第64話 ダンジョンの至宝
空中で対峙するオーレリアとリッチ。
リッチはすでにオーレリアの拘束魔法で動きを封じられているので、勝負はついたといってもいい。だが、オーレリアはノルとネロを泣かせた者を許すつもりはない。壁に消える瞬間の、助けを求めたあの泣き声がずっと耳に残っている。
そして、それを阻止できなかった自分の不甲斐なさも相まって、その怒りを容赦なくリッチにぶつける。
オーレリアは杖をリッチに向け、魔法を発動した。リッチの周辺が真っ黒な球体に包み込まれる。空間ごと重力で押しつぶす魔法だった。
リッチは拘束から逃れようとジタバタともがき、ギャーギャーと何かを叫んでいる。
「往ね」
オーレリアは小さく呟き、リッチは何もできないまま真っ黒の球体に飲み込まれ、圧縮され、そして音もなく消え去った。あっという間の出来事だった。
オーレリアは静かに地上に降り立つと、離れて待機していたえっちゃんたちの元へ向かった。そして全員に抱き着く。
「怖い思いさせてごめんねー!もう絶対に魔物に奪われたりしないから!」
『りあ!だいじょうぶだよ!なかないで!』
「泣いてない!」
『ぼくも、もうはなれないよ!』
「可愛い!」
『リッチの倒し方、エグいな』
「エグくない!」
オーレリアたちが改めて再会を喜び合っていると、ボス部屋の祭壇にドロップ品が現れた。それは、宝石や古代金貨の他、死霊の杖やら呪われた王冠など、使い道に困るものばかりだったのだが、その片隅に樽が一つポツリと置かれていた。
「この樽、何だろう?」
『んー?たる?』
『たるだね?』
『クンクン……お酒の匂いがする』
「!!まさかっ!これがこのダンジョンの至宝?」
オーレリアは鑑定してみた。
【ブラックネッコ】ウイスキー
熟成された蒸留酒。琥珀色で芳醇な香り。まろやかなコク。アルコール40度以上。美味。※未成年者の飲酒は禁止されています。また、体質に合わない方もご注意ください。
「……ブラックニッ……いや、ネッコ?」
『りあ、みてみて!ここに、おれたちみたいなねこがかいてある!』
『ほんとだ!ぼくたちにそっくり!』
『……まさか、それでノルとネロが攫われたのか?』
「リッチめ!ゆるさん!」
『もうやっつけただろ!だからドロップしたんだぞ!』
樽には2匹の黒猫がモザイク画風に描かれたラベルが貼られていて、なんだかちょっと可愛い。
それにしても、このダンジョンの至宝がお酒だったとは。まぁ、外にあった碑文を書いたのは師匠だもんね。お酒大好きだし……。そんなに期待はしていなかったけど、なんだかなー。
「お酒かー。わたしは飲めないしなー。ドロップ品が労力に見合わないなぁ」
『でも、たのしかったよ?』
『うん!たのしかったねー!』
『また遊びに来よう!』
「え~?わたしはもういいや。虫はいるし、お酒だし」
ボス部屋の先に転移陣のある部屋がある。下に降りる階段はないので、ここが最深層で間違いないのだろう。
「んじゃ、帰ろっか」
オーレリアたちはその魔法陣に乗り魔力を流す。すると、入り口だった石門から5メートルほど離れた森の中に降り立った。
『かえってきたー!』
『よるだー!』
『いつもの森だ!なんか落ち着くな!』
「そうだね!さぁ、おうちに帰ろう!」
辺りはすでに夜だった。お腹も空いたし、早くお家に帰って夜ごはんにしよう。
『よーるごーはんー!』
『よーるごーはんー!』
『今日の夜ごはんはなんだー?』
「んー、何にしようかな」
『こんどは、りあのすきなたべものにしようよ!』
『そうだね!おれたちのたべたいのは、つくってもらったし!』
『そうだな!そうしよう!』
「え?わたしの好きな食べ物でいいの?」
『いいよ!』
『リアの好きな食べ物ってなんだ?』
「ナポリタン!」
『ええー?なぽりたんかぁ』
ノル?なんでそんなに残念そうな顔をしているの?わたしの好きな食べ物に何か文句でも?
「なにさ!」
『なぽりたん!ぼくもすきだよ!』
ネロはいい子だねぇ。ネロはケチャップご飯が好きだから、ナポリタンも好きだよね。
『ナポリタンってなんだ?』
「スパゲッティだよ!ピーマンとか玉ねぎとかソーセージを入れて、ケチャップで炒めたやつ!」
『え?肉じゃないの?』
「肉じゃない!お肉は毎日食べてるんだからいいでしょ?てゆーか、朝もお昼もお肉食べたでしょ!」
『う~む、でもリアの好きな食べ物だからな。仕方ないか』
お肉じゃなければ食事じゃない、みたいな風潮はやめてもらいたい。まぁ、肉食の子たちには仕方ないのかな。でも今日はナポリタンに決定です。
家に戻り、さっそく夜ごはんを作り始めた。ナポリタンは大好物なので作り慣れている。オーレリアの分のスパゲッティはそのままで、ノルとネロとえっちゃんの分は半分に折って茹でた。折るのには賛否があるらしいが、子猫とフェンリルだからね、そんなの知ったこっちゃない。
レミーに作ってもらっている間、これだけじゃ絶対に文句を言われるので、ニックにお肉も焼いてもらう。
「これなら文句もないでしょう」
オーレリアはテーブルにサラダとスープ、飲み物を用意する。ニックとレミーも作り終え、テーブルにはこんもりと盛られたナポリタンのお皿と、えっちゃんの大好物である、こちらも山盛りのグリムバイソンのステーキが湯気を立てて待っていた。
「みんなー!食べよう!」
『わーい!いただきまーす!』
「『『いただきまーす!』』」
食いしん坊のノルが先頭を切って食べ始めた。
『ズルズル……もぐもぐ……!おいしー!』
『ズルズル……んー!ぼくこれすきだよ!』
『やったー肉もある!ズルズル……美味い!』
「美味しいでしょ?美味しいのよ!」
週に一度は食べたい。いやでも最近は割とよく食べていたかも。えっちゃんたちが人語を習いにフェンリルの里へ行き、お昼ごはんを一人で食べるときは、けっこうな頻度でナポリタンを作っていた。
オーレリアの好みとしては、マグロの油漬けを入れると最高に美味しいのだが、食べ過ぎちゃうし、グレンハルトの町は海から遠いせいであまり手に入らないから、めったなことでは入れない。しかし!今日はオーレリアの好きな食べ物ってことなので、秘蔵の油漬けをたっぷりと入れたのだ。美味しくないわけがない。
「あ〜美味しい!毎日食べたい!」
『え?まいにちはだめだよ!』
『おいしいけど、まいにちはだめ!』
『絶対ダメ!』
「ふふ、分かってるよ!」
オーレリアは大満足で夕食を終えた。ノルとネロとえっちゃんも、お肉があったおかげで満足してくれたようだ。
それにしても、食後の三匹はケチャップまみれだった。えっちゃんは白いから目立っちゃてるけど、ノルとネロは全身にケチャップが付いている。どうしてそうなった?
「なんで全身ケチャップまみれなの?」
『う~ん、わかんなーい』
『おれは、いっしょうけんめい、たべてただけだよ!』
「とりあえずクリーン魔法で綺麗にはするけど、今日はお風呂入ろうよ」
『うん、はいるー!』
『ずっと、だんじょんのなかだったもんね!』
『そうだな、今日は入るか!』
「……どうしたの?えっちゃん。今日は嫌がらないんだ?」
『お風呂に入ると、ライリエルとか母さんが綺麗ねって褒めてくれるんだ』
「そっか!明日はフェンリルの里に報告に行くから綺麗にしようね!」
みんなでお風呂に入り、綺麗に洗ってから湯船につかる。
「あ~気持ちー!やっぱり疲れたときはお風呂だね!」
『おれは、つかれてないよ!』
『ぼくも、つかれてない!』
『うそだー!もう目がくっつきそうだぞ?』
湯船にしがみついて頑張って起きてるけど、すごく眠たそう。睡魔と戦っている姿がとても可愛いらしい。
ノルとネロが眠ってしまう前にお風呂から出て、えっちゃんと共にサラッサラのフワッフワに仕上げた。みんな最高の触り心地なので、きっとまた褒めてもらえるだろう。
でも乾かしている間にノルとネロは眠ってしまった。そーっと抱っこしてベッドまで運ぶ。
「やっぱり疲れてたみたいだね」
『『すぴー、すぴー!』』
『今日もいろいろあったからな。俺も眠い』
フワ〜っと欠伸をしているえっちゃんに寄り添って、オーレリアもベッドに寝転がる。
「おやすみ、えっちゃん」
『おやすみ、リア』
2泊3日のダンジョン探索は終わった。みんなはとても楽しそうだったから、行ってよかったなと思う。
ただ、オーレリアとしては、ウェルカムビーチがあったから海の幸を期待していたのだが、結局最後まで海鮮らしい海鮮は手に入らなかった。
「……お刺身食べたかったなぁ」
『ん?何か言った?』
「ううん、なんでもないよ……」
蟹は獲れた。だが、海の魚は手に入らなかった。それだけが、今回のダンジョンで唯一の心残りだった。




