第74話 年越し②
長テーブルに並べられた豪華な料理を前に、どれから食べようか真剣に悩むオーレリア。まずは蒼鱒のカルパッチョをお皿に取る。
蒼鱒のカルパッチョは白ワインと合うって聞いたことがある。空腹でお酒を飲むのはよくないって言っていたから、今はとにかく食べることに専念しよう。
「お!ブルーケイブクラブじゃないか!もしかしてリア、魔の森のダンジョンを見つけた?」
「うん、見つけたよ!そういえば師匠、なんであそこに変な石碑置いたの?」
「あ~あれ?まぁ、雰囲気づくりだよ。古代文字で書いたから、人族が見つけたらきっと読めなくて研究するだろう?そして、あの場所にはかつて何かしらの文明があったと思うわけだ。なんかロマンじゃない?」
「でも嘘じゃん」
「頑張って研究した結果、大昔に書かれた落書きだと知ったら面白いじゃないか!」
「そうかなぁ?」
「リア、イゾルデに理由なんか求めちゃダメよ。たぶん暇だったから適当に作っただけだわ」
まさかと思い、チラッと師匠の顔を見るが、師匠はしれっとした顔をしてブルーケイブクラブを食べている。
あ、これはアルシアの言う通りなんだ……。
「まぁ、師匠だもんね。あ、そうだ!それで、そのダンジョンの至宝?ってやつを師匠へのお土産に持ってきたよ!」
「ん!もしかして【ブラックネッコ】か?」
「そうだよ。はい!」
オーレリアは空間収納からブラックネッコの樽を取り出した。
「おぉ〜!でかした、リア!さすがは私の弟子!」
「そんなに美味しいの?」
「ダンジョン産のお酒は、普通のお酒とは熟成年数が違うんだよ。このブラックネッコなんかは千二百年物だな」
へー。よく分からないけど、美味しいってことなのかな?
「じゃあ師匠!さっそく飲んでみようよ!」
「……リアにはまだ早いんじゃないかな」
「そうね、リアにはまだ無理だと思うわ」
「え、なんで?」
「ウイスキーは酒精が強いんだよ。リアはまず……そうだな……ミードから始めたほうがいいかな」
イゾルデはオーレリアにばれないように、チラッとアルシアに目配せをする。アルシアも心得た様子で頷いた。
「じゃあ、私がリアのミードを持ってきてあげる!ちょっと待っててね!」
「あ、いいよ。わたし自分で――」
「いいからいいから、食べて待ってて!ほら、ドラゴンテール煮込み好きでしょ?今日のもすごく美味しいわよ!」
そう言って、アルシアはスタスタと行ってしまった。
「おーい!リアがダンジョン産のブラックネッコを差し入れてくれたぞー!」
師匠が大きな声で皆に声をかけると、嬉しそうな顔でわらわらと人が集まってきた。
「おぉ!オーレリア!凄いじゃないか!」
「ブラックネッコなんて久しぶりだな!」
「綺麗な琥珀色だわ!オーレリア、ありがとう!」
「最高じゃん!やったぜ!」
などなど、集まってきた人たちに声をかけられる。こんなに愛好家がいたとは驚きだ。みんなそれぞれのグラスにブラックネッコを注いでは、色や香りを楽しみ、じっくりと味わっていた。
「ブラックネッコか!昔イゾルデが持って帰ってきたことがあったな」
ゼフィもやって来てブラックネッコをグラスに注ぐ。
「私が見つけた魔の森のダンジョンを、リアも見つけたんだよ。またこれが飲めるのは嬉しいね!」
「美味いな!オーレリア!そのダンジョンに行ったらまたこのお酒を持ってきてくれよ」
「わたしはもう行きたくないな。ノルとネロとえっちゃんにお願いしてよ!」
「あぁ、あそこには大きな虫が出る階層があったっけ。それじゃあ、ノル、ネロ、えっちゃん!頼んだよ!」
師匠がちゃっかりみんなにお願いしてる。また一人でお留守番になってしまうから、オーレリアとしてはあまり行ってほしくはないのだが。
『いいよー!』
『とってくるー!』
『獲ってくるから俺にも飲ませて!』
「お、なんだ!エルディオールも飲める口だったか!よし、一緒に飲もう!」
ゼフィがえっちゃん用の器にブラックネッコを注いであげた。
「えっちゃん!この間みたいに飲みすぎないでね!」
『分かってるよ~!』
あんまり分かってなさそうな返事が返ってきたけど、まぁいい。今日はオーレリアだって飲むつもりなのだ。固いことは言いっこなしだ。
そこへ、グラスを持ったアルシアが戻ってきた。
「リア、お待たせ!(薄めた)ミードよ!」
アルシアが差し出したのは、琥珀色の蜂蜜酒だ。お酒に弱いオーレリアがすぐに眠ってしまわないように、アルシアがオーレリアにばれないようにちょっと薄めてきたのだ。
「ありがとう!アルシア!」
オーレリアは喜んで、早速一口飲んでみた。
「……うん。飲みやすい!」
「それはよかったわ!今年のミードは少し辛口で、すっきりと飲めるそうよ。食事にも合うけど、飲みすぎないようにね!」
アルシアと師匠とゼフィが、にっこりと笑ってオーレリアをみる。薄めたミードなら大丈夫そうだ。
オーレリアはお酒が美味しいかどうかは、正直まだよく分からないのだが、食事と共にお酒を楽しむということができるのが嬉しかった。慣れてくればお酒の味も分かるようになってくるだろう。
いつも宴のときは、お酒を飲んだ師匠たちが楽しそうにしていたので、その仲間に入れるのは嬉しい。
オーレリアは、ゆっくりと食事とお酒を楽しむのだった。
「そうだわ、イゾルデ!リアと一緒にエルフの里にお買い物に行こうかって話してたんだけど、一緒に行く時間はある?」
アルシアもようやく落ち着いたので、食事を食べながら話をする。ちなみにアルシアはワインが好きなので、ワインを飲んでいた。師匠とゼフィはブラックネッコのロックを楽しんでいる。
「問題ないよ!エルフの里なら、米の酒をたくさん買って帰らなきゃ!」
「いいな!俺の分も頼むよ!」
「もう、二人はお酒のことばっかりね!」
『俺も、米の酒飲んでみたい!じいちゃんへのお土産も買おうかな!』
「エルディオールの一族はお酒が好きなんだな?」
「えっちゃんの家族は酒好きか!珍しいな!」
『そうなの?他のフェンリルのことは知らないんだ。でも俺の家族はみんなお酒大好きだぞ!』
「いいじゃないか!このあたりのフェンリルの一族で酒を飲む子は知らないからな。将来有望だぞ!」
『俺、将来有望なの?やったー!』
お酒好きたちは仲間が増えて喜んでいる。えっちゃんもすっかり打ち解けてたようだ。
『おれたちも、おとなになったら、のむもん!』
『ぼくたちは、もうちょっとおおきくなるまで、まつ!』
「そうね!いいこいいこ!ノルとネロには甘くて美味しいいちごミルクをあげるわ!」
『やったー!』
『いちごみるくー!』
「アハハハハハハハハハッ!」
『『『「「「???」」」』』』
みんながギョッとして声の方を見ると、オーレリアがグラスを両手で持ち、プルプルと震えて笑っていた。
「……リア?」
「わたしの服――ヒラヒラしてる……!プーーー!クスクスクス」
オーレリアは何やらつぶやいて、ゴクリとミードを一口飲んだ。
「……オーレリアさ~ん?」
「な、なんで、こんな……アハハハハハハハハハ!」
一体何が可笑しいのだろうか。それは誰にも分からない。
『ししょー!りあがおかしくなっちゃった!』
『ししょー!りあがのろわれたー!たすけてー!』
しらふのノルとネロは本気で心配している。
「ノル、ネロ、大丈夫だよ。リアは笑い上戸のようだ!」
「おかしいわねぇ。ちゃんと薄めたのに~」
「まだ一杯目だよな?やっぱり弱いなぁ」
『リア、もう酔っ払っちゃったのか?』
アルシアが、オーレリアの手に握られたグラスを抜き取り、お水が入ったグラスに代える。
「ほら、リア!グラスが空だから次はこっちを飲んでね!」
「えへへー!ありがとーアルシアー!」
「まだデザートもあるのよ?」
「デザート?食べるよ!」
そしてオーレリアは、今度はノルとネロと撫でまわし始めた。
『りあ?のろわれてない?』
『りあ、だいじょうぶなの?』
「ウフフフフフフフフフフフフフ」
ノルとネロの心配をよそに、楽しそうなオーレリア。
「明日は女神様のところへ挨拶に連れて行こうかと思ってるのに、大丈夫か?」
「大丈夫だよ!イヴェットが最高の酔い覚ましを作っているからね!」
「そうね、明日はリアの酔い覚ましデビューかしらね!」
オーレリアは明日の朝、イヴェットが作った最高に苦くて一瞬で頭が覚醒する酔い覚ましの薬を飲んで飛び起きることになる。




