第73話 年越し①
ハイエルフの里へ戻ってきたオーレリアの前に、風の精霊がやって来た。どうやら師匠が帰ってきたみたいだ。
今アルシアの家にいるから、一緒に里長の家に向かおうとのこと。オーレリアは急いでアルシアの家に向かった。
「師匠!」
バンッ!!と勢いよくドアを開けると、カウンターに座りアルシアとお茶を飲んでいた師匠が振り向いて、笑顔で迎えてくれた。
「リア!おかえり!」
「師匠もおかえりー!」
走り寄って飛びつくと、師匠も難なく受け止めて、抱きしめてくれた。
『ししょ~!』
『おかえり~!』
「あぁ、ノルにネロ!相変わらず可愛いねぇ!」
オーレリアに続いて飛びついたノルとネロを、師匠はわしゃわしゃと撫でまわす。
「師匠!この子、えっちゃん!新しい家族!可愛いでしょ!」
「おお!えっちゃんか!大きいなぁ。こっちに来てちょっと撫でさせて!」
『もう、リア!俺はエルディオールだよ!ヨロシク!』
「エルディオールか!よしよし、フワフワだなぁ!私はイゾルデだ。よろしくな!」
師匠はえっちゃんも撫でまわす。えっちゃんはフワフワで気持ちいいから、師匠も嬉しそうだ。
「あぁ〜癒される〜。ところでリア、その恰好はどうした?ずいぶん気合が入っているようだけど」
「あ~……これはセリアンとの約束で、里にいる間はセリアンのコーディネートで過ごさなきゃいけなくなったの」
「そうか、なかなか似合っているじゃないか。その色はリアの魔石の色に似てるから、魔法少女っぽくていい感じだよ!」
「魔法少女ってなに?セリアンもそんなこと言ってたけど……」
「ウフフ、昨日は漆黒のゴスロリだったのよね!それも可愛かったけど、今日のドレスもよく似合っているわ!あとね、リア。ドアをバンッ!!って開けたらダメよ?もっと静かにね?」
「ご、ごめん。つい……」
アルシアに怒られちゃったけど、確かに勢いよくドアを開けられるとビックリするんだよね。オーレリアがもっと小さかった頃、朝イゾルデが起こしに来てくれたときなんかも、凄い勢いでドアを開けられて飛び起きていた記憶がある。あれ心臓に悪いよね。
「ハハハ、まぁいいじゃないか。それよりエルディオール!リアのこと、よろしく頼むよ。リアはまだまだ成長途中で、なにかと心配なことが多いからね。君が一緒にいてくれると助かるよ」
『うん!俺に任せてよ!』
『おれも!』
『ぼくも!』
「え~?わたしはそんなに子供じゃないよ!」
オーレリアの抗議も虚しく、みんなから生温かい目で見られたのだった。
「さて、それじゃあそろそろ宴に向かおうか!」
みんなで一緒にアルシアの家を出た。道を歩いていると、同じく里長の家に向かう人々がぽつぽつと歩いている。
「やぁ、イゾルデ!帰ってたんだね」
「おや、オーレリア。今日は素敵なドレスだね!」
「アルシア!今日のご馳走は何かな?」
「オーレリア、昨日のも凄かったけど、今日のドレスも目立ってるぜ!」
「ノル、ネロ、えっちゃん!あとでモフらせてね~!」
などなど、声をかけられながらゆっくりと歩いた。
里長の家の前に着くと、セリアンとばったり出くわした。
「リアちゃん!遠くからでもすぐに分かったわよ!さすが私のドレス!」
セリアンもオーレリアが着ているドレスと同じ色のスーツでバッチリと決めている。さすがにヒラヒラは付いていなかった。
「やぁ、セリアン!ずいぶんとうちの弟子を可愛がってくれてるじゃないか!」
「イゾルデ!あんた帰ってたのね。何よ、これは対価よ。当然でしょう?」
「対価?リア、何をお願いしたんだ?」
「えっちゃんのバッグと、ノルとネロの防寒着だよ」
「ふむ、それなら仕方ないか」
「まったく、あんたはすぐに私に絡んでくるんだから、嫌になっちゃう!」
「お前が事あるごとに、リアを着せ替え人形にしようとするからだ!」
「だってぇ、ヒラヒラした服を着てくれそうなのはリアちゃんしかいないじゃない。他の人たちはみんな嫌がるのよ」
「わたしも嫌だよ?」
「リアちゃんは何を着ても似合うからね。可愛いったらないわ!」
「はぁ~、お前は相変わらずだな」
「あなたもね!」
こんなところで話していても仕方ないので、会場となる二階の広間へ向かった。向かっている間にも話は続く。
「ところでセリアン、『四季織りの布』というのを知っているか?」
「もちろんよ!布の中に春夏秋冬が織り込まれた希少な魔法布でしょ?それがどうかした?」
「実は、今の仕事の関係でたまたま手に入れることができたんだが、私の服を作ってくれるなら、お前にあげてもいいぞ!」
「なんですって!もちろん、なんでも作るわ!でも、あなたの服なら出発前に作ったじゃない?」
「私が欲しいのは、こことは別の世界の服なんだ。そこでは今の服だとちょっと目立ってしまうから、現地の町で服を買ったんだけど、どうにも動きにくいんだよ」
「そういうことね!それなら任せてちょうだい!別の世界の服を見せてもらえるうえに、四季織りの布まで貰えるなんて最高だわ!」
「それじゃあ、向こう600年はただで作ってもらおうか!」
「それはやりすぎよ!300年だけね!」
「500年!」
「ずいぶん吹っ掛けるじゃない!」
「他にも四季織りの布に興味を持っている人がいてね」
「……仕方ないわ。じゃあ500年ね!」
オーレリアは師匠とセリアンのやり取りを呆然と眺めていた。そうか、だから師匠はヒラヒラの服を着なくて済んでいるんだ。もっと早くこの交渉術を知りたかった。
二階の広間には大きな木製の長テーブルが二列に並び、すでに多くのハイエルフたちが席についていた。
オーレリアも師匠と並んで席に着いた。すると、まずはテーブルにグラスが並ぶ。そしてどこからともなくワインの瓶がヒューンと飛んできて、グラスに注がれていった。
「あっ!わたしだけぶどうジュースだ。代えてもらってくる!」
オーレリアのグラスにだけ、果汁100%のぶどうジュースが注がれていた。
「リアはいつもぶどうジュースだろう?」
「わたし、今年からはワインにする!」
「とりあえず、乾杯はジュースでいいんじゃないか?」
「ワインで乾杯する!」
「リア!空腹でお酒を飲むのは慣れてない人にはよくないのよ。ワインは何か食べてからにしましょう?」
オーレリアは師匠とアルシアの説得で、仕方なくぶどうジュースのグラスを手に取った。ちなみに、ノルとネロとえっちゃんもぶどうジュースだった。
「今日こそはと思ったのにー!」
プンスカしているオーレリアだったが、師匠とアルシアは目配せしてオーレリアの飲酒を阻止するのだった。ぜったいに寝ちゃうに決まっているのだ。まだ宴も始まっていないのにさすがに早すぎるだろう。
そうこうしていると、里長のゼフィリオンがグラスを片手に前に出た。
「やあ、諸君!今年も最後の日がやって来たぞ!良い事があった者も、そうでない者も今夜は楽しく食べて飲んで語り合おうじゃないか!それでは――乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
みんなで乾杯してグラスを傾けていると、いつのまにかアルシアが料理をテーブルに配膳していた。アルシアの魔法によって、長テーブルに次々と料理が運ばれていく。
料理のラインナップも、年末の宴ということでとても豪華だ。世界樹の泉に生息する蒼鱒のカルパッチョ、蒼嘴鳥の丸焼き、蒼角牛のTボーンステーキ、蒼森竜のドラゴンテール煮込み。それに、焼き立てのパンに、森のキノコサラダ、果物盛り合わせもあった。
そして、オーレリアのお土産であるブルーケイブクラブの料理の数々。
『うわぁ~!すごいすごい!』
『ごちそうだー!』
『凄い!食べていい?』
ノルとネロとえっちゃんは次々と運ばれてきた料理にくぎ付けだ。目がキラキラと輝いている。アルシアがお皿にサッと取り分けてくれたので、三匹は一心不乱に食べ始めた。
年に一度のハイエルフたちの宴が始まった。




