第69話 漆黒のゴスロリ
アルシアのお手伝いを終えたオーレリアは、空いた時間で蒼の森に狩りに行くことにした。
えっちゃんとノルとネロが行きたがったし、夜ごはんに蒼の森の魔物をえっちゃんに食べさせてあげたいからと、アルシアに言われたからだ。
「それじゃあ行ってきまーす!」
『『『いってきまーす!!!』』』
「いってらっしゃい!気をつけてねー!」
アルシアに見送られて森へ向かう。里の中を歩いていると、久しぶりに会う知り合いに声をかけられた。
「リアちゃんじゃないの!帰ってたのね?あらっ!ノルちゃんとネロちゃんのリュック!とっても似合っているわ!さすが私!」
服飾師のセリアンだった。セリアンは金色の瞳で、緩くウェーブのかかった水色の長い髪を、横で一つに束ね肩へ流している。
里の人たちの服はすべてセリアンの手によるものだ。とっても腕のいい服飾師のお兄さんである。
「あ、セリアン。リュックありがとう!ちょうどよかった。実は他にも――」
「ちょうどよかった。じゃないでしょ?私の服を着てもらうって約束じゃない!さぁ私の家に行って早速着替えましょう!」
そうだった。ノルとネロのリュックの作成をお願いしたとき、手紙にそんなことが書いてあったっけ。
「ちょ、ちょっと待って!わたし今から森に行くの!」
「着替えてから森に行けばいいでしょ?」
「え……でも、狩りをするんだよ?セリアンの言う服ってヒラヒラのやつでしょ?」
「もちろん!ヒラッヒラのフワッフワよ!」
「そんなので狩りは出来ないよ!それに、破れたりするかもしれないし!」
「リアちゃんは魔法使いなんだから、ヒラヒラでも大丈夫よ。それに、私の服はそう簡単には破れないわよ?しっかりと保護魔法をかけているからね!」
「魔法使いだからヒラヒラで大丈夫って、なんで?」
「魔法少女はそういうものだからよ!」
「そういうものって?わたしは違うと思うよ?」
「いいから早く行くわよ!」
ああ、断れない。押しに弱いオーレリアは、セリアンにガシッと腕を掴まれ、家に連れていかれる。ノルとネロはセリアンに慣れているが、えっちゃんは呆気に取られてしまっている。
『だいじょうぶだよ、えっちゃん』
『こわいひとじゃないよ』
「あら、ヤダ。怖かった?あなたは初めましてね?私はセリアンよ」
『お、俺はエルディオール』
「エルちゃんね!よ・ろ・し・く☆」
「セリアン、えっちゃんのバッグも作ってほしいの。あとノルとネロの新しい防寒着も!」
「いいわよ!じゃあ里にいる間、毎日私の最新デザインの服を着てちょうだいね!」
「え……毎日?」
「毎日よ!」
「……」
セリアンの家に着き、アトリエに連れていかれる。そこは、壁一面に無数の衣装が掛けられていた。
セリアンはその中から何着かの服を選び、オーレリアの体に合わせてみる。
「うん。ちょうど良さそう!今日はこの漆黒のゴスロリ衣装にしましょう!」
「え!……これは……ちょっと……」
それは、森を歩くにはあまりにも不釣り合いな衣装だった。黒を基調としたボリュームのある膝丈のスカートには、たっぷりとフリルやリボンがあしらわれており、編み上げブーツと頭にはフリフリのヘッドドレス。
オーレリアは恐れおののき、思わず数歩後ずさったが、セリアンの恐ろしいまでの手際で、あっという間に着替えさせられてしまうのだった。さらに髪は高い位置でツインテールに結ばれ、ヘッドドレスの紐を顎の下で結び、鏡の前に立たされた。
そこには、虚ろな目をしたオーレリアと、これ以上なくご機嫌なセリアンがいた。
「かーわーいーいー!リアちゃん、よく似合ているわよ!」
「……そうかな?」
「あ~ん、楽しい!ねぇ、今日はアルシアのところで夜ごはんを食べるんでしょう?」
「……うん……そう」
「私も行くから、一緒に夜ご飯食べましょうね!」
「……うん」
この格好のまま森へ行き、夕食のときも着替えられないことが決定した。
『りあ!かわいいよ!』
『りあ!にあってるよ!』
『お、おう!似合ってるぞ!』
「そうでしょう?可愛いわよね~♡」
「……」
今まで壁際に距離を取り、遠巻きに様子を眺めていたノルとネロとえっちゃんが褒めてくれる。ノルとネロは純粋に褒めてくれてるんだけど、えっちゃんは空気を読んだ感じだ。
「……じゃあ、森に行ってくる」
「は〜い、いってらっしゃ〜い!アルシアのところで待ってるわぁ!」
しかたなくゴスロリ衣装で森までの道を歩いていると、次々と声をかけられる。こんなときに限ってやたらと知り合いに会ってしまうのだ。
「おや、オーレリア。その恰好は……セリアンに捕まったのね?」
「イヴェット、久しぶり。……ちょっと森に行ってくる」
「そう?それなら、ついでに化粧水につかう薬草を摘んできてくれる?」
「うん、わかった」
「とっても可愛いよ!イゾルデにも見せてあげたいね」
「大丈夫だよ。里にいる間は毎日着せ替え人形になるって約束させられたから……」
「あ、あら……そう。じゃあ、気をつけて行っておいで……」
「うん、いってきます」
イヴェットは薬師の女性で、たぶん年齢は結構高め。女性に年齢を聞いたらいけないらしいので詳しくは知らないけど、ラベンダー色の髪と瞳のとっても落ち着いた女性だ。オーレリアの家の近所に住んでいて、昔からいろいろな調薬や薬草のことを教えてもらっていた。
そんなイヴェットがちょっと気の毒そうな顔で見送ってくれた。
「はぁ……。よし、服のことはいったん忘れよう!早く森に入っちゃおう!」
オーレリア一行はずんずん歩き、森の中へと入っていった。
『わぁぁ!青いなぁ〜!綺麗な森だ!』
『きれいでしょ!』
『ぜんぶ、あおいんだよ!』
「精霊もたくさんいるし、やっぱり落ち着くな~」
『ほんとだな!こんなにたくさん精霊がいるの、初めて見た!』
『もっといっぱい、いるところがあるよ!』
『おくのいずみに、いっぱいいるよ!』
『そうなのか!凄いな!』
蒼の森は普通の森とは異なり、木々の葉や草花が青く染まっている。植生も独特で、森全体が神秘的な雰囲気に包まれているのだ。
『どんな魔物がいるんだろう!楽しみだなぁ!』
『えっとねー、うさぎとか、いのししとか!くまとか!』
『あとね、りゅうがいるよ!』
『え!竜がいるのか!それ狩りたい!』
「それは、蒼森竜っていうこの森で一番美味しい竜だよ。森の奥の方にいるから、出会えるかは分からないけどね」
『一番美味しいのか!それなら尚更狩りたいな!』
そう言っている間に早速うさぎの魔物、蒼茸うさぎが現れた。蒼茸うさぎは蒼茸という青白く発光するキノコを主食としているため、耳の先の毛が青白く光っている。意外と獰猛で、うさぎと言えども油断ならない魔物だった。
ゴスロリ姿のオーレリアが杖を構えるが、張り切っているえっちゃんとノルとネロが我先にと倒しに行く。
蒼の森の魔物は強いのだが、豊富な魔素でいつもより体が軽いえっちゃんが、キレッキレの風魔法で仕留めた。
『おぉー!なんかいつもより魔法の調子がいい!』
『えっちゃん、はやい!』
『えっちゃん、まほうすごかったね!』
先を越されてちょっと残念そうなノルとネロだったが、話している最中にも背後から蒼嘴鳥という、青黒い羽の鳥が急降下してきた。嘴が鋭く目が淡く発光しているのが特徴で、カラスと猛禽類の中間のような鳥だった。
オーレリアの防御魔法で弾かれた蒼嘴鳥をノルとネロとえっちゃんがそれぞれ仕留めていく。
『体が軽いから楽しい!』
『やったー!』
『とり、げっとー!』
「よし、もうちょっと先に進もう。イヴェットから薬草頼まれてるからね」
森を進み、オーレリアが薬草を採取している間にも、蒼茸うさぎが現れてはえっちゃんたちが楽しそうに狩りをしていた。
「さて、これぐらいあればいいかな?」
『薬草採取は終わったのか?』
「うん、終わりだよ。そろそろ帰ろうか」
『かえろう!』
『もうすぐ、よるごはんだ!』
『竜に会いたかったなー』
「また森に来ればいいよ。六日間ぐらいはいるんだし」
『そうだな、楽しみはとっておこう!』
そうか、あと六日間はこんな服を着て過ごさなきゃいけないんだ……。でも不思議と動きにくくないんだよなぁ。セリアンには絶対に言わないけど……。




