第70話 里の夜
森から戻った後は、またアルシアの家に戻る。なるべく人に会いたくなかったので、帰りはえっちゃんに乗って帰って来た。
「ただいまー!」
『『『ただいまー!』』』
「あ、帰ってきたわね!おかえり〜!リアちゃん!」
「わぁ、リア!凄い服ね!」
そこにはすでにセリアンが来ていて、アルシアと談笑していた。
「リア!可愛いじゃない!とっても素敵よ?」
「……じゃあアルシアが着ればいいじゃん」
「私はダメよ。もう大人だもの」
「わたしだってもう大人だよ!」
「リアちゃん!あなたはこの里で一番若いのよ?そのサイズを着こなせるのはあなただけじゃない!」
「大人でもヒラヒラした服を着る人いるでしょう?アルシアとか師匠に着せればいいじゃん!」
こうなったら道連れである。アルシアだってきっと似合う。
「アルシアならまだしも、イゾルデはダメよ。引きちぎられちゃうわ!」
「いくら師匠でもそんなこと……するの?」
チラッとアルシアに確認する。
「まぁ、やりかねないわね」
「そうよ!あの人は昔から、私の着せ替え遊びには付き合ってくれないんだから!」
「わたしも付き合いたくないんだけどな……」
「リアちゃんは~、私に何か作ってほしいのよね?」
「うっ!そう。ちゃんと作ってよ?」
「もちろんよ!約束は守るわ!」
くそぅ、仕方ないか。師匠はセリアンに頼みごとをするとき、どうしていたのだろう。明日会ったら聞いてみよう。
「それでリア!何が狩れた?」
アルシアに聞かれて、ノルとネロとえっちゃんが、それぞれマジックバッグから獲物を取り出す。
「あら!マジックバッグを作ってもらったのね?」
『いいでしょ~!』
『かっこいいでしょ~!』
「それで、エルちゃん用のバッグが欲しいわけね?」
「そう。今のやつはちょっと小さいから、えっちゃんの体に合うように作ってほしいの。あと、ノルとネロの防寒着はフェンリルのデザインにして欲しい!」
「えっ!ヤダ!それ絶対可愛いじゃない!みんな後で採寸させてね!」
よかった。これでちゃんと作ってもらえる。可愛いだろうなぁ、ノルとネロのフェンリルの着ぐるみ。今から楽しみだ。
「え〜っと、蒼茸うさぎと蒼嘴鳥ね!それじゃあ蒼茸うさぎのパイ包みと蒼嘴鳥はローストにしようかな!」
『わーい!』
『おなかすいた!』
『美味しそう!』
「リア!手伝ってくれる?」
「うん!……着替えちゃ――」
チラッとセリアンを伺うオーレリア。
「ダメよ!大丈夫、エプロンを持ってきたわ!」
セリアンは、フリフリでヒラヒラの真っ白なエプロンを着けてくれた。
「……」
「抜かりないわよ!」
食堂の中央には、大きな丸テーブルが置かれ、その周囲を囲むように椅子が並べられている。他には、厨房に面したカウンター席があった。今はセリアンがカウンター席からニコニコとオーレリアを眺め、なにやらスケッチを描いている。
アルシアのお手伝いをしていると、食堂に次々と人がやって来た。
ハイエルフは人数が少ないため、里の者はほとんど顔見知りだ。食堂に来れば自然と大きな丸テーブルに集まり、食事をしながら交流を楽しんでいる。
オーレリアはアルシアとおしゃべりがしたいので、いつもカウンター席に座る。
「アルシア!今日の獲物、置いてくな!」
「ありがとう!夜ごはん、もうちょっと待っててね!」
「あぁ、酒もらってくぞ!」
「どうぞ!」
狩人の一人が、いつものように捕ってきた獲物を貯蔵庫へ入れていく。
ハイエルフの里には通貨制度はなく、それぞれが必要なものを持ち寄り、分け合うことで、里全体が自然に循環しているのだ。
オーレリアも、森で薬草を摘んできたり、アルシアのお手伝いをしたり、ゴスロリ衣装を着たりして里に貢献していた。
料理が出来上がり、アルシアが慣れた手つきで料理を配膳する。お皿が次々と空中を舞い、テーブルにスーッと落ち着いていく。みんながそれぞれ、ありがとうとかいただきますと言って食べ始めた。
「リアも食べよう!こっちにおいで」
アルシアに呼ばれて、オーレリアもカウンター席に着く。ノルとネロとえっちゃんには、すでに料理が配られ、食べていいかとこちらを見つめていた。
「ごめんね、お待たせ!いただきまーす!」
『『『いただきまーす!』』』
『あっつい!ふーふー!』
「あら、みんなにはちょっと熱すぎたかしら?冷ましてあげるね」
アルシアは、ノルとネロとえっちゃんのシチューを、魔法でちょうどいい温度に冷ましてくれた。
『あるしあ、ありがとう!』
「どういたしまして!」
『パグパク!ウマイウマイウマイウマイ!』
『ちょうどいい温かさだ!美味~い!』
美味しそうに食べる三匹を眺め、オーレリアも食べ始める。
サクサクのパイをスプーンで割ると、中から蒼茸うさぎのお肉とキノコがたっぷり入ったクリームシチューが湯気とともに顔を覗かせた。火傷しないようにフーフーと息を吹きかけてから口に運べば、優しいミルクの甘みと素材の旨味が口いっぱいに広がっていく。なんだか心まで温まるようだった。
蒼嘴鳥のローストも香ばしく焼けており、ナイフを入れると透明な肉汁があふれた。表面はパリッパリで中は肉汁たっぷり。蒼の森の果実ソースがよく合った。
「すごく美味しい!やっぱりアルシアが作ると全然違う!」
「あら、ありがとう!リアにもレシピあげたじゃない。あれと同じよ?」
「レシピ通りに作っても、こんなに美味しくならないよ!なんでだろう?」
「アルシアの料理は真似できない美味しさなの!だからみんなここに食べに来るのよ!」
「やぁねぇ!リアもセリアンも!そんなに褒めたって何もでないわよ!」
そんな風に楽しく食事をしている間にも、里の人たちが次々と食堂へやって来ては、食べ終えた人から帰っていく。
焼き立てのパンを大量に運んでくる人、食後のデザートを差し入れる人、酒樽を抱えて現れる人までいて実に様々だ。
ちなみに、みんなオーレリアのゴスロリ姿を見てギョッとするのだが、セリアンを見つけて納得し、可愛いよとか似合っているよなどの言葉を絞り出して、そそくさと席に着くのだった。
やがて、里長のゼフィやその補佐をしているペネロペ、先ほど会ったイヴェットも姿を見せ、食堂はさらに賑やかになっていく。
温かなオレンジ色の灯りに照らされた店内は、穏やかで幸せな空気に満ち溢れていた。
『あ~!おれ、おなかいっぱい!』
『ぼくも!もうたべられない!』
『美味かった〜!幸せだ!』
「うん!わたしも幸せ~」
いつものご飯も美味しいけれど、やっぱりアルシアのご飯は一味違う。オーレリアも、ノルとネロとえっちゃんも大満足の夜ごはんだった。
「それじゃあ、そろそろお家に帰ろうか」
みんなで後片付けをして家に帰る。
「リアちゃん!明日は朝ごはんを食べたら、すぐに私のところに来てちょうだいね!明日はどんなお洋服にしようかしら!楽しみだわ!」
「あ、うん……わかった……」
「それじゃあね、リアちゃん、アルシア!おやすみなさい!」
「おやすみ!セリアン」
「おやすみ……」
あんまり派手な服じゃありませんように。合掌。
「フフッ!リア、今日はお疲れさま!ゆっくり休んでね、おやすみ!」
「おやすみ、アルシア」
『『『おやすみ~!』』』
オーレリアの家はアルシアの家の隣なので、あっという間に到着する。さらに隣は師匠の家だが、今はまだ灯りが消えたままだ。
ドアを開けると、あたたかな魔法灯の光が灯る。久しぶりに帰って来た我が家は、魔の森とよく似た造りをしている。大きな樹をそのまま住居へ変えたような、丸みを帯びた壁と木肌の天井。窓の位置や棚の配置も、どこか似通っている。
けれど、この家にはオーレリアの暮らしがしみ込んでいた。長い年月をかけて磨かれた床や手すりは柔らかな艶を帯び、何度も触られてきた木肌は滑らかに馴染んでいる。ノルとネロが付けた小さな傷跡も数知れず。
魔の森の家とは違う、故郷の匂いがした。そんなに長い間留守にしていたわけではないのに、不思議と懐かしさを覚える。
ドアを大きく開け、ノルとネロとえっちゃんを中へ入れる。入り口の玄関マットを踏みしめ、そのまま家の中に入っていく三匹。最後にオーレリアが中へ入り、静かにドアを閉めた。
「ただいま!」




