第80話 エルフとハイエルフ
「苺大福20個……あ、やっぱり30個ください!」
「まいど!お嬢ちゃん、素敵な服だね!……もしかして、ハイエルフかな?」
「うん、そうだよ。よく分かったね!」
「あぁ、やっぱり。ここらでは見かけない意匠の服だからね。ハイエルフの里ではそういった服が流行っているのかい?」
「ううん。ぜんぜん流行ってないよ。これはね、この服を作った人の趣味なの」
「そうなのかい?でも、とっても素敵だから、苺大福3個おまけしとくね!」
「え?いいの?ありがとう!」
またおまけしてもらえた。これで3ヵ所目だ。嬉しいけど、いいのかな?
「またおまけしてくれたよ。なんでだろう」
「ここのエルフの里は、私たちハイエルフの里と一番繋がりが深いからね」
「そっか。なんか悪いなぁ」
『リア!一番繋がりが深いってどうして?一番近いから?』
そうか、えっちゃんは知らないよね。エルフとハイエルフの違いなんて。
「あのねえっちゃん、ここのエルフの里は最初のエルフの里なんだよ」
『最初のエルフ?』
「そう。エルフってね、ハイエルフの子孫なんだよ」
『子供なの?』
「そうだよ!わたしたちハイエルフはね、女神様に捕まった魂が身体をもらって地上に降りるんだけど――」
「リア、捕まったって言い方はよくないな」
「そうね。女神様が誤解されちゃうから、選ばれたって言ってね」
自分のときを思い出すと、やっぱり捕まったで合っている気がするんだけどな。
「選ばれた……?う〜ん、まぁそんな感じで地上に降りてくるから、他の種族とはちょっと違うのね」
『それで女神様の愛し子なんだな!』
「だから、他の種族の様に結婚したり子供をつくったりって、ほとんどしないの」
『そうなの?』
「そうなの。でもね、まったくないわけじゃなくて、ごくたま〜に生涯を共にしたいなって思う特別な伴侶を見つける人もいるんだって。そうして生まれたのがエルフなんだよ」
『そうだったのかぁ。でも、エルフは普通に番をみつけて子供を産むんだよね?』
「そうだよ。だからハイエルフよりずっと数が多いでしょ」
『確かにそうだ!でも、ハイエルフが産んだ子供がエルフってことは、もしかして……子供の方が寿命が短いんじゃないか?』
「そこに気が付くとは、えっちゃんは賢いなぁ」
師匠が感心していた。本当に、えっちゃんは賢いね。
「そうなんだよ。でもね、わたしも一人だけ子供を産んだ人を知ってるけど、後悔はないんだって!だってほら、こんなに美味しいお米やお菓子を作る技術を生み出したんだよ!凄いよね!」
「リアったら……」
アルシアがクスリと笑う。結局は食いしん坊が勝ってしまうオーレリアである。
「まぁ、リアだから仕方ないな」
『りあ、くいしんぼう!』
『キャハハ!りあ、くいしんぼう!』
「ノルには言われたくない!あ、お月見饅頭だって!何個買う?」
言ったそばからこれなのだが、食いしん坊では従魔三匹も負けてない。
『りあ!あっちに、どらやきうってる!』
『りあ!かすてらもかって!』
『たい焼き?できたて?リア!鯛って海の魚じゃないのか?』
オーレリアは気の向くままにお菓子を大量に購入していく。その様子を呆れながら見ている師匠とアルシア。
「リア、そんなに一度に買わなくたって、また買いに来ればいいじゃないか」
「そうよ。そんなにたくさん買ったらお店の人が大忙しだわ。それに、季節ごとに違うお菓子もあるんだから、また来ればいいのよ」
しかしオーレリアは、キリっとした表情で振り返る。
「二人とも分かってないなぁ。ノルとネロとえっちゃんはとっても大食いなんだよ?すぐにわたしの分がなくなっちゃうの!それに、わたしは魔の森に帰ったら気軽に帰って来れないじゃない!」
「気軽に帰ってくればいいじゃないか」
「そんな簡単に……」
「そうよ。一週間ぐらいは留守にしても平気なんでしょ?」
「そうだけど。魔の森は魔素が少ないから、帰りは凄く疲れるんだよ!」
「あぁ、そうだったね。じゃあ、転移の魔法陣を作っちゃえばいいじゃないか」
「えっ!」
「そうね、一度作っちゃえば楽に行き来できるわよね!」
「えっ!そ、そんな……」
「リアの家同士を繋げちゃえばいいんだよ。まぁ、距離がかなりあるから作るのは大変かも知れないけどね。でも、私の弟子ならそれぐらい出来なきゃね?」
「そうよ!あとは行った先々にマークを付けるといいわよ。目的のポイントがしっかりしてると、転移も楽だからね」
オーレリアは衝撃を受けた。そうじゃん、転移の魔法陣を作っちゃえばいいんだよ。なんで思いつかなかったんだろう。
それに転移先のマーク。今までお出かけするときは、今日みたいに師匠か誰かの転移で連れてきてもらっていた。自分で来たことがなかったからすっかり忘れていた。
「考えたこともなかったって顔だな」
「……はい」
「ウフフ、仕方ないわ。リアは一人でお出かけしたことなかったんだから」
『そうだよ、りあはいちばんちいさいから!』
『そうだね、しかたないよね!』
『さすが師匠とアルシアだな!良かったな、リア!』
「……うん」
なんだか悔しいが、うっかりしていたのだから仕方ない。里に帰ってからやることが増えてしまった。あと二日じゃとうてい終わらないだろう。
「まぁまぁ、気が付いて良かったじゃないか。それより、そろそろお腹が空いたから、どこかお店に入ろう」
「そうね!何食べる?」
『おれ!あれがいい!あのおみせ!』
ノルが大興奮でお店を指さしている。あのお店は以前入ったことがある。
「あら、海鮮丼のお店ね?」
『そう!かいせんどん!』
「いいね!酒が進むな!」
「ノルはよく覚えてるね!」
『すごくおいしかったから、おぼえてる!』
『……のる、くいしんぼう』
『海鮮丼ってなんだ?』
「ご飯の上にお刺身が乗ってるんだよ!すっごく美味しいよ!」
「じゃあ行きましょうか!」
『わーい!はやくはやく~!』
『わーい!』
ノルとネロがぴょこぴょこと走ってお店に向かう。
入り口を入ると席は八割方うまっていたが、人数を伝えると、お店のエルフがオーレリアを見て話しかけてきた。
「もしかして、ハイエルフのかたですか?」
「え?そうだけど……ど、どうして分かったの?」
「あぁ、やっぱり!その素敵な妖精のようなドレス!エルフの里では見たことのないデザインですもの!とってもお似合いですよ!ハイエルフの里で流行っているのですか?」
「やっぱりこの服が原因だった!この服、全然流行ってないから!目立っちゃってしょうがないよ!」
「あら、とっても可愛らしいのに!でしたら、個室が空いてますのでこちらへどうぞ!」
「え、ありがとう……」
どうやらセリアンの服を着ていると、ハイエルフだと分かるらしい。今日さんざんおまけしてもらって、さらに個室に案内してもらえたのはセリアンのおかげだった。
でも、買い物している間もずっと気付かないふりをしていたのだが、周りの人からの視線が痛い。もの凄く見られる。恥ずかしい。
「セリアンはいないんだし、着替えちゃおうかな」
「なんで?せっかく個室に案内してもらえたんだからいいじゃないか!」
「人にジロジロ見られるから、恥ずかしいよ」
「可愛いから見てるんだよ!それに、酒蔵で買い物するときにも役に立つかもしれないぞ!」
まったく、人の気も知らないで無責任なことを言う師匠だ。どうせ、お酒もおまけしてもらおうと思っているのだろう。まぁいいや、とにかく海鮮丼だ。ノルじゃないけど、久しぶりだからちょっと楽しみなのだ。
案内された個室は広々としたテーブル席で、ゆったりと座ることができた。
さっそく人数分の海鮮丼を注文する。師匠は昼間からお酒も飲むらしい。
「米のお酒だよ。えっちゃんも飲むか?」
『飲む!米のお酒なんて初めてだ!』
「わ、わたしも飲んでみたい!」
「う~ん、リアは今はやめた方がいいんじゃないかな」
「え!えっちゃんだけズルい!」
「でも、眠くなったら困るでしょう?買って帰って家で飲んだ方がいいんじゃないかしら?」
「じゃあ、一口だけちょうだい!」
「リアは一口で酔っ払うだろうが」
「そんなことないよ!味見ぐらいいいじゃん!」
「リア、そんなに急がなくても、あと百年でも千年でもかけてゆっくり飲めるようになればいいんだよ。時間はたくさんあるんだから」
「む~」
たしかに、今はお酒に興味津々だけど、千年後はどうだろう。百歳を過ぎたばかりのオーレリアの人生は、人族なら既に終わってしまっているだろう。千年後なら、エルフの人生もまた終わりを迎える頃だろう。
でも、ハイエルフのオーレリアの人生は、まだまだ始まったばかりなのだ。千年後もまだまだ序盤。ハイエルフの人生は一万年近く続くのだから。




