第76話 新年のご挨拶①
ゼフィの家にやって来たオーレリアと師匠のイゾルデ。セリアンの家からここへ来るまでの間、いろいろな人に声をかけられた。
「まぁ!オーレリア!今日は真っ白な衣装なのね?リボンが素敵よ!」
「そうかな?ちょっと大げさだと思うけど……」
「昨日のドレスも良かったが、今日のも良く似合ってるぞ!女神様によろしく伝えてくれよ!」
「うん、わかった」
「オーレリアのおかげで、このところセリアンはご機嫌だものね!」
「そうだね……。あと三日はご機嫌が続くよ」
「イゾルデもせっかくだから、セリアンのドレスを着ればいいのに」
「嫌だね!」
いつもなら軽くあいさつを交わす程度なのだが、何しろオーレリアは今、白金の姫巫女なのだ。フワフワ度合いが普段着とは大違いなので、なかなかに目立っていた。
「今度セリアンにお願い事をするときは、ぜったいに素材と交換にするんだ!」
「セリアンが嫌がるんじゃないか?子供はリアしかいないんだから」
「……ねぇ、師匠。わたしって成長遅いの?」
「ん?そんなことはないと思うけど」
オーレリアは成人しているのに、グレンハルトの町ではずいぶんと子供に見られていた。もしかして、自分は成長が遅いのかと心配だったのだ。
「この前ね、成人前のエルフの女の子に、同い年ぐらいだと思ったって言われたんだ。わたし、そんなに小さく見えるのかな?」
「ふむ。ハイエルフはこの世界で最も寿命が長いんだよ。エルフの寿命はハイエルフの十分の一程度だから、百歳を迎える頃にはもう少し大きく成長しているんだ。寿命が違うんだから、成長速度が違うのは当たり前なんだよ」
「……そっか」
「焦ることはない。リアはちゃんと成長しているよ!」
よかった。自分だけ成長が遅いのかと思ったけど、そうじゃないみたいだ。
「じゃあ、お酒ももっと飲めるようになるかな?」
「それは分からん。私はリアぐらいのときからガブガブ飲めたからな!」
「えっ!そんな!」
オーレリアと師匠は、三階にある転移魔法陣の前室に到着した。そこにはすでにアルシアとゼフィもいる。最後におめかししたセリアンもやって来た。
セリアンは、袖口や襟元に金糸で繊細な刺繍が施されている白いシャツと、皺ひとつない細身のスラックス、そして、磨き上げられたロングブーツを身に着けていた。髪も綺麗に編み込まれており、肩からはオーレリアの衣装とお揃いの生地で作られたストールを羽織っていた。
「リアちゃんとお揃いよ!」
と、バチンと音が聞こえそうなウィンクを送ってくる。びっくりしてノルとネロの尻尾が膨らんだ。
「そろったな。それじゃあ、行くぞ!」
みんなで魔法陣の中央に集まると、ゼフィが魔力を流す。すると次の瞬間、真っ白な雲の上の不思議な場所に立っていた。
空気が澄んでいて心地いい。まるで魂まで浄化されていくような清浄な気配に満ちている。
「ハ〜イ!みんな!ハッピーニューイヤー!」
そんな清浄な空気を突き破るように、女神様の陽気な声が響いた。突然の女神様の登場に唖然とするえっちゃん。だが、他のみんなは慣れた様子。
「女神様!また季節が巡り、里の者を代表してご挨拶に参りました。今年はイゾルデとアルシアとセリアン、それとオーレリアが一緒です!」
ゼフィが通常運転で挨拶を始める。
「ごきげんよう、女神様」
「イゾルデ!あとで綻びのお話聞かせてね!」
「女神様、お久しゅうございます」
「まぁ!アルシア!お久しぶりね!会えてうれしいわ!」
「ああ!美しい女神ディオーネ様!お目にかかれて光栄です!」
「あらヤダ!も~セリアンったら☆」
セリアンは感極まっている。美しいものに目がないもんね。
「ごきげんよう、女神様。わたしの家族が増えたので紹介します。フェンリルのエルディオールです」
『女神様!は、初めまして!』
「まぁ!エルディオールちゃんね!あなたは聖域の近くに住んでるフェンリルの一族の子ね?会えてうれしいわ!ヨロシク♡」
思ったよりもフランクな様子に、えっちゃんはドキドキしつつちょっと戸惑っている。
『『めがみさま、こんにちは!』』
「ウフフ、ノルちゃんとネロちゃんもよく来てくれたわね!オーレリアも順調なようで嬉しいわ!」
女神様は、オーレリアをそっと抱きしめてくれた。ふわりと柔らかな香りが漂い、まるで陽だまりに包まれているようだった。
「みんな、いらっしゃい!会えてうれしいわ!さぁこっちに来てお食事を楽しみましょう!」
女神様が手をかざすとサーッと雲の道ができて、神殿の中庭にある泉に案内された。そこには白く美しいテーブルが用意されていて、再び女神様が手をかざすと、テーブルの上に料理が現れた。
『うわぁ!』
『すごーい!』
『食べ物が出てきた!』
「ウフフ!十年に一度ですからね!いろいろな世界から料理を取り寄せたのよ!今日は楽しんでね!」
空だったはずのグラスの底から、淡い金色の液体が静かに湧き上がる。スパークリングワインに似ているが、煌めく泡は夜空を散らしたようにキラキラと瞬いている。
お酒だろうか?オーレリアは自分が飲んでも大丈夫なのか、ちょっと心配になった。昨日の今日で、イヴェット特製酔い覚ましを飲む羽目になるのは避けたい。
「ウフフ!これは神界のお酒なんだけど、変に酔ったりしないから大丈夫よ!」
オーレリアの考えを読んだのか、女神様に優しく微笑まれる。女神様が大丈夫と言うんだから大丈夫だろう。オーレリアは安心してグラスを手に取った。
「さぁ、私の愛しい子どもたちに、尽きることのない祝福を!――かんぱ~い!」
「乾杯!」
みんなの声が重なり、煌めく酒杯を静かに掲げる。
オーレリアは、恐る恐る一口飲んでみた。
「わぁ!美味しい!」
そのお酒は程よい甘さで、バニラのような濃厚な香りが広がった。炭酸もきめ細かくまろやかで、非常に美味しいお酒だった。
「そうでしょう?よかったわ!さぁ、みんなもどんどん飲んで食べてね!」
女神様への新年のご挨拶って、本当にただ挨拶して報告して終わりだと思っていた。普通に宴会?というかパーティー?だったんだ。
ピンクと青と紫のマーブル模様をした謎の料理をとって食べてみる。とんでもない色だが、とても美味しいマッシュポテトのような料理だった。
「あなた勇気あるわね。よく最初にその色の食べ物を食べてみようと思ったわね」
セリアンは様子見をしていたようだ。アルシアまで、心配そうにこちらを見ていた。
「美味しいよ!ほら、ノルたちも美味しそうに食べてる!」
ノルとネロとえっちゃんは、初めて見る料理ばかりなのに躊躇なく食べている。
『いいにおいだったから!』
『おいしそうなにおいがした!』
『うん!不思議な食感!美味しいぞ!」
「ウフフ、アルシアのお料理の参考になればいいと思って、そちらの世界にはなさそうなものばかり集めたのよ!」
「女神様、お気遣いありがとうございます!」
「もう!そんなに畏まらないでよっ!さぁ、遠慮しないで食べてね!」
「では、いただきます!」
アルシアの参考になるかは怪しいが、見た目と色からは味が想像できない料理ばかりで楽しかった。
「ところで、セリアンとオーレリアはお揃いの衣装なのかしら?とっても素敵だわ!」
「あぁ……これは――」
「女神様!よくぞ気付いてくださいました!今日のリアの衣装は女神様をイメージして作りました。この繊細な刺繍を見てください!淡い金色の糸で象った模様が神聖な雰囲気を演出していて――」
「セリアン、落ち着け!」
オーレリアの言葉に被せて、セリアンが興奮気味に白金の姫巫女コーデについてまくし立てる。女神様が目にとめてくれたことが嬉しかったようだが、さすがに前のめり過ぎたのでゼフィに止められていた。
「ウフフ!とっても素敵よ!オーレリアに良く似合っているわね!」
「女神様!ありがとうございます!でも、里の人たちはこんな素敵なドレスなのに、ちっとも着てくれないんです。お洒落に興味がない人ばかりで嫌になっちゃうわ!」
「里の中でドレスなんて、動きにくいだろう」
「そうよ。お料理するときは袖が邪魔になっちゃうわ」
師匠とアルシアが正直な感想を述べる。セリアンのドレスは不思議と動きにくくはないのだが、そこは黙っておく。
「あら、だったらセリアン。あなたも人族の町へ行ってみたらどうかしら?」
「えっ?人族の町へ?」
「そうよぉ!あなたも昔、世界を旅したことがあったでしょう?今度は貴族がいる大きな町に滞在してみたらどう?貴族たちはドレスが大好きなのよ?あなたにピッタリじゃないかしら?」
「人族の町……貴族……」
女神様の突然の提案に、セリアンは考え込んでしまった。




