第67話 フェンリルたちの遠足
翌日は、朝からマジックバッグの作成を始めた。
前回ノルとネロのマジックバッグを作ったときと同じように、空間魔法で巨大倉庫ぐらいの収納力にして、重力軽減と時間停止、それから壊れないように保護魔法でしっかりと強化する。
「これを五個作るのか、けっこう疲れるかも……」
これは一度にやると魔力が途切れてしまうかもしれないので、休憩しながらゆっくりやることにする。
午前中に二つのバッグに魔法の付与を行い、三つ目のバッグに手を伸ばしたところで、疲れてきて睡魔に襲われた。
お昼ごはんまでは少し時間があるし、ちょっとお昼寝しようかなと思いソファをみると、ネロがオーレリアのお昼寝枕の上でスヤスヤと眠っていた。
「えぇ~!ネロ~、それわたしの枕!」
『すぴーすぴー!』
「うぅ~。ぜんぜん起きない」
ネロはオーレリアが撫でまわしても、お腹の匂いを嗅いでもお構いなしで眠っていた。耐性が出来てしまっているようだ。
「もう!」
仕方がないので、床に寝っ転がっているえっちゃんのお腹を枕にして寝ることにした。
もふもふなお腹でウトウトと眠りかけたとき、突然ノルに起こされた。起こされたというか、えっちゃんの上で寝ていたノルが、オーレリアの顔の上にずり落ちてきたのだ。
「ぐふっ!……もう!ビックリした!」
『すぴーすぴー!』
ずり落ちてきたノルは起きない。気持ちよさそうに眠っている。悔しいのでノルも撫でまわし、お腹の匂いを嗅いでいると、手足をピンと伸ばしわずかな抵抗をしてきた。ネロほどは耐性が無いようだ。だが無視してお腹の匂いを嗅ぎ続ける。ノルのお腹はお日様の匂いがした。ポンポコリンで可愛い。
「……う~ん、眠い」
もう一度えっちゃんのお腹で眠ろうとしたのに、今度はえっちゃんが起きてしまった。
『お昼ごはん?』
「え?まだじゃない?」
『おひるごはんだー!』
『ふわぁ~、おひるごはん?』
なんと、いつのまにかお昼になっていた。
「うぅ~、眠いよぉ~。お昼ごはんは、ニックとレミーに作ってもらってね」
一度作ったことがある料理ならちゃんと作れるので、希望のメニューを言えばいいのだ。材料は保存庫から適当に持ってきてくれるはず。
『おれ、きょうは、はんばーがーがいい!』
『ぼくも、はんばーがーにするー!』
『お!いいなそれ!俺はお肉たくさん入れてね!フライドポテトも山盛りで!』
なるほど、今日はハンバーガーか。オーレリアはあとは頼んだ、とばかりに再びお昼寝に戻っていった。
次に目を覚ました時には、みんなのお昼ごはんは終わっていた。満足したようで、今は毛づくろいに余念がない。少し遅くなったが、オーレリアもお昼ごはんを食べて作業に戻る。
オーレリアは昼食後も頑張り、五つのバッグへの付与を終わらせた。だが、そのころにはもうクタクタで、マジックバッグなんて、一度に何個も作るものじゃないと後悔した。
その日のオーレリアはもう使い物にならなかったし、次の日もぜんぜん起きれなかったので、フェンリルの里へ向かったのは翌々日になってしまった。
ようやくやって来たオーレリアは、今か今かと待ち構えていたフェンリルたちに囲まれた。
「……遅くなってゴメン」
フェンリルたちの圧が凄い。マジックバッグ作るの、意外と大変だったんだよ……。
気を取り直して、みんなにマジックバッグの使い方を説明し、えっちゃんのデモンストレーションをみると、やってみたいと言って実験が始まった。
とはいえ、フェンリルの里にはしまうようなものがあまりないので、石ころとか魔物の骨なんかを出し入れするしかないのだが、問題なく使えているようだ。
『ありがとう、オーレリアよ!これでわしらもダンジョンの蟹が食べれるわい!』
『リア!パパがお土産をたくさん持って帰ってくるからね!』
『そうね!リアが町で使えるのなら、たくさん持って帰ってくるわ!』
フェンリルたちは、ダンジョンへ行きたいメンバーを五つのチームに分けて、それぞれの代表一匹にマジックバッグを持たせた。
『じゃあさっそく、ダンジョンへ行こう!』
『『『『『おーーー!!!』』』』』
なんだかとっても嬉しそう。ダンジョンってそんなに楽しみなところなのかな?
転移陣に乗り、まずはオーレリアの家の近くまで行き、そこからはえっちゃんがダンジョンの入り口まで道案内する。
フェンリルの大移動とあって、森の魔物たちが大慌てで逃げて行った。
ダンジョンの入り口の石門へ着き、ここが入り口だよと門をくぐると、フェンリルたちも後に続いて入って来る。そこは相変わらずの美しいビーチだった。ビーチへは出入りが自由に出来るのだ。
『おぉ!凄いな!これがビーチか!』
『わぁ!あれが海なの?綺麗ね!』
『ペッ!しょっぱいぞ!』
と大興奮のフェンリル様御一行。
「あっちのほうの砂浜に石板があって、そこからダンジョンの中に入れるよ。その先は五階層ごとにしか引き返せないからね」
『おぉ!わかった!少し時間をおいてから行くとしよう!まずはわしらが行くから、次のチームはここで遊んでおれ!』
「あ、そうだ!何日かかるかわからないから、バッグにお肉入れといてあげるね。ダンジョンの中は食べられそうな魔物が少ないから」
『そうか、スマンな!それならば、待っているチームは外で狩りをして来るといい。どうせ暇じゃろうて』
そんなわけで準備は万端、おじいちゃんたちとえっちゃんの家族たちが、第一陣として意気揚々と出発していった。
それから数日後、満足気な様子でおじいちゃんたちが帰って来た。
『いや~、久しぶりに楽しかったぞい!』
『リアー!ただいま~!お土産一杯持って帰って来たわよ!』
『蟹もたくさん獲れたのよ!ママもがんばっちゃった!』
『ノル!ネロ!私たちもたくさん石拾ってきたよ!』
『凄い綺麗なんだよ!みてみて!』
とても興奮した様子だ。よっぽど楽しかったのだろう。
『オーレリアよ!蟹をたくさん持って帰って来たのじゃ!五チームがそれぞれ狩って来たからなかなかの量だぞ!里のみんなにも食べさせたいから一緒に来てくれんか?』
「うん、わかった。五チーム分の蟹か。なんか凄そう……」
オーレリアはニックとレミーを連れてフェンリルの里に向かった。さっそく、いつもの広場で蟹の調理を始める。
まずはこの大量の蟹を茹でる。でも量が多すぎるから、ノルとネロにも手伝ってもらった。この子たちは基本の四属性魔法が使えるし、最近はメキメキと上達しているのだ。
三人で力を合わせて、上空に巨大な水の球体を作り加熱していく。
『おりゃぁぁぁ!』
『うぉぉぉぉ~!』
ノルとネロが頑張ってくれたおかげで、無事、全ての蟹を茹でることが出来た。フェンリルたちにも褒められて、えへへ〜と照れている。
まずは茹でて赤くなった蟹から食べてもらおう。残りの蟹は以前使った平べったい巨大な石を熱してニックとレミーに焼いてもらっている。
『うぉ~!こりゃ美味い!』
『身がプリっぷりだわ!』
『甘いな!凄く美味い!』
『ほんと、美味しいわぁ!』
みんなとても美味しそうに食べている。喜んでくれたらなよかった。
『おおー!この酒はなかなか強いな!』
『蟹にも合うじゃないか!』
『蟹味噌も美味い!』
『ワハハハハハ!』
しかも、いつの間にかダンジョン産のお酒、ブラックネッコを開けたらしく、大宴会が始まってしまった。
「フェンリルってお酒飲むんだ……」
『飲むぞ!年配のフェンリルたちはお酒好きが多いな』
「えっちゃんもお酒好きなの?」
『俺は、まぁちょっとだけ……』
「飲んできてもいいよ?」
『俺を置いて帰らない?』
「置いて帰ったりしないけど……どれだけ飲むつもり?」
『いや……あの酒、けっこう強いらしいからさ」
「飲みすぎないでね!ノルとネロはダメだよ」
『おれは、おさけいらない!』
『ぼくも、りあのおみずでいい!』
オーレリアもお酒は飲めないので、ノルとネロと一緒に蟹を食べる。えっちゃんはちょっと味見だけと言ってお酒を飲みに行ってしまった。
「わたしだって、炭酸とかで割れば飲めると思うんだけどなぁ。炭酸がないんだけどさ」
『りあは、のんだらだめだよ!』
『ししょーに、おこられるんだから!』
「わかってるよぉ」
ちょっとだけいじけていると、おじいちゃんとおばあちゃんがやって来た。すでにお酒を飲んでいるようでご機嫌だ。
『オーレリアよ!感謝するぞい!』
『久しぶりに、とっても楽しかったわ!それでこれ、あなたへのお土産よ!』
そういって、マジックバッグからダンジョンのドロップ品を大量に取り出した。
「え!?こんなにたくさん?しかもこれ、ブラックネッコじゃない?」
『そうじゃ、一つはオーレリアへの土産じゃ!残り四つは飲んでしまうがのう!ガハハハハハハハ!』
「ほかのドロップ品はいらないの?宝石とか欲しかったんじゃないの?」
『私たちは気に入った物をそれぞれ貰ったから大丈夫よ!他のが欲しくなったらまたダンジョンに採りに行けばいいんだもの!』
「そっか、じゃあ貰っておくね!ありがとう!」
大量の宝石類は一度には売れないだろうから、小出しで売ってみよう。それに、オーレリアが持っていたブラックネッコは、愛好家たちの熱に押され売ってしまったから、貰えてよかった。
これで、年末の里帰りのときの、師匠へのお土産が出来たぞ!




