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魔の森でモフモフたちと暮らすことになりました  作者: 一色青
第5章

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第72話 成人の儀

 それは、オーレリアが成人を迎えた日のこと。

 世界樹の泉には、朝靄が静かに漂っていた。


 オーレリアは泉のほとりに立ち、里長のゼフィリオンと師匠のイゾルデを前にしていた。


「いいかい?この世界樹の泉に自らの魔力を注ぐんだ。それを三日三晩続ける。そうしてできた魔石は、君が生涯持ち続ける唯一無二の魔石となる」

「人によって色も大きさも違う。大切なのは、とにかく三日三晩、安定した魔力を注ぎ続けることだよ」

「三日三晩……。ごはんは?」

「フフフ。それじゃあ、私がここに結界を張るから頑張るんだよ、リア!」

「集中力を切らさないようにな!健闘を祈る!」

「ねぇ、ごは――」


 ゼフィがオーレリアの肩に手をおき、ポンポンとするとオーレリアから離れた。続いてイゾルデがオーレリアの頭を撫でてから、周りに結界を張った。


「それじゃあ、俺たちは行くからな!」

「三日後に迎えに来るよ!ノル、ネロ、おいで!」

『りあ、がんばってね!』

『りあ、ひとりでも、ないちゃだめだよ?』

「泣かないし」


 そうしてゼフィと師匠は、ノルとネロを連れて里へと戻っていった。ノルとネロはオーレリアを集中させるため、今日から三日間イゾルデが面倒を見てくれる。


 一人ポツンと残されたオーレリア。仕方なく、言われた通り泉のほとりに座り込み、水面へ向けて手を差し出した。そして静かに魔力を流し込む。


 ゆっくりと静かに、魔力を注ぐことだけに集中する。オーレリアの周りでは、魔物たちが入れ替わり立ち替わり泉の水を飲んでいく。だが、気になったのは最初だけだった。次第に周りのことなど意識から抜け落ち、オーレリアは魔力を注ぐことだけに没頭していった。


 注がれた魔力が泉の底で次第に渦を巻き、一か所にまとまってきた。グルグルと渦を巻き、まるで銀河のように無数の光が瞬いていた。


 ずいぶんと集中していたようだ。気が付けば辺りは暗闇に包まれていた。ぐぅ、とお腹が鳴り空腹を覚えたが、ギュッと目を閉じて泉の中の魔力の渦に集中し直す。それからはただ、銀河のような美しい渦に、無心で魔力を注ぎ続けた。


 朝が来てまた夜になり、また朝が来て三日間が過ぎた頃、ゼフィとイゾルデが迎えに来た。オーレリアはそのことにも気づかず、まだ魔力を注ぎ続けていた。


「……ア!……リア……」


 何か聞こえた気がしたが、まだ目の前の作業に集中する。


「リア!!」


 イゾルデが大きな声で呼びかけると、オーレリアはハッとして、ようやく顔を上げた。


「……あれ?……師匠?」

『りあー!』

『ずっとよんでたのに!』

「そうなの?ごめんね」


 オーレリアは、心配そうによじ登ってきたノルとネロを抱きしめた。


「リア、お疲れ様!よくやったね!」

「……え?……もう終わったの?」


 オーレリアはカラカラにかすれてしまった声で問いかける。


「終わったよ。泉の中の魔石を見てごらん」


 泉を覗き込むと、さっきまで魔力を注ぎ続けていた銀河のような魔石が、ゆっくりと浮かび上がってきた。オーレリアはその魔石を両手ですくい上げる。


「……できた」


 それは深い夜空を思わせる紺色の魔石だった。内部には無数の光が星のように揺らめき、小さな銀河が閉じ込められているかのようだ。両手で抱えるほどの大きな魔石は、息をのむほど美しかった。


「綺麗な魔石だな!」

「さすがは私の弟子だ!」

『りあ!すごいねー!』

『すごくきれいだねー!』


 無事に魔石を作ることが出来て安心したオーレリアは、突然もの凄い疲労感に襲われた。体が鉛のように重いし、なんだか目が回る。これは、あれだ。


「師匠……お腹……すいた……」


 そう言ってオーレリアは、パタリと倒れこんでしまった。慌てて駆け寄り抱え上げたイゾルデだったが、オーレリアはスピースピーと穏やかな寝息を立て眠っていた。


「寝てる……。まったく、お腹が空いたんじゃなかったのか?」

「ハハッ!さすが、お前の弟子だな!」



***



「そんな感じで出来たんだよ、この魔石は!」

『へ~!三日三晩か。しかもご飯抜きだなんてな。大変だったな!』

「そうなの。成人するときは、みんなこうやって自分の魔石を作るんだよ」


 この魔石を作る三日三晩を、あっという間に感じる人もいれば、永遠の長さに感じる人もいる。オーレリアは運のいいことに前者だった。


 そうして出来上がった魔石は、人によって大きさも色も違う。師匠のイゾルデの魔石はオーレリアの魔石と同じように大きく、燃え盛る炎を思わせる深紅だった。内部では炎が揺らめくような光りが絶えず揺れ動いていて、とてもカッコいい。


 一方、ゼフィの魔石は片手に収まるほどの大きさで、森の泉を思わせるような、澄んだ翡翠色だった。内部では木漏れ日のような光がキラキラと瞬いていて、とっても綺麗だった。


 オーレリアは魔法使いになったから杖に取り付けたのだが、剣や弓などの武器につける人もいれば、アクセサリーにする人もいる。使い方も人それぞれだった。


『おれたちは、おるすばんだった』

『ちかくにいちゃダメだっていわれたの』

『それは心配だっただろう。遠くから見るのもダメだったのか?』

『おれたちは、ばれるからダメだって』

『しゅうちゅうりょくが、とぎれるんだって』

『でも、ししょうは、ようすをみにいってたよ!』

「え?そうだったの?全然気が付かなかったなぁ」

『りあは、すごくしゅうちゅうしてるっていってたよ』

「確かに、三日もたったとは思わなかったぐらい早く感じたけど。でも、みんなが迎えに来てくれて、急にお腹が空いたのは覚えてるよ」


 まぁ、食べるより先に寝てしまったんだけど。


『りあ、つぎのひまでおきなかったの!』

『おなかすいたーっていって、おきたんだよ!』

『なんだよ、リア!食いしん坊だなぁ!』


 三匹にキャハハと笑われる。うぅ、なんだか恥ずかしい。


『じゃあ、成人のお祝いではいっぱい食べられたのか?』

「いやぁ……まぁ。でも、起きた直後はお粥だったよ。急に食べたらお腹壊すからって」

『ハハハ!それは仕方ないよな!』


 アルシアが作ってくれたお粥は美味しかったけどね。お祝いの宴は、オーレリアの体調が回復してから開かれた。


『でも、その言い方だと、お祝いではあんまり食べられなかったってことだよな?』

『りあはね、おさけのんじゃったの!』

『そう!それでね、すぐにねちゃったの!』

「ちょ、ちょっと!それは言わないの!」

『なんだよリア!隠し事か?』

「違うけど……なんでもないよ!」


 ノルとネロがフフフとかウフフとか言って、結局えっちゃんに話しちゃうんだから困ったものだ。


『なんだ、リアはお酒飲めないのか。嫌いなのかと思ってたよ。じゃあ今日の夜も飲まないのか?』

「まさか!絶対に飲むよ!一人のときには飲んじゃダメって言われたけど、今日はたくさん人がいるし、師匠だっているはずだもん!それに、わたしはあのときより大人になったからね!もう大丈夫なはず!」

『大人になったって、たった12年前なんじゃないか?』

「人ってのは、12年たつとずいぶん成長するものなんだよ」

『リアはハイエルフだから、そんなに変わらないだろ?』

『うん。かわってないよ』

『ぜんぜんかわってない』

「失敬だな、君たちは!背も伸びてるし、あのときより大分成長してるよ!」

『そうかなぁ?』

『う〜ん。わからない!』

「もう!」

『アハハ!さぁ、そろそろ里に戻ろう!宴に遅れちゃうぞ!』


 去年まではなんとなく避けていたお酒だったが、女神様のお仕事もするようになって、そろそろ大人の仲間入りをしてもいいんじゃないかと考えたオーレリア。


 今日はお酒を飲むんだ!師匠も帰ってくるし、きっとみんなで夜遅くまで飲むだろう。わたしも今夜は、その仲間に入れてもらうんだ!


 オーレリアはウキウキとした足取りで、里へと戻るのだった。


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