第78話 里心
図書館へとやって来たオーレリアは、入り口の扉を開け中に入った。
「おや、オーレリア。何か調べものかな?」
図書館司書のフェイブルだ。フェイブルは、この図書館にある古からの書物を管理している。それだけではなく、女神様のお仕事に出かけた人々の記録をとって、伝記にまとめることもしているのだ。
「うん。世界樹の木について調べたいんだけど」
「ふむ。世界樹の木だね」
フェイブルはオーレリアの持つ背丈ほどの杖とは違い、40センチほどの長さの、羽ペンのような形をした杖を本棚の方へふわりと振った。
すると、いくつかの本が抜き取られ、中央にある大きな机の上に積み上げられていく。
「さぁ、世界樹についての本はこんなものかな。もっと専門的なものが必要なら声をかけてくれ」
「うん。ありがとう!」
オーレリアは机に向かうと、静かに本を開いた。
パラパラと本を読んでいくと、『世界樹が芽吹くまで』という記述を見つけた。
「あ、あった。これだ」
“世界樹の木は、芽吹くまでのおよそ半年間、毎日魔力を与えなければならない。一日でも欠かせば、種は再び眠りに戻るだろう”
「およそ半年……。魔力は一日も欠かしちゃダメなんだ。それは大変だなぁ。町やフェンリルの里に泊まることも出来ないじゃん」
“しかし、これで芽吹く保証はない。世界樹は条件を満たしても発芽しないことがある”
「え~!もう!半年頑張っても結局は運任せってこと?そういうの一番困る……ん?」
ページの隅っこに、小さい字で何か書かれているようだ。
“魔力を注ぎながら話しかけるのがコツ!面白い話ほど良く育つ!”
「ほ、本当に?……誰が書いたんだろう?いたずらかな?」
ここだけ筆跡が違うから、誰か別の人が書き込んだのだろう。師匠の字ではないけれど、師匠のような人の悪戯かもしれない。でも、もしかしたら本当に効果があるかもしれないし……。
オーレリアは一応その落書きもメモに取った。
他にも世界樹についての本を何冊か読んでいると、フェイブルに声をかけられた。
「オーレリア、もう日が暮れる。そろそろここも閉めるから、家に帰りなさい」
「はっ!もうそんな時間?いつのまにっ!夜ごはんに遅れちゃう!」
「ハハッ。それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「うん!またね、フェイブル」
オーレリアは急いで図書館を出てアルシアの食堂に向かった。
急いでいたので、杖に座り飛んで帰ったのだが、白金の姫巫女コーデは風の抵抗が凄かった。風で舞い上がるレースが鬱陶しい。
ようやく食堂にたどり着いて扉を開けると、えっちゃんとノルとネロはすでに帰っていて、狩人たちと一緒にテーブル席で談笑していた。
「ただいま~!」
オーレリアが帰ってきたことに気が付いて、ノルとネロが肩に飛び乗ってきた。
『りあ!おかえり!みて、どんぐりひろった!』
『りあ!ぼくも、おおきなどんぐりみつけたよ!』
みてみてと、ノルとネロは森で拾ってきた青いピカピカのどんぐりを見せてくれた。
「ツヤツヤしてて綺麗だね!こっちはまんまるで、こっちは帽子付きだね!」
『リア、おかえり!調べ物はできたのか?』
「うん、できたよ。えっちゃんはどうだった?」
『今日は狩りはしなかったんだけど、狩人たちが蒼の森についていろいろ教えてくれたよ!ドラゴンのいる場所も!』
「そうなんだ、良かったね!」
『いつ行く?』
「え?」
『ドラゴン狩り!』
「え~っと」
『おれもいきたい!』
『ぼくも!』
ノルとネロまで期待した目でこちらを見ている。ドラゴン狩りなんて、そんな時間あるかな?世界樹の種ももらいに行きたいし、できればもっとのんびりしたいんだけどな。
「う〜ん、ちょっと待ってね。いろいろ予定もあることだし……」
『えー!行こうよ!ドラゴン狩り!』
『いこうよー!』
『いきたい!いきたい!』
困ったので、とりあえず狩人たちにお礼を言って、アルシアの手伝いに行くことにしたオーレリア。逃げたともいう。
狩人たちは、またいつでもどうぞと気軽に手を振ってくれた。
「ただいま、アルシア!遅くなってごめんね」
「おかえり。大丈夫よ、今日の分はもう出来たから。これは明日の分ね」
「そうなんだ!何か手伝う?」
「それより、先に服着替えちゃえば?さすがにそれじゃあお手伝いは無理だと思うわよ?」
「着替えていいかな?セリアン今日は来ない?」
「来たって大丈夫よ。もう十分堪能したでしょうし。それに、また明日も違うドレスを着るんでしょう?」
「うん。じゃあ着替えてくる!」
オーレリアは普段着ているシンプルな白いワンピースに着替えると、なんだかほっとした。やっぱり自分にはこれがいい。
貴族じゃなくてよかったと思うオーレリアだった。
食堂に戻ると、いつのまにか師匠が戻って来ていて、カウンター席でオーレリアを待っていた。
「あれ、師匠。いつのまに」
「ただいま。さぁ、早く食べよう!明日はエルフの里に買い物にいくから、今日は早く寝ないとね。寝坊したら置いていくぞ!」
「そうだった!明日はエルフの里に行くんだ!やったー!」
『えるふのさと!』
『おれ、なにたべよう!』
『エルフの里か!米が美味いって聞いたぞ!たのしみだなぁ』
お米もそうだが、味噌や醤油などの調味料もたくさん買いたいし、苺大福やみたらし団子もたくさん買いたいなぁ。今からワクワクしちゃう。
アルシアが夕食のお皿を魔法で運んでいるので、オーレリアも飲み物運びを手伝った。そして自分たちの分もカウンター席に並べると、みんなで食べ始めた。
今日のメニューはトマトベースの海鮮シチューだった。カニやエビや貝、魚のぶつ切りなどを白ワインとトマトで煮込んだ料理だ。それにガーリックトーストを浸して食べる。魚介の旨味がたっぷりと溶け込んだスープは濃厚で、隠し味のレッドペッパーでほんの少しピリ辛に仕上がっていた。
「あ〜美味しい!いつもお肉ばかりだから、たまに魚介を食べると沁みる~!」
『ウマイウマイウマイ!』
『わーい!えびだー!』
『わぁ!このスープ美味しいな!海の食べ物って味がいいな!』
「ウフフ!魚介はいいお出汁がでるのよ!ノル、ネロ、辛くない?」
『だいじょうぶ!』
『だいじょうぶだよぉ!』
濃厚な魚介のスープを楽しんでいたオーレリアだったが、ふと思い出して聞いてみた。
「ねぇ師匠!世界樹の育て方の本に、“魔力を注ぎながら話しかけるのがコツ!面白い話ほど良く育つ!”って書いてあったんだけど本当かな?何か知ってる?」
「世界樹の育て方?さぁ、育てたことないし。イヴェットに聞いてみるといい」
「イヴェットに?なんで?」
「蒼の森に世界樹を植えたのは、イヴェットの師匠だと聞いたことがある。もう一万年近く前のことだけどね」
「へー!そうだったんだ!明日はお出かけだから、明後日聞きに行ってみよう」
そうか、イヴェットは薬師だからこの辺りの森の植物については誰よりも詳しい。それに、他にもちょっと聞きたいことがあったのだ。
「そうだな。私は明後日には女神様の仕事に戻るよ」
「え?もう戻っちゃうの?」
「調査を始めたばかりだからね。はやく原因をつきとめたいんだ」
「そっかぁ」
「そんなに寂しそうな顔をするな。またいつでも会えるんだから」
「そんな顔してないよ!全然寂しくないし」
ぜんぜん……うん。平気。
『りあ、さみしい?』
『ぼくが、いっしょにねてあげるよ!』
『俺がいるから大丈夫だぞ!』
「うん!皆がいるから師匠と会えなくても、ぜーんぜん寂しくないよ!」
「おい!もっと寂しがれ!」
「ウフフ!まだ明日一日あるんだから、お買い物を楽しみましょう!」
危ない危ない。はじめて里から離れて暮らしているから、里心がついちゃったかな?ハイエルフの里は居心地がよくて困る。




