第66話 ちょっとバッグを買いに来ただけなのに
一瞬、時が止まったようなギルドマスターの部屋にノックの音が響き、デュークとロルフがローデリックを伴い入って来た。
「どうしたんだ?」
「なんだ?この雰囲気は!」
「なんか、まずいところに来ちゃったか?」
デュークとロルフとローデリックは困惑して問いかける。
「いや、済まない。酒が……イヤイヤ、ちょっと狭いがまぁ座ってくれ」
ちょっとではない。けっこうな人数のせいでだいぶ狭いんだけど……。
「さぁ、オーレリア!ここに出してくれないか!」
「うん。とりあえず、わたしがもってる分だけでいい?」
「おお!いいぞ!」
オーレリアは草原とジャングルのドロップ品は回収しなかったので、洞窟と神殿のものだけだ。しかも蟹はほとんど食べてしまったので、ノルとネロとえっちゃんのほうがたくさん持っているかもしれない。
空間収納から次々とドロップ品を出していく。ほとんどが宝石や古代金貨の類だ。たまに粘液とか染料とかもある。呪われた王冠や指輪なんて持っていても仕方ないから、売れるものなら売ってしまいたい。あと、すっかり忘れていたが、スライムスキン。これはどうしようかな。
オーレリアがドロップ品を出している間、ガイウスやヘルガ、黄昏の獅子たちは、呆気に取られてその様子を眺めていた。
「それで、これが最後のボスの部屋で見つけたお酒。【ブラックネッコ】」
「おぉ!こ、これが!ダンジョン産の酒!」
「いったい、どれぐらいの値がつくんだ?」
「美味いのかな?」
なんだかみんなお酒にくぎ付けなんだけど。
「このお酒は、師匠へのお土産にしようかと思ってたんだけど……。そんなに貴重なものなの?」
「もちろんだ!ダンジョン産の酒は希少価値が高くてな、愛好家の間では高値で取引されてるんだ!」
「でも、お師匠様へのお土産なら諦めるしかないわね」
「くー!残念だ!」
「……えっと、このドロップ品は、全部買い取ってもらえる?」
「おうよ!だが、これだけのものだ。査定には時間がかかるぞ!」
「そうなの?まぁお金はいつでもいいよ。それと、そのお酒なんだけど……」
「なんだ?」
「売ってもいいよ!だけど、条件がある!」
「な、何!いったいどんな条件だ?」
「魔の森のダンジョンの管理は、しばらく待ってほしいの!」
これは、フェンリルの里のみんなのために死守しなくては!
「オーレリア!心配しなくても大丈夫よ。そもそも私たちは魔の森の奥へは入れないんだもの。管理なんて出来ないわ。ただそこにダンジョンがあるっていう記録が残せれば大丈夫よ」
「そうなの?なんだ、よかったー」
「魔の森のダンジョン、行ってみたいけどなぁ。無理だよなぁ」
「行くだけで命がけだもんね!」
よかった。これでフェンリルたちも思う存分ダンジョンを楽しめる。
「じゃあ、酒は売ってくれるのか?」
「うん、いいよ!」
「「「「「やったぜ!」」」」」
ん?みんな愛好家なのかな?
『リア!俺たちもドロップ品売りたい!』
『ぼくも、うる!』
『おれも!おかしが、はいらなくなっちゃう』
「そうだね!ねぇ、ガイウス。この子たちもドロップ品を売りたいんだって。全部ここに出しちゃっていいの?」
「あぁ、それなら今出してもらった分はローデリックがしまうか、らちょっと待っててな」
ローデリックはアニーと共にメモを取りながら、持ってきていたマジックバッグにしまっていく。そして空いた場所に、今度はえっちゃんたちがドロップ品を出していく。彼らの分はオーレリアよりも魔物素材が中心だった。ダンジョン産なので丸ごとではないのだが、虫素材もかなり混ざっている。オーレリアとアニーはうっかり見てしまわないように、二人で外を眺めていた。
「いやー!それぞれとんでもない金額になりそうだな!」
「この宝石類は、辺境伯家に話し通した方がいいんじゃないか?」
「そうね、ギルドだけで支払うのは厳しいわね!」
えっちゃんたちも荷物を出し終わったし、もういいかな?はやくバッグを買いに行かなきゃ。
「じゃあ、わたしたちそろそろ行くね!またねー」
「おいおい、ちょっと待て!」
「ん?何?」
「何さっさと帰ろうとしてんだ?」
「だめ?」
「ダメだ!ダンジョンの場所と詳細を教えてくれ。あと、ドロップ品の預かり証にサインも必要だ。いろいろあるんだよ、手続きが」
手続きか、面倒くさいな。
「おい!面倒くさいって顔に出ちゃってるぞ!」
ガイウスにばれてしまった。仕方がないのでダンジョンについて詳細な場所と、階層の特徴などいろいろ話し、ローデリックが作った預かり証にもサインをした。ちょっとバッグを買いに来ただけだったはずなのに……。
「は~、やっと終わった。なんか疲れた~」
「リア!あたしたちが丈夫なバッグを売ってる店を紹介するよ!」
「本当!ありがとう!」
ジーナとソフィアがお店まで案内してくれるらしい。バッグのお店なんて全然知らないのでとても助かる。
さっそくギルドを出てお店へと向かった。その道具屋はオーレリアがいつもお世話になっている宿、銀鹿亭の先にあった。
「ここの道具屋が一番しっかりしたものを売ってるんだよ。他の店のはすぐ壊れるから気をつけたほうがいいぞ!」
そうジーナが教えてくれた。Sランクの冒険者が言うんだから確かだろう。
「ところで、フェンリル用のバッグってどんなものなのかしら?」
「えっちゃんが首から下げてるようなバッグだよ。なるべく紐が長いほうがいいの」
「ふむ、なるほど!」
それからしばらくジーナとソフィアと一緒にバッグを物色した。あーでもないこーでもないと言いながら、ときにはえっちゃんに合わせてみたりして、なんとか5つのバッグを選び出した。これといった特徴のない、普通の革のバッグだ。
「でもちょっと短いかも。えっちゃんより大きい子もいるし……」
オーレリアが悩んでいると、店主と思われるおばあさんに声をかけられた。
「お嬢ちゃん、肩ひもを長くしたいのかい?時間をもらえれば付け替えてあげるよ?」
「本当?これ!五個あるんだけど、全部やってもらえる?」
「あぁ、構わないよ!別料金になるがいいかい?」
「いいよ!時間はどれぐらいかかる?」
「二時間ぐらい貰えれば、やっとくよ」
「やった!じゃあお願い!」
そういうことで、お直しをお願いしたオーレリアたちは、店を出て時間をつぶすことになった。
「二人とも時間は大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ!」
「さっきギルマスの部屋にいたのは、護衛任務の報告をしてたからなんだよ。この後三日ほど休みだからのんびりできるんだ!」
「そうなのよ!ねぇ、甘いものでも食べに行かない?遠征中は甘いものがなかなか食べれなかったから、ずっと食べたかったのよね」
「いいね!あ、そうだ!わたし蜂蜜タルト食べたい!」
「ん?リアは蜂蜜タルトまだ食べてないの?」
「食べてない!」
誘拐されかけたせいで食べ損ねたんだよね。そのあとも何度かお店の前までは行ったのだが、人気すぎていつも売り切れていた。
「じゃあ、そのお店に行きましょう!」
「やったー!」
オーレリアは早歩きでお店の前まで行くと、今日こそは食べられますようにと、祈るような気持ちで扉を開けた。
「蜂蜜タルトまだありますか?」
「ありますよ!こちらへどうぞ!」
オーレリアは小さくガッツポーズをする。
みんなで席に着くと、人数分のタルトと紅茶を注文した。ノルとネロとえっちゃんの飲み物はミルクにしてもらった。
「わーい!たのしみー!」
『ぼくも、たのしみー!』
『おれも!』
『ようやくだな!』
そして、とうとう念願の蜂蜜タルトがオーレリアの前に運ばれてきた。
「おぉ!これが噂の蜂蜜タルト!」
表面の蜂蜜は飴色に焼きあがり、艶やかな輝きを放っていた(ようにオーレリアにはみえた)。
一口食べると、とろけた蜂蜜がじゅわっと溢れ、あとから花のような香りが抜けていく。蜂蜜の風味は濃厚なのに、甘さは思ったよりもくどくなく、驚くほど食べやすかった。
「『『『おいし~い!』』』」
嬉しそうに食べるオーレリアたちを見て、ジーナとソフィアもつられて微笑む。
オーレリアはあっという間に食べ終わってしまったえっちゃんのために、他のケーキをいくつか注文しつつ、タルトを楽しんだ。
ジーナとソフィアもノルとネロのお世話をして楽しそうだった。しかも、二人はえっちゃんにも触れるようになったのだ。えっちゃんが人慣れしたせいでもある。
オーレリアたちはタルトを堪能し、ジーナとソフィアはモフモフを堪能して大満足で店を出た。
時間もちょうど良さそうなので、道具屋に戻りお直しをお願いしたバッグを受け取った。おばあさんにお礼を言って店を出る。
「リア!また町に来たら甘いもの食べに行こうよ!」
「冬になったら新作のケーキが出るみたいよ!」
「そうなの?それは楽しみだね!じゃあまたね!」
「おう!またなー!」
「またね、オーレリアちゃん!」
オーレリアたちはジーナとソフィアと別れて町を出る。帰ったらマジックバッグを完成させなきゃね。




