第63話 たすけてー!
一通り蟹料理を楽しんだ一行は、翌日次の階層に降りた。今度の階層は神殿の遺跡のような場所だった。
通路の幅が広く、天井も高い。かつてはずいぶん大きな神殿だったと思われる場所だ。
「かつては……カツテノン……そっか、師匠はここであのつまらないジョークを思いついたんだね……それなら、この神殿がダンジョンの最下層なのかも」
『この神殿のボスを倒したら、ダンジョン踏破ってことか!よしっ!』
『ぼすは、どんなやつかなー?』
『おいしいの、いるかなー?』
「美味しいのがいるかは分からないけど、ボスのドロップ品は至宝らしいからね!ちょっと楽しみだね!」
オーレリアたちは通路を進む。通路には小部屋がたくさんあって、たまに宝箱が置いてあるのだが、ほとんどはガラクタだったり、空っぽだったり、最悪ミミックだったりする。
『これは、ミミックに1どーなつ!』
『ぼくも、ミミックに1ちょこまふぃん!』
『じゃあ俺は、当たりに1コロッケ!』
とうとう賭けまで始めてしまった。食べ物を賭けているようだが、みんないろいろな食べ物をバッグに入れてるんだなぁ。
「この宝箱は――」
『りあは、だめ!』
『まほう、ずるい!』
『鑑定したら賭けにならないだろ!』
「別に賭けなくていいでしょ。さっさと――」
『りあは、わかってないな~!』
『すぐあけたら、つまらないのに!』
『ロマンがないんだよな!』
「な、なにさー!」
ハァ〜とため息をつきつつ言ってくる。楽しく遊んでるんだから邪魔するなとのこと。
宝箱を開けた瞬間、ガブリとかみつこうとしてきたミミックを、えっちゃんがボコッと殴り飛ばす。遠くまで吹き飛んで行ったミミックは、バラバラに砕けて消えていった。
『わーい!えっちゃんのまけー!』
『やったー!ころっけ!』
『くそー!負けたー!』
ノルとネロはえっちゃんからもらったコロッケを仲良く半分こして食べている。まぁ、楽しそうだからいっか。
そんな調子で楽しく順調に進んでいる。この神殿の遺跡にいる魔物は、今のところゴーストやガーゴイルなどで、聖魔法が弱点のゴーストはオーレリアの担当となった。
それにしても、ミミックも、ゴーストやガーゴイルも、ドロップするのは宝石や古代金貨ばっかりだ。たまに、灰とか呪われてそうな指輪とかも落とすけど、あまりパッとしない。だからミミックなんか無視すればいいのにとオーレリアは思うわけだが、ロマンだからしかたがない。
階段を2階、3階と降りると、敵の魔物にレイスやストーンゴーレムが加わった。
『ごーれむだ!』
『おっきい!』
『ニックとレミーとは全然違うな』
「当たり前でしょう!うちの子たちと一緒にしないでもらいたい!わたしのゴーレムはね、もっと愛らしい丸いフォルムで――」
オーレリアがお手伝いゴーレムへの愛を語る前に、ノルとネロとえっちゃんによってボコンボコンと倒されてしまった。はやいな……。
一度休憩を入れてからさらに先へと進み、とうとう20層目に到達した。ここが最後のはずだが、かなり広いので今日中にボスの元へたどり着けるか微妙なところだ。
『ここには、美味しそうなものをドロップする魔物はいなそうだな』
『びみ、いない?』
『でも、きれいないし、たくさんひろったよ!』
「神殿遺跡だからね。ドラゴンでもいればいいのに」
『え!どらごん?いる?』
「残念ながら、その気配はないよ」
『ちぇ!ざんねーん!』
さて、次の宝箱はどっちかなと、オーレリアが探索魔法を発動しようとしたときに事件は起こった。
突然オーレリアの背後で、ノルとネロの叫び声が聞こえた。
『きゃー!たすけてー!』
『たすけてー!りあー!』
オーレリアが振り向いたときには、ノルとネロは半透明の骨ばった手に掴まれて壁へと消えていくところだった。
「ノル!!ネロ!!」
えっちゃんは無事かと姿を探すと、いつの間にかゾンビに囲まれていた。えっちゃんはあっという間にゾンビをやっつけて、オーレリアの元に急いで戻って来た。
『リア!突然壁から手が出てきて、ノルとネロが捕まったんだ!』
「壁から手が……。ゾンビはいつの間に来たの?」
『俺がノルとネロを助けようとしたとき、壁の手から魔法が放たれてゾンビが湧いて出たんだ!』
「なるほど。ゾンビを召喚したのか……」
『リア!ノルとネロを追いかけよう!俺に乗って!』
「えっちゃん待って。まずは敵の居場所を突き止める。たぶん攫ったのはこの階層のボスだと思う。ゾンビやグールを召喚するリッチっていう高位のアンデッドだよ。ノルとネロを攫ったことを後悔させてやる!」
『……リア……めっちゃ怒ってる?』
「あたぼうよ!」
***
一方攫われたノルとネロはというと、
『うわ~ん!りあー!ぼく、かべをすりぬけてるよー!』
『りあー!たすけてー!おれ、おばけになっちゃうのかな?やだよー!』
リッチの手に掴まれて壁をすり抜けながら移動しているノルとネロ。最初は怖くて泣いちゃったけど、このちょっと不思議な感覚に、だんだん慣れてきた。
『ねぇ、どこにいくの?』
『……』
『なんで、おれたちを、さらったの?』
『……』
『おはなし、できないの?』
『……』
とりあえずリッチに話しかけてみたが、返事がない。ケットシーの言葉は通じないのか、無視しているのか、その表情(骨と皮)からは分からない。
『はぁ。りあ、しんぱいしてるかな?』
『してるよ。きっとえっちゃんも』
『りあ、ないてないかな?』
『りあなら、おこりそう……』
『……そうだね。おこってるかもね……』
ノルとネロは考える。オーレリアが怒ったらどうなるんだっけ?虫のいる階でもちょっと怒ってたよね?サーベルタイガーを一撃で倒しちゃった。魔の森でグリムタランチュラに遭遇したときは、森を燃やしちゃった。あのときは怒っていたわけではないけど、町ではエンシェントドラゴンとか言われてたよね。魔物には容赦ないんだ。
『ねぇねぇ、まものさん!りあがきたら、あやまったほうがいいかも』
『……』
『たぶん、ゆるしてくれないけど、あやまらないよりはいいかも』
『……』
『うそじゃないよ?』
『……』
『おこると、ほんとうにこわいんだから!』
『……』
相変わらず返事はないが、一応忠告はした。あとは知らないんだから。
***
オーレリアは杖を両手で持ち、この広いフロア全体に探索魔法を行きわたらせる。目をつぶって集中し、ノルとネロの魔力を追う。
「いた」
パチッと目を開けると、えっちゃんの方へギラギラした目を向ける。
「えっちゃん、行こう」
『おう!(リアの目が怖い)』
えっちゃんに乗り、フロアを移動する。
「このまま真っ直ぐ」
『でも、この先は行き止まりだぞ!迂回しなきゃ!』
「大丈夫!このまま行って!」
そういってオーレリアは、立ちふさがる壁を次々と魔法で破壊していく。迂回なんてしている時間がもったいない。
『おー……リア?ダンジョン、壊れないよな?』
「さぁ?このぐらい平気でしょ」
『リア、まずはノルとネロの救出だろ?冷静にな?』
「えっちゃん、わたしはものすごく冷静だよ?心配しないで!」
『……そうか?』
「敵を見つけたら、えっちゃんはまっすぐにノルとネロを確保してね。敵のことはなにも気にしなくていいよ」
『……うん』
「さぁ、近づいてきた!あの壁の向こうにいる!」
最後の壁を破壊して、とうとうボス部屋に到達した。土埃を舞い上げ部屋に侵入すると、オーレリアはえっちゃんから飛び降りた。えっちゃんはそのままの勢いでノルとネロを救出に向かう。
オーレリアは素早くリッチを魔法で拘束した。突然の出来事に不意を突かれ、身動きがとれなくなったリッチはノルとネロを手放した。
『お前たち!大丈夫か!』
『わーい!えっちゃんだー!』
『えっちゃーん!ありがとう!』
ノルとネロは救出に来たえっちゃんにしがみつき、再会を喜ぶ。えっちゃんはそのままオーレリアの元へ戻って来た。
『『りあー!』』
「ノル!ネロ!ごめんね!」
オーレリアがノルとネロをギュッと抱きしめる。こんなに小さくて可愛い子たちを怖い目に合わせてしまった。だから奴には、落とし前をつけてもらわないとね。
「ちょっと待っててね」
オーレリアは安心させるようにノルとネロに笑いかけ、えっちゃんに託す。そして空中で動けずに固まっているリッチと対峙した。なにやら物々しい雰囲気を感じ、えっちゃんは距離をとる。
「ノルとネロを奪おうとしたお前を、わたしは許さない。成仏なんて出来ると思うな」
オーレリアの瞳から光りが消えた。
『おーい!りっち!あやまるなら、いまだよー!』
『もう、おそいとおもうよ』
『リアすごく怒ってるんだよ。大丈夫かな?』
『あーあ。りっち、もうだめだな』
『だからいったのにー!』
ノルとネロとえっちゃんは、心配そうにオーレリアとリッチを見上げるのであった。




