第68話 里帰り
冬も深まり、年の瀬の寒風が畑の間を吹き抜ける。雪はまだ降っていないが、結界がある魔の森もだいぶ寒くなってきた。
「よし!留守の間、畑のお世話とピピちゃんとポポちゃんのお世話をよろしくね!」
オーレリアは畑のお手伝いゴーレム、ノーグの魔石を満タンにした。ピピちゃんとポポちゃんの鶏小屋も冬対策はバッチリで、オーレリアの家の中同様、一定の温度に保たれている。そのエネルギー源である魔石の補充も忘れない。
明日は今年最後の日ということで、年末年始をハイエルフの里で過ごすため、里帰りをするのだ。
「忘れ物はないかな?みんな大丈夫?」
『だいじょーぶー!』
『わすれものはないよ!』
『俺も大丈夫!』
「おっけー!じゃあ行くよ!」
オーレリアは家と畑の間の少し空いている場所で、転移魔法を発動した。足元に魔法陣が浮かび上がり、強い光が放たれた瞬間、オーレリアたちの姿はその場から消え去った。
景色が歪んだと思った次の瞬間、オーレリアたちはハイエルフの里に到着した。久しぶりの里の空気に、思わず深呼吸する。魔素が濃い。精霊が多い。転移魔法で失われた魔力が一気に回復していくのが分かった。
「おぉ~!魔力が回復していく!そういえばこんな感じだったね!」
『わ〜い!かえってきたー!』
『わ〜い!ひさしぶりー!』
『おぉ!ここの空気すごい!こんなの初めてだ!』
ここは里の中心、里長ゼフィリオンの家の前にある広場だった。転移で帰ってくるときの目印として、よくここが使われる。
体が軽くなってご機嫌なオーレリアは、さっそく挨拶に行こうと歩き出す。だが、たどり着く前に里長の家のドアが開き、中からゼフィリオンが出てきた。
「オーレリア!おかえり!」
「ゼフィ!」
オーレリアはゼフィに駆け寄り飛びついた。ゼフィは難なくオーレリアを受け止め抱き上げてくれる。
「最初に魔の森に行ったときはどうなる事かと思ったけど、元気そうでよかった!」
「ただいま!わたしも、ノルとネロも元気だよ!あと、えっちゃんも!」
オーレリアはゼフィに降ろしてもらうと、えっちゃんを紹介した。
「この子が新しい私の家族!フェンリルのエルディオールだよ」
初めてオーレリアがえっちゃんの名前を間違えずに紹介したものだから、当のえっちゃんもノルとネロも驚いた。
「やあ!初めまして。俺が里長のゼフィリオンだ。ゼフィと呼んでくれていいよ。エルディオールも、名前を覚えてもらうのに苦労した口だね?」
『はじめまして!リアが俺の名前をちゃんと言えたのは、今日が初めてだ!』
「ハハハ!相変わらずだな。俺も覚えてもらうのに十年かかったよ!」
「ゼフィ!それは小さかったから、ちゃんと言えなかっただけだよ!」
「そうか?あぁ!ノルとネロもおかえり!少し大きくなったかな?」
『『ぜふぃ!ただいま!』』
ゼフィはノルとネロを撫でまわす。ついでにえっちゃんも撫でまわされていた。
「さぁ、立ち話もなんだから中においで!みんなで明日の準備をしていたんだ!」
ゼフィに促されて家の中に入る。入ってすぐは吹き抜けのホールになっていて、一階には応接間や執務室など、いくつかの部屋がある。魔の森に行く話を聞いたのも、この部屋の一つだった。
二階は大広間になっていて、集会や宴会とかで人が集まるときはここを使う。今はこの二階の大広間で、明日の準備がされているようだ。
「オーレリア!帰ったのね!」
「アルシア!ただいま!」
『あるしあだー!』
『ただいまー!』
オーレリアの家の隣の食堂の店主、アルシアだった。宴会の準備の手伝いに来ていたようだ。アルシアはオーレリアと、ノルとネロを順番に抱きしめた。
「元気そうね!ちっとも手紙をくれないから心配したのよ?」
「えへへ〜、ごめん。アルシアがくれたレシピ帳のおかげで、ずいぶん助かってるよ!」
「それはよかったわ!ノルとネロも元気そうね?ミルク飲む?」
『『のむ!』』
「アルシア、この子はフェンリルのえっちゃん!わたしの新しい家族!」
「綺麗なフェンリルね!よろしくね、えっちゃん!」
『俺はエルディオールだよ!よろしく、アルシア!リア、もうえっちゃんに戻っちゃってるぞ!」
「ごめん!でもここの里の人たちは、みんなえっちゃんの言葉が分かるから大丈夫!」
「ウフフ、エルディオールなのね?分かったわ!それじゃあ、エルディオールにもミルクをあげるから、こっちにいらっしゃい!」
『やった!』
アルシアに連れられて、一階の奥にある厨房へ向かった。オーレリアの家と違い広々とした厨房には、中央に大きな作業台がある。
アルシアはそこでノルとネロとえっちゃんにミルクを入れてくれた。三匹は嬉しそうに飲み始める。
オーレリアとゼフィにはコーヒーを入れてくれた。
「ねぇ、師匠はいつ帰ってくる?」
「イゾルデは明日になるそうだぞ」
「そっか、忙しいのかな?師匠ってどんなお仕事してるの?」
「あら?リアは何も聞いてなかったの?」
「うん、聞いてなかった」
「リアの初仕事と重なったから、あえて言わなかったのかしらね?」
「さあな、ただ言い忘れていただけだろう。イゾルデは、女神様が管理する別の世界で、綻びの修復をしているんだよ」
「綻びってなに?」
「女神様によると、どうやらその世界では、綻びができて季節が狂ってしまったらしいんだ。だから原因を調査して、その綻びを修復するんだよ」
「……なるほど。よく分からないけど、なんか大変そうだね」
「ウフフ、そうね。でもイゾルデは魔法に関してはとても優秀だからね。きっと上手くやるわ!」
師匠は難しいお仕事をしているようだ。ちゃんとご飯食べてるかな?
「あ、そうだ!わたし、お土産持ってきたよ。ブルーケイブクラブっていう美味しい蟹なんだけど」
「おお!蟹か!それはいいな!」
「ブルーケイブクラブって、大きな青い蟹よね?」
「そう!ダンジョンのボスもいるからかなり大きいよ」
「それなら、ここじゃなくて、私の家の厨房の方がいいわね!リア、カニ料理をいろいろ作りたいから手伝ってくれる?」
「うん、わかった!」
「お酒に合う料理を頼むよ!」
ニコニコとうれしそうなゼフィと別れて、アルシアの家に向かう。
里の中を歩いていると、えっちゃんが珍しそうにキョロキョロと辺りを見回していた。
『なんだか不思議なところだなぁ!異世界みたいだ!』
「そう言われてみれば、確かに人の町や魔の森とはずいぶん雰囲気が違うもんね」
「この里は蒼の森という森の中にあってね、この世界で一番魔素が濃い場所なのよ」
『へ〜そうなのか!だから体が軽く感じるのかな?ねぇリア、狩りに行こうよ!』
「え、狩り?それは……今度ね。今日はアルシアのお手伝いするんだから!」
「ウフフ。リア、後で森に遊びに連れて行ってあげるといいわ!」
ここに着いた瞬間の体の軽さと魔力の回復速度を体感して、狩りで試してみたくなっちゃたんたんだろうな。まぁ、気持ちはわかる。仕方ないから後で森に連れて行ってあげよう。
「じゃあ、あとでね!」
『やったー!楽しみだ!』
『えっちゃん!ぼくが、あんないしてあげる!』
『えっちゃん!おいしいまもの、おしえてあげる!』
『うん!よろしくな!』
ウキウキとした三匹を先頭に里を歩く。ノルとネロがえっちゃんに、あそこは誰々の家だよ、などと説明している。えっちゃんは分からないだろうに、うんうんと相槌をうっている。みんなご機嫌なようでオーレリアも嬉しい。
アルシアの家に到着して、広い厨房でカニ料理をつくる。
「わぁ~大きいわね!リア、この蟹茹でてきてくれる?さすがに大きすぎるわ」
「わかった」
厨房の裏口から外に出て、前回と同じように水魔法と火魔法で蟹を茹でるのだが、一人で作業しても全然疲れない。しかも早く終わった。魔素があるってすごい!
「アルシア、出来たよー!」
「ありがとう!それじゃあメニューだけど、お酒に合うおつまみがいいってゼフィが言っていたから、蟹しゃぶと蟹味噌の甲羅焼きは作るとして、私は蟹グラタンが食べたいわ!」
「蟹グラタン!いいね!」
「蟹クリームパスタもいいわよね!」
「それもいい!」
「ウフフ、じゃあ両方作ろうか!」
それから、アルシアの指示のもと、オーレリアはカニ料理のお手伝いをした。ノルとネロとえっちゃんも、味見役で貢献してくれた。
久しぶりにアルシアとお料理を作って、帰って来たなぁって感じがした。




