!イヴェットにお酒に強くなる薬を作ってもらえばいいんだ!」
「そういうこと言っても取り合わないようにって、イゾルデがみんなに言っていたよ」
「……」
オーレリアの考えることなど、師匠には読まれている。すでに抜け道は封じられているようだ。
『プププッ』
『クスクス』
「もう!」
ノルとネロが笑うので、わしゃわしゃと撫でまわしの刑にしてやる。
「ハハハ!でも、オーレリアはどうしてそんなにお酒を飲みたいんだい?」
「だって、美味しい食事は美味しいお酒と一緒だともっと美味しいって、師匠が言ってたから……」
「あー。それは酒飲みの理屈であって、別にお酒が一緒じゃなくても美味しいものは美味しいんだよ?」
「そうなの?」
「そりゃあそうよ。アルシアちゃんの料理はいつだって美味しいでしょう?」
「うん、美味しい!でもね、師匠はいつもお酒を飲みながら、アルシアの料理をとっても美味しそうに食べるんだよ。だからわたしも羨ましくて、成人したら絶対にお酒飲もうって決めてたの!」
「あら!リアちゃんだっていつも美味しそうに食べてるじゃない!」
「そうだけど……」
「お酒を飲んでると、もっと美味しくなった気がしちゃうんだよ。お酒にはそういう効果があるんだ」
「そうね、なんだか楽しくなっちゃうから、よけいにそう感じるのかもね」
師匠がとっても美味しそうに晩酌をしていたのが、小さい頃から羨ましかったのだ。この憧れは師匠のせいだ。
「もう!師匠が悪い!」
「そうね!確かに、イゾルデが大酒呑みなのが悪いわね!」
そんな話をしているうちに、セリアンの家に着いた。
「さて、まずはリアちゃんの今日の衣装なんだけど……」
「え?それが最初なの?最後でいいのに」
「ダメよ。いつもすぐに出かけちゃってろくに見れないんだから!」
「え、見たいの?」
「当たり前でしょ!おバカさんね。それでね、今日の衣装はパンツスタイルなのよ!」
「へ~珍しいね」
「そうでしょう!スチームパンク風バルーンパンツコーデよ!」
それは、歯車や懐中時計、鍵やゴーグルやベルトなど、機械仕掛けの装飾を贅沢にあしらい、少女らしい可愛さと無骨なロマンを両立させた、セリアン渾身のコーディネートだった。
頭には歯車とゴーグルをあしらったミニシルクハット。靴も編み上げブーツで、ベルトとバックルでゴテゴテしている。
「なんか凄い重そう……」
「ちゃんと重量軽減の魔法は付与したわ!何にも問題ないわよ!さぁ、早く着替えて!」
文句を言っても無駄なので、さっさと着替えることにする。今日はルカがいるので、フィッティングルームに押し込まれた。いつもは遠慮なくひん剥いてくるくせに……。
「うん!と~っても可愛いわぁ!たまにはズボンもいいわね!」
「あぁ!オーレリア、とっても素敵だよ!」
「そう?ありがとう」
確かに重くはない。でも装飾品がジャラジャラとうるさい。腰のあたりにミニランタンのような飾りがついているんだけど、これ必要かな?
「ちょっとフリルが足りないかしら……。ブラウスに重ねたベストにもう少しフリルを――」
「フリルはもう大丈夫だってば!それよりも早くノルとネロの着ぐるみとえっちゃんのバッグを見せてよ!」
「分かったわよ、仕方ないわねぇ。それじゃあまずはノルちゃんとネロちゃんの防寒着フェンリルバージョンね!」
そう言ってセリアンは、小さな白い着ぐるみを二着取り出した。
「わぁ〜!可愛い!ノル、ネロ、おいで!」
いつものように、壁際のソファでえっちゃんと寛いでいたノルとネロが、テクテクとオーレリアの元へやって来た。
『それ、おれたちがきるの?』
『あったかいやつ?』
「そうよぉ〜!しかもね、寒い場所なら温かく、暑い場所なら涼しく過ごせるのよ!」
「僕が魔法の付与を手伝ったんだ!」
「そうだったんだ!ルカありがとう!」
「じゃあ早速着てみましょう!」
セリアンと一緒に、ノルとネロに着ぐるみを着せていく。フードを被ったら完成だ。
「出来たー!かぁわいい~!!!」
「キャー♡ノルちゃん、ネロちゃん!最高だわ!」
「おぉ!これは、触り心地も素晴らしいね!」
『どう?おれ、えっちゃんみたい?』
『ぼく、ふぇんりるになった?』
ノルとネロが着せられたのは、真っ白でふわふわ、触り心地抜群のフェンリルの着ぐるみ。後ろ姿はフェンリルにそっくりで、防寒対策もバッチリな一品だ。
セリアンらしく細部にもこだわりがあり、フードはフェンリルの顔が可愛らしく再現されていて、首元には雪の結晶のチャーム付き。尻尾はボリュームたっぷりで、手足の裏側は肉球デザインで、滑り止めもしっかりと付いていた。
「ちょっとちょっと、えっちゃんと並んでみて!」
「きゃー!もう本当に可愛いんだから!」
「三匹で並ぶと親子みたいだね!後ろ姿だったら本当にフェンリルみたいだよ!」
三人ともニヤニヤが止まらない。ノルとネロとえっちゃんもちょっと嬉しいのか、ぶんぶんと尻尾を振っていて、その姿がさらに可愛い。
「あぁ〜抱っこさせて〜!今日は一日中ずっとそれ着ていてね!」
「ハハ!さっきまでオーレリアの服ではしゃいでいたセリアンと同じ顔をしているよ!」
「ウフフ、私の気持ちが分かったかしら?」
「……くぅ~」
言い返そうとしたものの、何も言えなくなってしまうオーレリアだった。




