第71話 星夜のドレス
翌朝、パッチリと目を覚ましたオーレリア。
昨日は帰ってからすぐにお風呂に入り、早めに布団に入った。ゴスロリ衣装を脱ぎ捨てパジャマに着替えた瞬間は、えも言われぬほどの解放感だった。
身支度を済ませアルシアの食堂に向かう。アルシアの食堂はだいたいお昼からなので今は開いていないが、オーレリアは勝手知ったる様子で裏口から中に入っていった。
「あら、おはようオーレリア!みんなもおはよう!」
「おはよう、アルシア!」
『おはよー!あるしあ!』
『おはよー!おなかすいた!』
『おはよう!』
アルシアは厨房でおにぎりを握っていた。お味噌汁のいい匂いもする。
「リア、卵焼きとソーセージ焼いてくれる?」
「うん!」
オーレリアは卵を割って卵焼きを作る。最近はお料理をニックとレミーに任せっきりだったけど、ちゃんと上手に作れたと思う。そのあとソーセージも焼いてそれぞれのお皿に移した。
テーブルにお皿を運ぶと、アルシアが大量のおにぎりを乗せたお皿とお味噌汁を持ってきた。みんなで席について食べ始める。
『おにぎり、おいしい!』
『つなまよだ!やったー!』
『あ、お肉だ!これお肉が入ってるー!』
「ウフフ!こっちの端っこは梅干しだから気をつけてね!」
梅干しが苦手なノルとネロに、ちゃんと説明しているアルシア。面倒見がいい。
「あ~!お味噌汁が美味しぃ〜!久しぶり~」
「あら?お味噌持ってなかった?」
「うん。お米も持ってなかったから別にいいかと思ってたんだけど、この間町でお手伝いしたら、報酬でお米をもらったんだ!お米があるとやっぱりお味噌欲しいよね」
「そうねぇ。年が明けたらエルフの里にお買い物に行こうか?」
「え!行きたい!行く!」
エルフの里は食文化が他とは違い、お米を中心とした食べ物が豊富だった。甘味もいろいろあって、とても楽しい里なのだ。オーレリアは、わーいわーいと喜んだ。
「ところで、このあとはセリアンのところに行くのよね?」
「うん。朝ごはん食べたら来るように言われてるよ」
「ゼフィのところの年越しの準備はもうほとんど終わってるから、今日はお手伝いは大丈夫よ。でも夕方までには来てね!」
「わかった!」
朝食を食べ終えたオーレリアは、アルシアの家を出てセリアンの家に向かう。近くをフワフワと舞っていた風の精霊に今から行くよと伝言を頼むと、ヒューンと飛んで行った。
魔の森の精霊たちも、これぐらい活発になるといいな。
家の前に着くとセリアンが待ち構えていて、早速アトリエに連れていかれた。
「さて、今日はどの服がいいかしらね?」
顎に指を当てながら、壁一面の衣装を眺めている。
「うん!今日は年越しだから特別に、星空を纏ったドレスにしましょう!」
そう言って取り出したのは、膝下からふくらはぎの中間程の長さの、深い紺色のドレスだった。
「題して星夜のドレスコーデよ!」
「……ぅゎぁ」
それは夜空を思わせる深い紺色のドレスで、星や月をモチーフとした銀糸の刺繡がちりばめられている。さらに幾重にも重なるフリルとレース。動くたびに夜空の星々が瞬いているように見えた。足元はフリルの付いた白い膝下丈のソックスに、紺色のストラップシューズ。このストラップシューズにも、星の金具やリボンがついていた。ヒールが低いのがせめてもの救いである。
恐ろしいほどの手際で、気が付いたら着替えが終わっていた。髪の毛もハーフアップにまとめられ、鏡の前に立たされる。
「リアちゃん!凄くいいわ!完璧よぉ!」
「おぉ……着せられてる感がすごい……」
「星夜の妖精のようだわ!今日の年越しイベントはリアちゃんが主役ね!」
「主役って……ただの宴会じゃん!みんなで食事して、お酒飲むだけだよね?わたし、いつもの服でいいのに……」
「あぁ、そうだわ!リアちゃん、エルちゃんのバッグの素材なんだけどね、蒼角牛の革がいいと思うのよ。でも在庫がないから獲って来てくれない?」
「こんな恰好で?」
「あら?動きにくいかしら?」
「ドレスだよ?動きにく……くないね……」
「当たり前じゃない!誰が作ったと思っているのよ!」
何故だろうか。こんなヒラヒラなドレスなのにちゃんと動ける。杖を掲げてみても、引っ掛かるところはない。セリアン恐るべし。
『リア!今日の服もとっても可愛いぞ!』
『ようせいさんみたい!』
『おひめさまみたい!』
「ありがとう。でも、全然この里に馴染まないよね」
『うん!里には馴染んでないな!』
『なじんでないね!』
『しかたないよね』
「はぁ〜。じゃあ森へ行こうか」
「それじゃあ、頼んだわよ~!」
オーレリアはセリアンの家を出て森へ向かう。素朴なハイエルフの里には似つかわしくない華やかなドレス姿で。
誰かに声をかけられても面倒なので、えっちゃんに乗せてもらってさっさと森へ入った。
『どっちへ向かえばいい?』
「蒼角牛は森の中に点在する草原とか、水場の近くにいると思うんだ。北の方に世界樹の泉があるからそっちに行ってみようか!」
『わかった!ねぇ、もしかして蒼角牛って美味しいやつ?』
「もちろん!美味しいやつだよ!」
『やったー!頑張るぞー!』
『『おー!!』』
しばらく北へ進むと、オーレリアには見慣れた世界樹の泉が見えてきた。
世界樹の泉は、その名の通り巨大な世界樹の根元に広がる泉だ。蒼の森の中でも特に神聖な場所だった。
『うわぁ~!すごく綺麗な場所だなぁ!世界樹なんて俺初めて見た!』
『おおきいよねぇ』
『ここのおみず、おいしいんだよ!』
「蒼角牛、今はいないみたいだね。東の方に何かの群れの反応があるからそっちへ行ってみよう!」
そう言って東にある草原へ向かったら、お目当ての蒼角牛がいた。
「いた!あれが蒼角牛だよ!」
オーレリアが指をさした先には、深い青灰色の体に、蒼く発光する角を持つ大きな牛の魔物だった。
『おお!けっこう大きいんだな!よし、行くぞー!』
『『おおー!!』』
ノルとネロとえっちゃんは蒼角牛の群れに向かって突進していく。オーレリアはみんなのサポートに回った。ドレスだしね。
「みんなー!えっちゃんのバッグにするんだからね!革をボロボロにしちゃダメだよ!」
『よし!じゃあノルとネロで牛を撹乱してくれ!俺が横から攻撃する!』
『『わかったー!』』
ノルとネロが蒼角牛の周りをちょこまかと走り回る。時折小さな魔法を放ち、しっかりと挑発している。
怒った蒼角牛が地面を蹴り、巨岩のような体が一直線にノルとネロに襲い掛かる。通り道の樹木が角に弾かれ、乾いた音を立てて折れた。
オーレリアはノルとネロに防御魔法をかけて見守っている。万が一の場合には、すぐに魔法が撃てるよう準備は怠らない。
そこへ、えっちゃんが側面から現れ、蒼角牛に飛びかかる。だが蒼角牛は首を振り、その巨体からは想像もつかない速さで迎撃してきた。
一瞬ヒヤリとして、オーレリアはえっちゃんにも防御魔法をかけたが、えっちゃんはひらりと身を翻して難なく攻撃をかわした。
そして次の瞬間――雷光が落ちた。蒼角牛の全身を青白い閃光が駆け抜ける。そしてその巨体は支えを失ったように崩れ落ちた。
『やったー!』
『たおしたー!』
『ふ~!この森の魔物は強いから狩りが楽しいな!』
「一瞬ヒヤッとしちゃったよ!」
『雷の魔法強めにしちゃったけど、革大丈夫かな?』
「たぶん大丈夫だと思けど、念のためもうちょっと狩っていこうか」
その後、二体の蒼角牛を狩ったオーレリアたちは、休憩のため世界樹の泉へ向かった。
泉のほとりでブランケットを敷いてお昼ごはんにする。ここは他の魔物もやって来るため、結界も張った。
『ねぇリア!俺、蒼角牛食べてみたい!』
『おれも、たべたい!』
『ぼくも!』
「フフフ、言うと思った!実はこんなときのために、ニックとレミーも連れてきたんだ!」
『一緒に来てたのか!』
『おるすばんかとおもった!』
『やったー!にっく、おにくやいて!』
オーレリアは空間収納からニックと解体済みの蒼角牛の肉を取り出し、ステーキにしてもらった。そして、さっそく一口。
『んー!美味しい!柔らかい!』
『とろける~!』
『バクバク……モグモグ……!うまぁ~!』
「本当にとろけちゃうね!美味しい!」
蒼角牛はきめ細やかな霜降り肉で、口の中でとろけるような食感が楽しめる。蒼の森にしか生息していないため、非常に高値で取引されている。
「グレンハルトの町で売ったら喜ばれるかもね!」
『え!売っちゃうの?』
『やだ、たべたい!』
『たべたい!』
「ふふ、じゃあ売らない。そうだ、せっかくここに来たんだから魔石でも作ろうかな。みんなのお守り用に小さいやつ!」
『魔石って作れるの?』
「作れるよ!わたしの杖についてる魔石も、ここで作ったんだよ!」
『えっ?その大きな魔石、リアが作ったの?』
「そうだよ!三日三晩かけてね。成人の日の一大イベントなんだよ!」
あのときは大変だったなぁ、とちょっと懐かしむオーレリアだった。




