閑話 ライリエル、町に繰り出す
『リア、ハイエルフの里に帰るの?』
ある日の朝、ハイエルフの里へのお土産はお酒だけでいいだろうかと相談したら、えっちゃんに聞かれた。
「うん。年末年始はハイエルフの里で過ごそうかと思ってるよ」
『俺も連れて行ってくれる?』
「当たり前でしょ!みんなにも紹介したいし、えっちゃん専用のマジックバッグを作ってもらおうね!」
『やったー!』
えっちゃんが何故こんな心配をしていたかというと、フェンリルの里での蟹パーティーのとき、お酒を飲みに行ったえっちゃんは、おじいちゃんやパパたちと一緒になって泥酔したからだ。
お酒を飲んだフェンリルたちは、大騒ぎした後そのまま広場で寝てしまった。オーレリアとノルとネロ、お酒を飲まなかったフェンリルたちは、酔っ払いフェンリルを広場に放置して、それぞれの巣穴へ帰った。オーレリアたちもえっちゃんの家族が住む巣穴で、シャノンとヴァイゼルと一緒に眠った。
翌朝オーレリアは、二日酔いでグダグダのフェンリルたちに、酔い覚ましの苦〜い飲み薬を飲ませて回った。あまりの苦さに飛び起きたフェンリルたちだが、それぞれの番や家族に飲みすぎだと怒られていた。
そのときえっちゃんも、オーレリアに怒られたのだ。
「飲みすぎちゃダメだよって言ったでしょ!」
『はい、ごめんなさい』
「悪い子は、次からはお留守番だよ!」
『ごめんよぉ。気をつけるから許してよぉ』
「もう!仕方ないなぁ」
『(うふふ、えっちゃんおこられた!)』
『(うふふ、なぐさめてあげなきゃね!)』
これだけのことなのだが、えっちゃんはずっと気にしていたらしい。ノルとネロも慰めてあげてたのに、足りなかったかな?
「えっちゃん、こっちにおいで!」
『なに?』
ゆっくりと近づいてきたえっちゃんを、思いっきり撫でまわす。
「えっちゃんはいい子!可愛いねぇ!」
『わぁぁ!リア、どうしたの?』
『えっちゃんだけ、ずるい!ぼくもー!』
『おれもー!』
みんなでキャッキャッ言いながらじゃれ合っているうちに、えっちゃんの気分もようやく上がったようだ。やっぱりスキンシップって大事だね。
『お土産だけど、あのお酒と一緒に蟹も持っていったらどうだ?』
「蟹は全部食べちゃったから、またダンジョンに獲りにいかないとないよ?」
『俺が獲ってくるよ!」
『おれもいく!』
『ぼくも!』
あのダンジョンは、希望した階層にワープすることはできなかったと思う。ということは、蟹をとるためにはジャングルを通過しなければならない。でもジャングルには虫がいる。
「う~……わたしは行きたくないなぁ」
『じゃあ、俺たちだけで行ってくるよ!』
『りあ、おべんとう、つくって!』
『ぼく、おにぎりも、たべたい!』
「でも……蟹のところまでは何日かかかるでしょう?」
『セーフティエリアで野宿するから大丈夫だぞ?』
『えっちゃん、あったかいから、だいじょうぶ!』
『ぼくも、だいじょうぶ!』
「……わたしが一人じゃん!」
『『『あっ!』』』
そう、オーレリアが一人ぼっちになってしまうのだ。
『りあ、ひとりで、ねれない?』
「寝れるし!」
『りあ、さみしい?』
「それは……寂しい」
『そうだなぁ、リアを一人にするのは心配だ。どうしようか?』
そのとき、家の外からフェンリルの気配がした。外に出てみると、ライリエルとシャノンとヴァイゼルだった。これからまたダンジョンに遊びに行くのだという。
ちょうどよかったと、えっちゃんが事情を話すと、なんとライリエルがオーレリアと一緒に居てくれることになった。
『ライリエル、いいのか?ダンジョンに行きたかったんじゃないのか?』
『いいのよ。リアといるのは楽しいし、ダンジョンに行きたいのはシャノンとヴァイゼルだもの。私は付き添いできたの。だからエルディオール、この子たちはお願いね!』
正直、ライリエルたちに蟹をとってきてもらえるように頼めばいいんじゃないかと思ったけど、なんだかライリエルにも目的がありそうなので、その提案を受け入れることにした。
本当はちょっと寂しかったけど、えっちゃんにニックとレミーを預けて送り出した。
ノルとネロは、シャノンとヴァイゼルと遊べて嬉しそうだったけど、寂しいのはオーレリアだけなのだろうか。なんか悲しい。
『リア、そんな寂しそうな顔しないで!私が一緒にいるからね』
「うん。ライはどうして残ってくれたの?何かやりたいことがあるんでしょ?」
『さすがリア!よくわかったわね!実はね、私も町に行ってみたいのよ!』
「えっ!町に?なんで?」
『エルディオールからいろいろ聞いてるのよ。屋台とか、ケーキっていうのが食べられるお店とか、私も行ってみたいの!あと、そろそろまたシャンプーもしてほしいし』
「なるほどね!じゃあ、シャンプーして綺麗にしてから町に繰り出そうか!」
『やったー!』
そうして、綺麗に洗って真っ白サラサラになったライリエルに乗って、グレンハルトの町に向かった。
「ライ、町にいる間は小さくなっててね」
『わかった』
「それから、ライのことは『えっちゃん』て呼ぶから、ちゃんとえっちゃんの振りしてね」
『ウフフ、わかった!面白いわね』
門で身分証の確認をしていたのは、顔なじみの騎士だった。その人に冒険者証を渡す。
「こんにちは!今日は黒猫ちゃんは一緒じゃないのかな?」
「あ、うん。今日はお留守番してるの!」
「そうか、じゃあオーレリア殿、エルディオール様。ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう!」
無事に門を通過し町に入ると、ライリエルが聞いてくる。
『どうしてエルディオールは様付で呼ばれているの?なんかえらそうだわ!』
「アハハ!フェンリルは神獣だから様を付ける人が多いんだよ」
『そうなの?それなら仕方ないわね。でも、リアなんて愛し子なのに!』
「ハイエルフのことは、あまり知られてないからね。あ、ここが屋台広場だよ!」
屋台広場はいつものように賑わっていて、いい香りがしていた。寒くなってきたからスープの屋台が多いようだ。
『わぁ~!すごくたくさんあるのね!どれにしようか迷っちゃうわ!』
「えっちゃんは端から全部買っていくよ!」
『リアったら、ちょっと甘やかしすぎじゃない?』
「でも、えっちゃんが狩りを頑張ってくれるからお金はいっぱいあるし。ライもダンジョンのドロップ品をたくさんくれたでしょ?だから好きなだけ買っていいよ!」
『そうなのね?それなら遠慮なく!』
ライリエルが興味をひかれた屋台料理を次々と買っていく。オーレリアも在庫確保のため、今回も大量注文になった。
そして、広場のテーブル席でライリエルと一緒に試食する。
『んん!美味しいわ!リアが作ってくれるのとは違う味なのね!』
「うん、使っている調味料が違うんだよね。国によって全然違う味付けになるんだよ」
ライリエルが美味しそうに食べていると、通りがかりの人々から次々と話しかけられる。
「エルディオール様!俺の屋台にも来てくれよ!新しくピリ辛味を出したんだ!」
「私はワッフルの屋台を始めたんです!あっちの方にあるから、ぜひ来てください!」
その度にライリエルは、律儀に返事をしていた。
『後で行くわ!エルディオールったら、すっかりこの広場の常連なのね?羨ましいわ!』
「えっちゃんは食べる量が一番多いからね。お得意様だよ!」
屋台で一通り楽しんだ後は、市場や雑貨屋を見て回り、ライリエルは初めて見る人間の町に終始大興奮だった。
『ふぅ、人間の町ってごちゃごちゃしていて面白いわ!いろんな匂いがするからちょっと疲れちゃうけど』
「けっこう歩き回ったからね、ちょっと休憩しようか。ケーキ食べたいって言ってたもんね!」
『ケーキ!食べる!』
近くにあったカフェに入って、ケーキを注文する。ライリエルはモンブランとショートケーキとアップルパイを、オーレリアはスフレチーズケーキにした。
『たまにはエルディオールと代わるのもいいわね!』
ライリエルは町でのショッピングや買い食いをとても気に入ったようだ。えっちゃんもおりこうさんだけど、ライリエルはしっかり者だし、オーレリアの買い物にも飽きずにちゃんと付き合ってくれる。やっぱり女の子だなぁ。
「でも、人語をマスターしたらバレちゃうね」
『……そうねぇ。エルディオールには、なるべく町では喋らないように言っておかなきゃ!』
それだと人語を覚える意味がないのだが、まぁいいか。
町を楽しんだライリエルは、家に帰ってからもちゃんとオーレリアの側で過ごしてくれていた。夜眠るときにちょっと寂しそうだったオーレリアを、もふもふで包み込むことも忘れない。さすがは長女。面倒見がいい。
ノルとネロとえっちゃんがいない3日間は、ライリエルのおかげで無事に楽しく過ごせた。
帰宅後、すっかり仲良くなったオーレリアとライリエルをみて、えっちゃんがちょっとだけ拗ねた。
でもなんだかオーレリアに対して少し優しくなった気がする。気のせいかな?




