第79話 エルフの里でお買い物
翌日、早めに朝食を済ませたオーレリアたちは、師匠とアルシアと一緒にセリアンの家へ向かった。
「里にいる間毎日とは、面倒な約束だな」
「うん。次回からは気をつける」
「でも、リアがどんな素材を持って行っても、結局ドレスは着せられるんじゃないかしら」
「なんで?」
「セリアンは口が達者だから、リアはまるめ込まれる気がするわ」
「アハハ!確かに!」
「そんなことないよっ!」
アルシアも師匠も酷い!わたしだってちゃんと上手くやるよ。……たぶん。
「素早く逃げる魔法の練習をしておこうかな……」
そんなこんなでセリアンの家に到着し、今はアトリエであーだこーだと言い合う三人に囲まれているオーレリア。
「それはちょっと派手すぎるんじゃないかしら?」
「そうだよ。今日はエルフの里に買い物に行くって言っただろうが!」
「だからこれぐらい派手な方がいいんじゃない!こんな服はエルフの里には絶対にないはずよ!」
「あるわけないだろう。あそこもここと同じで森の中だぞ!」
「そうね、だいぶ浮いちゃうんじゃないかしら?」
「だから目立っていいんじゃない!」
師匠、アルシア、頑張れー!って、応援している場合じゃないか。私のことなんだからちゃんと意見しないとね。
「セリアン。今日は食べ歩きとかもするから、ヒラヒラはないほうがいいの。なんならわたしは普段着でいいと思うんだけど。これだって、セリアンが作ってくれた服だよ?」
「もちろんその服だって私の自信作よ。ハイエルフらしくシンプルかつ優雅で、伝統的なデザインよ。でもね、私は自分がデザインした最高にハッピーな服を着てほしいのよ!」
両手を胸の前で組み、真剣な表情で訴えてくるセリアン。
「うぅ……」
「それなのに、私の服を着てくれる人はこの里にはいないのよ。だからリアちゃん!お願い!」
ウルウルした瞳で訴えてくるセリアン。目を合わせたらダメだ!オーレリアはキョロキョロと目を泳がせてしまう。
「コラ!セリアン!リアをからかうな!」
「チッ!もう一押しだったのに!」
「えっ?からかう?」
「リアったら。だから丸め込まれるって言ったのよ」
「くぅ〜!騙された!」
「まったく、リアは押しに弱いんだから!ダメだぞ、そんなんじゃ」
「……はい」
「嫌な時はちゃんと嫌って言わなきゃ!」
よく見たらセリアンの瞳はすでにカラカラに乾いていて、全然ウルウルしてない。どうやったんだろう、魔法かな?
「うん……セリアン。今日は控えめなデザインにして欲しい」
「仕方ないわね。分かったわ!じゃあ今日はコレよ!じゃーん!森の妖精ドレス!」
それは、森の妖精を思わせる軽やかなドレスだった。淡い若葉色とアイボリーを基調としたドレスで、葉っぱや小花のモチーフがあしらわれている。透け感のあるレースで、森の精霊を思わせる軽やかで自然なデザインに仕上がっていた。
「まぁ、セリアンにしては大人しいデザインかもしれないわね」
「ふむ。さっきの極彩色の鳥みたいな服よりはいいか。リアはどう思う?」
「う〜ん。昨日のよりはましだね……」
「ましとは何よ、失礼ね!さぁ、さっさと着替えちゃいましょう!」
そうして素晴らしい手際の良さでドレスに着替えさせられ、髪にも小花や葉っぱのアクセサリーが付けられた。
「さぁ、できたわ〜!とってもよく似合っているわよ、リアちゃん!」
「うん。可愛いな!」
「リア、とっても似合っているわよ。このヘアアクセサリーは素敵ね」
「そう……ありがとう……」
「ちょっとリアちゃん、表情が暗いわ!もっとにこやかにね!」
もうドレス生活も四日目だから、慣れてきたのかな。何の感情も湧かない。
「じゃあ、早く行こう!遅くなっちゃうよ」
「もう行っちゃうの?つれないわね!」
セリアンは残念がったけど、みんなも早く出発したかったので早々にアトリエを出た。
「さて、じゃあその辺で転移しちゃおうか。みんな近くにおいで」
「ノル、ネロ、えっちゃん!おいで!」
『うん!ワクワク!』
『『わくわく』』
師匠の転移の魔法で、一瞬で行ってしまう。足元に魔法陣が現れ光った瞬間、そこはエルフの里の入り口だった。
『おお〜!もう着いたのか?』
『ついたー!』
『ついたー!』
そこは長閑な森の中にあるエルフの里の入り口で、簡素な木の門がポツンと立っていた。
一見、森に溶け込みそうな、なんてことない門なのだが、そこにはしっかりと魔法でセキュリティ対策がしてあった。グレンハルトの町のような通行料は取ってはいない。セキュリティに引っ掛からなければ自由に出入りができるのだ。
「さぁ、行こうか!酒蔵はどっちだったかな~」
ウキウキしている師匠に続き、門を抜け森の小道をしばらく歩いて行くと、突如として視界がパッと開けた。
遮るものの無くなった視界に、美しく長閑な田園風景が飛び込んでくる。
豊かな水をたたえた水田、そこから続くあぜ道、そして、温かな煙を上げるエルフの集落。
森の奥深くにあるのに、まるでそこだけが優しく輝いているかのような、豊かな里が広がっていた。
そして、里の手前には商店が立ち並んでいる。オーレリアのお目当てはその商店で、観光客に人気の食べ歩きスポットでもある。師匠のお目当ての酒蔵はもう少し奥にあった。
『わぁ!ここがエルフの里か!なんかいい匂いがするぞ!』
『あっちにいこうよ!おみせがあるよ!』
『りあ!なにたべる?』
「みんな、ちょっと落ち着いて!」
ノルとネロとえっちゃんが、グレンハルトの町の屋台広場に来た時のように興奮している。でも今日は師匠もアルシアも一緒だし、ちょっと落ち着いて欲しい。
「よしよし、みんな。お菓子をたくさん買ってやるから、いい子にしてるんだぞ!」
『わーい!』
『いいこにしてるー!』
『何買ってくれるの?』
「あ、そういえば、グレンハルトの町でもらったお金ってここでも使えるの?」
すっかり忘れていたけど、あちらの大陸とは違うのかな?ハイエルフの里ではお金は使わないから、オーレリアは実はよくわかっていなかった。
「そのお金はここでは使えないけれど、両替してもらえるわよ。エルフの里はあちらの大陸にもあるから、両替屋がいくつかあったはずよ」
「そうなんだ!よかったー!さっそく両替してもらってくるね!」
「私が買ってやるから両替なんかしなくていいのに……」
今までは、師匠がなんでも買ってくれていたから、自分でお金を持ったことはなかった。でも、オーレリアは今では一人で暮らしているし、グレンハルトの町で買い物は覚えた。ここはやっぱり自分で買うべきだろうと思って両替屋を探すことにした。
商店街の入り口付近に両替屋があったので、そこで両替してもらう。
受付にいたお姉さんエルフに、空間収納から金貨が入った適当な袋を取り出してお願いしたのだが、「こんなにたくさん……」と引かれてしまった。
一人前のフリをしているが、お金の価値などたいして分かっていないのだ。なんなら全部で何枚あるのかも、数えてないので知らない。
「リア、ちょっと多いわよ?商人じゃないんだから、そんなにたくさん両替しなくてもいいんじゃないかしら?」
「そうなの?でもお米とかたくさん買いたいし、えっちゃんたちはたくさん食べるよ?」
「申し訳ございません、お客様。こちらでは、一度にできる両替の上限は金貨100枚までとなっております。それ以上となりますと、商人ギルドに行っていただかないと……」
「100枚あれば十分過ぎるほどだぞ?」
「そうなの?まぁ、足りなくなったらまた両替すればいいか!じゃあ100枚の両替お願いしまーす」
「か、かしこまりました!」
手数料を支払い、無事に両替することができた。
「よし!これで豪遊できるぞー!」
『わーい!』
『やったー!』
『さっそく食べに行こー!』
金貨100枚分(約100万円分)の入った袋を握りしめ、気合を入れるオーレリアと従魔三匹だった。




