第75話 白金の姫巫女コーデ
翌朝、オーレリアは、アルシアの家の一室で目を覚ました。
なぜ自分のベッドで寝ていなかったかといえば、どうせアルシアが朝起こしに行くんだからこっちで寝なさいと言われ、泊まることにしたからだ。
なんだか頭痛がする。ズキンズキンと痛むこめかみを押さえ、ベッドで横になり昨夜のことを思い出してると、部屋のドアが開いて肩にノルとネロを乗せたアルシアが入ってきた。
「リア、起きてた?おはよう!」
「――おはよう、アルシア。ノルとネロもおはよう」
『『りあ、おはよう!』』
「ウフフ、二日酔いね!昨日のことは覚えてる?」
「う~ん、なんとなく覚えてる……」
「それならよかったわ。じゃあ、これ飲んでね!」
オーレリアは、アルシアから黒い色の謎の液体が入ったコップを渡された。
「……なに、これ」
「イヴェット特製の酔い覚ましよ。頭がシャキッとするわ!さっき、イヴェットと一緒に里長宅で酔いつぶれている人たちに飲ませてきたのよ」
『えっちゃんと、ししょーにものませたよ!』
『ふたりとも、かえってきたよ!』
「そうなんだ――凄い色……なんかこれ、シュワシュワしてない?」
「いいから、四の五の言わずに飲みなさい!」
コップを手に躊躇していると、アルシアに無理やり飲まされてしまった。手慣れている。
「……ングッ!!――――オェ!!」
一口飲んだ瞬間、口の中に酷い苦みと渋みが駆け抜ける。次に強烈な酸味が襲う。だが、最後にほのかな甘みで口の中が落ち着いた後は、チクチクと感じていた頭痛も、身体の怠さもすっかり無くなっていて、アルシアが言っていた通り頭もシャキッとした。
「ハァハァ……!酷いよアルシア!!」
「ウフフ、二日酔いになんかなるのが悪いのよ!朝食にするから着替えて降りてきてね!」
「……はい」
アルシアが怖い。そういえばいつも淡々と酔っ払いたちに酔い覚ましを飲ませていたっけ。気を付けなければ……。
オーレリアは身支度を整え、階下へ向かった。
キッチンではアルシアがコーヒーを入れていた。芳ばしい香りが漂い、食堂は朝らしい穏やかな空気に包まれている。
カウンター席では師匠がノルとネロとえっちゃんを撫でまわして遊んでいた。
「師匠、えっちゃん!おはよう」
「リア!おはよう。ちゃんと起きれたようだな」
『リア!おはよう!酔い覚ましの薬飲んだ?』
「飲んだ。凄かったね!」
「ハハ。えっちゃんはなかなか起きなかったから、口の中に無理やり流し込まれていたな」
『うん。急に凄い味がしたからビックリしたよ!まえにフェンリルの里で飲んだやつよりも強烈だった!』
「えっちゃん、ずいぶんお酒飲んだんだね?」
『うん!すごーく楽しかった!』
「……そっか。それなら良かった」
えっちゃんはハイエルフの里に来てまだ一日か二日なのに、ずいぶん馴染んだようだ。お酒の力って凄いなぁ。
「さあ、朝ごはんを食べましょう」
アルシアが朝食を運んできた。今日のメニューはサーモンとクリームチーズが挟まったクロワッサンと、スクランブルエッグ、カリカリベーコンにブルーベリーが添えられていた。飲み物はコーヒー。師匠とアルシアはブラックで、オーレリアはミルクたっぷり。ノルとネロとえっちゃんはミルクのみ。
「わぁ~美味しそう!いただきまーす!」
目覚めたときの二日酔いはすっかり消え去り、モリモリと朝食を食べる。イヴェットにあの酔い覚ましのレシピ教えてもらおうかな。味も見た目も効果も凄かったな。
『ウマイウマイウマイ!』
『これ、おいしい!さーもんはいってる!』
『サクサクしてて最高!』
「ノル、ゆっくり食べてね」
ノルは凄い勢いで食べるからオーレリアもよく注意するのだが、やっぱりアルシアにも注意されている。
「ところでリア、今日もセリアンのところに行くのよね?」
「あ、そうだった」
今日はいったいどんな服を着せられるのだろう。
「私も一緒に行くよ。異世界の服を作ってもらう約束だからね」
「わかったわ。でも今日は女神様のところへ新年のご挨拶に向かうんだから、早めに終わらせてね」
「わかっているよ」
十年に一度、女神様へ新年のご挨拶に伺う。もっとも、里にいるハイエルフ全員で押しかけるわけにもいかない。そこで、その都度、里長のゼフィが同行する数名を選んでいるのだ。
そして、今年は報告もかねて師匠とオーレリア、そしてアルシアとセリアンも一緒に行くことが決まっていた。
朝食を食べ終えたオーレリアたちは、さっそくセリアンの家に向かった。
「えっちゃん!私を乗せてくれないか?」
『いいよ!』
「リアも一緒に乗ろう!えっちゃん、大丈夫だよね?」
『二人ぐらいなんてことないさ!乗って!』
「さぁ、リアが前だ!おいで!」
えっちゃんの上に座る師匠に続いて、オーレリアも師匠の前に座る。えっちゃんがゆっくり立ち上がり軽く走り出すと、師匠はとても喜んだ。
「おぉ~!これは楽しいな!もっと早く走ったら気持ちいいだろうな!」
「里の中では危ないよ」
「わかっているよ!えっちゃん、今度森の中を走りに行こう!フェンリルの本気の走りを見せてくれ!」
『おお!俺の本気は、まだリアにも見せたことがないんだ!すっごく速いんだぞ!』
「そ、そうだったの?」
『リアが飛んで行っちゃうかもしれないから、まだ本気で走ったことはないよ!』
「ハハハッ!リアが飛んで行っちゃうか!面白いな!」
「ぜんぜん面白くないけど……。わたし、飛ばされたりしないよ!」
『りあ、とんでいっちゃうの?』
『キャハハ!りあ、とばされちゃう!』
そんな話をしていたら、もうセリアンの家についてしまった。ドアをノックすると、すぐにセリアンが出てきた。
「おはよう、みんな!早かったわね!さぁ中へどうぞ!」
今日も早速アトリエに案内される。
「今日は女神様のところへ、新年のご挨拶に伺うからね!んー、どれがいいかしら?」
セリアンは、いくつかの服を手に取っては眺めていたが、最終的には白に金糸で刺繍が施された、レースたっぷりのドレスを選んだ。
「これにしましょう!題して白金の姫巫女コーデよ!」
「えぇ~!また凄いの選んでる~!」
今日のドレスは、女神様へ新年のご挨拶に伺うため、清浄で神聖な姫巫女風の装いとなった。
白を基調に、淡い金の糸で花や月、光りのモチーフが散りばめられている。胸元には大きなリボン。袖口や裾にはふんだんにレースがあしらわれ、華やかに仕上がっている。
足首にかかるぐらいのロング丈で、靴もお揃いの刺繍が入ったストラップシューズだった。
「師匠〜!さすがにこれはやりすぎだよね?」
「いいじゃないか!リアは何を着ても似合うよ!」
師匠はソファに座り、ノルとネロとえっちゃんというモフモフに包まれて幸せそうだ。こっちのことなんか気にも留めていないのだ。
「分かってるじゃないの、イゾルデ!さぁ、リアちゃん!これに着替えましょうね!」
「待って!もっと他の――」
しゃべりかけたオーレリアを気にすることなく、あれよあれよという間に姫巫女ドレスに
着替えさせられてしまった。……手際がよすぎる。ドレスをあっという間に着せる魔法なんてあったっけ?
髪の毛も、ドレスに合わせて編み込まれ、リボンでまとめられた。
「う~ん、ちょっと物足りないわね。背中側にも大きなリボンを足しましょうか!」
「えぇー!いらない!もういいよー!」
オーレリアの抵抗も虚しく、背中に大きなリボンを付けて白金の姫巫女コーデは完成した。
「リア!とっても可愛いぞ!」
『うん!りあ、にあってるよ!』
『めがみさまみたいだよ!』
『へー!女神様ってこんな感じなのか?』
「えっちゃんも今日、女神様にお会いできるよ!」
『やったー!帰ったらみんなに自慢しよう!』
「女神様にこのコーデをお見せするのが楽しみだわぁ!」
プンスカしているオーレリアをよそに盛り上がる外野たち。まったく、今日一日こんな動きにくいドレスで過ごさなきゃいけないこっちの身にもなってほしい!
「あれ?思ったより動きにくくない。こんなにヒラヒラしてるのに、不思議だなぁ」
「当たり前じゃない!私が作ったのよ?」
「そうだ!私の服も頼むよ」
それからは、師匠が異世界で着る服を見せてもらったり、セリアンへの報酬になった四季織りの布を見せてもらったりして、あっという間に時間が経ってしまった。
「さて、そろそろ行かないと遅刻してしまうぞ!」
「あ、そうだね!」
「私は着替えてから行くから、先に行っててちょうだい!」
「わかった。じゃあリア、行こうか!」
「うん!」
セリアンの家を出て、里長ゼフィの家へ向かう。ゼフィの家の最上階にある転移の魔法陣で、女神様のいる神界へ向かうのだ。
魔の森へ行く前に挨拶に行ったので、まだ一年もたっていないからそんなに報告することはないのだけど、でもえっちゃんを紹介したいし、精霊を増やす秘訣を知りたい。
そして、もっと聖域から離れられるようになって、旅行に行きたい。オーレリアはまだ、グレンハルトの町とリステア村にしか行ったことがないのだ。
せっかくならもっと楽しみたいもんね!




