第65話 できればもう行きたくない
翌日、オーレリアたちはダンジョンの報告をするため、フェンリルの里にやって来た。今は転移魔法陣がある広場の一角で、待ち構えていたフェンリルたちに囲まれている。
『それで、ダンジョンはどうじゃった?』
この里の長であるおじいちゃんが、ワクワクした目でこちらを見ている。
「うん、あんまり――」
『じいちゃん!ダンジョン楽しかったぞ!敵は弱かったけど、ジャングルとか遺跡とかあったし!ミミックもたくさんいるんだ!』
『そうだよ!さいしょはね、うみなの』
『でもね、うみには、なにもいなかったの!』
『おお!最初は海なのか!それでジャングルとか遺跡にもいけるのじゃな!これは凄い!』
フェンリルたちは、おじいちゃんを筆頭に目をキラキラと輝かせている。
「でも、ほんとに――」
『あと、蟹がたくさん捕れたぞ!リアに焼いてもらうとすごく美味しいんだ!』
『そう!あおくて、おおきいかに!』
『ゆでると、あかくなって、おいしかったよ!』
『おお!美味しい蟹がとれるのか!それは楽しみじゃわい!』
えっちゃんたちのハイテンションのせいで、オーレリアの言葉はすべてかき消される。
『オーレリアよ、わしもその蟹を食べたいから一緒に行こう!』
「えぇ?でも――」
『そうだな!パパも美味しい蟹が食べたい!一緒に行こう!』
『私も食べたーい!』
『ママも食べてみたいわ!』
おじいちゃんだけではなくパパとママ、それにライリエルまで一緒に行こうと言ってくる。でもオーレリアは出来れば行きたくない。
「ちょっと待って!わたしの――」
『わー!きれーい!』
『すご~い!キラキラしてる!』
今度はシャノンとヴァイゼルが声を上げる。ノルとネロがお土産に持って帰って来た宝石を取り出しているところだった。
『これ、みんなにおみやげ!』
『すきなの、あげるよ!』
『えー!貰っていいの?ありがとう!ノル、ネロ!』
『やったー!すごく綺麗だね!ありがとう!ノル、ネロ!』
里にいる他の子供フェンリルたちも集まって、みんなで宝石を眺めている。
『ほぉ、こんな宝石も手に入るのか。それならばあさんにプレゼントしなくてはな』
『なんと!ではママにも特大の宝石を持って帰らねば!』
こっちでも大人たちがなにやら話している。ご婦人フェンリルたちも興味津々のようだ。フェンリルって宝石に興味あったんだ。
「ねぇ、そろそろわたしの話を聞いてくれる?」
『おお、スマンな。どうしたのだ?』
「あのね、あのダンジョンは難易度はそんなに高くないよ。1階から5階は草原。6階から10階はジャングル、11階から15階は洞窟になってて、16階から20階が神殿って感じ。神殿はアンデッドが多いから、それだけは気をつけてね」
『アンデッドなら、魔法でどうにでも出来るだろう。心配はいらんよ』
「そっか。あとね、わたしは……できればもう行きたくないんだよね」
『なっ!!なにー!なぜじゃ!』
『リア!なんでなんだい?パパと一緒に行くのが嫌なのかい?』
「違うよ……あそこのジャングルには、でっかい虫がいるんだよ……」
『リアってば、虫が怖いの?私が一緒に行って守ってあげるから大丈夫よ!』
「……やだ……行きたくない……」
思い出しただけでゾワッと――いや、思い出したくもない。
『でも困ったわ。それだと美味しい蟹が食べられないのね?』
『そうかい、残念だねぇ』
ママとおばあちゃんも凄く残念そうに言う。そんな悲しそうな目で見ないで欲しい。
「だからね!えっちゃんみたいにマジックバッグを持っていけばいいと思うの!」
『マジックバッグ?エルディオールが首から下げているやつか?』
「そう!そのバッグはね、わたしの空間収納の魔法みたいな魔道具なの。それを持っていけば蟹でも宝石でも好きなだけ持って帰って来れるよ?」
『えっ!俺のバッグを貸すの?いろいろ大切なものがしまってあるんだけどな』
「あ~そっかぁ。……よし、じゃあ町で買ってくるからちょっと待ってて!魔法の付与はわたしができるから、普通のバッグだけ買えば大丈夫!」
『ふ~む、なるほどな!それなら5つぐらい準備してもらえるかの?』
「わかった!みんなが使えそうなバッグを見繕ってくるよ」
虫を見なくて済むのなら、いくつでも作るよ。ついでにいらない宝石類も売ってしまおう。
そうしてオーレリアは町へと向かうのだった。
町へとやって来たオーレリアは、すぐに冒険者ギルドへ向かった。
「オーレリアさん!こんにちは!今日はどうされました?」
「買取をお願いしにきたの。今日もいっぱいあるんだけど、いいかな?」
「もちろんです!ちなみに今日はどのような素材ですか?」
「えっと、魔の森で見つけたダンジョンに入ってみたんだけど――」
「ちょっとお待ちください!ギルマスを呼んできますのでっ!」
「え、うん」
なんだろう、走って行っちゃった。今回はそんなに面白い素材は持ってないと思うんだけどな。蟹はほとんど食べちゃったし。
少しの間その場で待っていると、階段の上からガイウスが顔を覗かせた。
「おい、オーレリア!俺の部屋まで来てくれ!」
「え、うん」
なんだろうと思い部屋のドアを開けると、中には副ギルドマスターのヘルガと、久しぶりに会う黄昏の獅子の面々がいた。
「リア!ひっさしぶりー!」
「オーレリアちゃん!お久しぶりね!」
「ジーナ、ソフィア!」
「よお!元気にしてたか?」
「少し背が伸びたんじゃないか?あ~……気のせいか」
「えっと、元気そうだね!デーツとポトフ」
「「デュークとロルフだ!」」
「ハハ!相変わらずだな!」
「ん~と……グレーテル?」
「グレインだ!わざとやってんのか?」
「……わざとだよ!……やだなーみんな……」
「リア!あたしとソフィアの名前だけ覚えとけば問題ないから!」
「そうね!それで十分よ!気にしないで」
久しぶりに会ったから、とっさに思い出せなかっただけだし……。
「アハハ!オーレリア、私のことは覚えているかしら?」
「もちろんだよ、ヘルガ!お米ありがとう!すっごく美味しいよ!」
流石のオーレリアも、お米をくれた恩人のことは忘れないのだ。
「それはよかったわ!それより、魔の森でダンジョンを見つけたんですって?詳しく聞かせてほしいんだけど」
「え?ヘルガもダンジョンに行きたいの?」
「とっても興味があるわね。それにダンジョンは魔物が溢れないように、国で管理しなければいけないのよ」
「え?そうなの?困ったなぁ」
「なぜ?」
「人が管理すると、フェンリルたちが遊びに行けなくなっちゃう」
「フェンリルたちが遊びに行くって、どういうことかしら?」
オーレリアは、ことの経緯を説明した。
「……な、なるほど。それで、マジックバッグを作るためのバッグを買いに来たと……」
「うん。だから早く買って帰りたいんだけど、どこで売ってるかな?あ、その前に買取をしてほしいんだけど」
「ハハッ!リアは相変わらずぶっ飛んでるなー!マジックバッグを作るだって?」
「本当にとんでもない子ね。未知のダンジョンのドロップ品も気になるわ!」
ジーナとソフィアが呆れたようにオーレリアを見る。
「いや、マジックバッグを作るとか、リアは魔道具師か錬金術師なのか?」
「違うけど、基本的なことは教えてもらったよ」
「ヤバすぎるだろ!」
「なんでもありかよ!」
グレインたちにいろいろ言われるが、ハイエルフには時間がいっぱいあるのだ。興味があれば勉強するし、無ければまったくしない。
これがハイエルフの普通なのだが、はて……。
「ん?もしかして違法?」
「そんなことはないわよ!普通の人は作れないってだけで」
一瞬焦ったオーレリアだったが、ヘルガが教えてくれる。違法じゃないならよかった。
「オーレリア、ちょっとドロップ品を見せてくれねーか?おい、お前らローデリックを呼んできてくれ。今はまだ、あまり人に知られたくねぇ」
ガイウスがデュークとロルフをお使いに出した。今日の買取はここでしてくれるのかな?まぁ、そんなに大きなものはないし、大丈夫か。
「あのダンジョンは大したものをドロップしなかったんだよ。宝石とか古代の金貨ばっかりでつまらないよ?」
「宝石と古代金貨がつまらないだと?お前はいったい何を期待してたんだ?」
「海の幸とか、美味しそうなやつ」
「プー!アハハ!オーレリアは食いしん坊なのね!」
「えっ?そ、そんなこと……」
ガイウスには呆れられるし、ヘルガには笑われたけど、普通はダンジョンに何を期待するものなんだろう。……至宝?
「あ!そういえば、最深部のドロップ品はお酒だったっけ」
「「「「なに!お酒だと!!!」」」」
ガイウス・ヘルガ・グレイン・ジーナの鋭い眼光がオーレリアに突き刺さった。




