第77話 新年のご挨拶②
考え込んでしまったセリアンはさておき、女神様とのお食事会は続く。
「オーレリアは、魔の森で楽しくやっているかしら?もっとたくさんお手紙を送ってくれてもいいのよ?」
「たのしく過ごしています。フェンリルの里にも遊びに行ったし。ダンジョンも見つけました。でも、もっと遠くまで旅行に行ってみたいです。どうやったら精霊は増えますか?」
「あぁ、そうね!それなら、精霊たちの家となる世界樹の木を植えてみるのはどうかしら!」
「世界樹の木?」
「ハイエルフの里の近くに、世界樹の木があるでしょう?世界樹の木は精霊にとって居心地がいいみたいなの。だから、そこへ行ってお祈りをしてごらんなさい。きっと世界樹があなたに種を分けてくれるわ」
「お祈り?お祈りって何をすればいいんですか?」
「そんなに難しく考えなくていいの。ただオーレリアの思いを伝えるだけでいいのよ」
「わたしの思い?精霊を増やしたいって?」
「そうよ!そうしてもらった種を聖域の湖の畔に植えてみて。芽が出るまでは大変だけれど、きっと精霊たちの素敵なお家になるわよ!」
「やってみます!!」
世界樹の木の育て方の本は、ハイエルフの里の図書館にあるらしい。帰ったらさっそく調べてみよう。
その後は師匠のお仕事の報告になった。興味深いお話だったけど、途中でノルとネロがスープのお皿を持ってきて、オーレリアの前に置いた。
『ねえねぇ、りあ!このすーぷ、ふーってして!』
『ふーってして!』
熱かったのかなと思い、乳白色のスープにフーっと息を吹きかけると、波打つ波紋からスープの色がピンクや黄色、水色などに次々と変化していく。
「わー!凄い!どんどん色が変わる!」
『ねー!おもしろいでしょー!』
『ねー!すごいよねー!』
『しかも美味しいんだぞ!食べたことのない味なんだ!』
そうだった、せっかく女神様が見たことのない料理をたくさん集めてくれたんだから、いろいろ食べてみないとね。
そう思い、手近な料理をお皿に取り分けていると、なぜかセリアンに絡まれた。
「ねぇ、リアちゃんがよく行く町には貴族っているの?」
「いるよ。辺境だからあまり多くはないみたいだけど」
「見たことある?」
「うん。貴族街の方にはあんまり行ったことないんだけど、大きな商店でチラッとみたよ」
「その人たちは、どんなドレスを着ていた?」
「さぁ?覚えてない」
「は?」
「え?」
「覚えてないってなによ?普通、ドレスをみたら気になるでしょ?」
「……別に、気にならないけど」
「はぁーーー!リアちゃんってば、本当にお洒落に興味がないわよね。そんなんだから、いつまでたっても一人で髪も結べないのよ?」
「そ、それは関係ないでしょ?わたしは魔道具をみてただけだから……」
髪が結べないのは関係ないじゃないか。思ったように手が動かないんだもん。
「……じゃあ、どんな服が流行っているか見てくれた?貴族が分からないなら、庶民の流行でもいいわよ?」
「……庶民の流行?庶民?」
「町の人たちがどんな服装をしていたかってことよ!」
町の人たちの服装?……あれ?ぜんぜん覚えてない。冒険者ギルドとか、騎士団とかは思い出せるけど……服装?
「……えーっと……革の鎧とか?」
「もう!!それは冒険者でしょーが!まったくリアってばお話にならないわねっ!イゾルデにそっくりだわ!」
「えぇ~?」
なぜかよく師匠に似てるって言われるけど、どこがだろう?ぜんぜん似てないと思うんだけどな。
「セリアンったら!リアはちょっと不器用で、自分の興味が無い事には気を留めない性格ってだけよ!」
「だからイゾルデに似てるんじゃない!」
「え?アルシア……わたしって不器用なの?」
アルシアがフォローに入ってくれたけど、オーレリアには不器用な自覚がなかった。髪が上手に結べないだけで、他のことは特に困っていないし。
「えっとね、不器用っていうか、その……面倒くさがりというか……」
あ、それは自覚ある。
「まぁとにかく、セリアンは貴族の服が気になるのなら、王都に行った方がいいわ!王様の周りには、ドレスを着た貴族がたくさんいるわよ」
「そうね。リアちゃんに聞いても埒が明かないし、ちょっと行ってみようかしら。人族の町なんて六百年ぶりだわ!」
どうやらセリアンも、人族の町へ行く気になったらしい。王都がどんなところかオーレリアには分からないけれど、いつか行ってみたい。でもその前に世界樹の木を育てなくちゃ。
食事も終わり、しばしの歓談を楽しんだ一行だったが、そろそろ頃合いと見て席を立った。
「女神様、本日はありがとうございました。ささやかですが、新年のお祝いに」
ゼフィは里の人たちから預かった、麦やお米、お酒などのお土産を女神様に差し出した。
「まぁ!ありがとう!こんなにたくさん良いのかしら?大切にいただくわね!」
女神様は目を細めて嬉しそうに微笑み、祝福を送ってくれた。
「長き時を刻むあなたたちの、その歩みすべてに祝福を」
この祝福はハイエルフの里へと届き、加護となって人々を見守る。これから先も里は女神様の慈しみに守られ、穏やかな日々が続くだろう。
和やかな雰囲気のまま別れの挨拶を交わし、一行はハイエルフの里への岐路に着いた。
里に戻ってきたのは午後の昼下がり。ゼフィは予定があるのか、さっさと行ってしまった。セリアンもなにやらそそくさと帰っていった。
「さて、私はちょっと挨拶したい人がいるから行くわね」
「私も会いたい人がいるから行ってくるよ。リアも一緒に行くか?」
「わたし、図書館に行きたい。世界樹のこと調べてくる!」
「そうか、じゃあ別行動だな。夜ごはんまでには帰ってくるんだよ!」
「うん、わかった。じゃあね!」
ゼフィの家の前で別れて、オーレリアは図書館に向かった。
『りあー!としょかんにいくの?』
『えほんよむのー?』
『今日は森に行かないの?』
「わたしは、さっき女神様に世界樹を植えるといいって聞いたから、世界樹について調べたいんだけど……みんなも別行動する?」
『『『そうするー!』』』
ノルとネロとえっちゃんは森に遊びに行きたいらしい。この子たちは図書館に行っても退屈だろうから仕方ないよね。騒がれると追い出されちゃうから別行動の方がいいかも。
でもえっちゃんはまだ蒼の森は不慣れだし、三匹だけでは心配だな。
そう思っていたら、森へ向かう集団がやってきた。狩人たちだ。
「よぉ、オーレリア!今日はお姫様みたいだな!その恰好で森に行くのか?」
狩人のリーダーのブランフォードに声をかけられた。白金の姫巫女コーデだからね。お姫様で合っているのかな?
「わたしは図書館に行きたいんだけど、この子たちは森に行きたいって言ってて……」
「あら!ノルとネロね。フェンリルの子はエルディオールよね?昨日宴会で一緒にお酒を飲んだのよ!私たちと一緒に行く?」
狩人の女性オデッサは、えっちゃんと知り合いだったようだ。
「いいの?」
「もちろんよ!」
「俺たち、今日は狩りは休みなんだが、一日何もしてないと腹が減らないからな。ちょっと散歩がてら森に行くことにしたんだ。近場を見回るだけだが、それでもよかったら付いてきな!」
「ありがとう!助かるよ!みんな、いい子でね。ちゃんとブランフォードの言うことを聞くんだよ」
『わかったー!』
『ぼく、いいこよだ!』
『やったー!ヨロシク!』
『『『いってきまーす!』』』
そう言って三匹は狩人と共に森へ向かった。一人になったオーレリアは図書館へと歩き始めた。




