第62話 びみー!
ローストビーフ丼を食べて満足した一行は、ちょっぴり食休み中。
今休憩しているこの場所には地下湖があり、天井から落ちてくる水滴で水面がゆらゆらと揺れていた。洞窟の中だから薄暗いのだが、発光するスライムの青や緑の光が湖に映り込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「なんだか綺麗な場所だねぇ」
『そうだな、夜のキャンプのときみたいだ!』
「確かに!この辺の壁ってなんだかキラキラしてる?」
発光スライムの光で、水面だけではなく壁もキラキラしているようだった。
『りあ!みて、これ!』
『きれいなの、みつけた!』
二匹で遊んでいたノルとネロが走って戻って来た。それぞれ何やら石を抱えている。けっこう大きいのを拾ってきたようだ。
『ここが、きらきらしてるんだよ!』
『ほら!ここも!』
「本当だ!石の中の方がキラキラしてるね。こっちは緑で、こっちは紫色だね」
『へー!こんなのどこにあったんだ?』
『かべのほうに、いっぱいおちてるよ!』
『うん、いっぱいあったよ!』
壁の方へ行ってみると、所々にキラキラと鈍く輝く石が落ちていた。これが発光スライムの光りを反射していたのだろう。
オーレリアがためしに鑑定してみると、緑色のはエメラルドの原石で、紫色のはアメジストの原石だった。
「へー宝石だったんだ」
『宝石って何かに使えるのか?』
「う~ん、魔石じゃないからね。綺麗だから装飾品にするぐらいじゃないかな?」
『装飾品?リアも持ってるのか?』
「わたしは、宝石が付いた装飾品は持ってないよ。どうせなら魔石の方がいいもん」
『ぼく、これもってかえっていい?』
『おれも、おみやげにしよう!』
『そうか、俺もみんなへのお土産にしようかな!』
とりあえずみんなで落ちている原石を探して回った。ここにはいろんな種類の原石があるようで、青や黄色、透明なものまで、いろんな色の原石を獲ることが出来た。
「さて、石もたくさん拾ったことだし、そろそろ先に進もうか」
今までのダンジョンのようすだと、この洞窟が5階層ぐらい続くのだろう。
先ほどまでと同様、ネズミやらカエルやら、あとはテンタプラントという触手をもった大きな食虫植物の魔物を倒しながら4回ほど階段をおりて、15層目に到達した。
『やっぱりリアが言った通り、食べられそうな魔物がいない。ハズレダンジョンなのかな?』
『はずれ!』
『はずれだねー!』
「残念だな~」
だんだん疲れもたまって来たし、みんなのやる気が下がっている。たしかに、魔の森やフェンリルの里周辺には美味しい魔物がたくさんいるから、カエルとか食人植物ばかりじゃつまらない。オーレリアは虫が出た時点でハズレ判定をしていたので、今さらなのだが。
一行はモチベーション駄々下がりで洞窟を進んでいく。洞窟内は壁や岩の隙間から水が沁みだしていて、浅い水路のような、川のようなものができていた。
はじめは細かった水路がだんだん水量を増していく。その水路が流れ着く先には、お昼に休憩した場所にあった湖と同じような地下湖があった。こちらの地下湖の方が広くて深いようだ。そしてたぶんここに、この階層のボスがいるはずだ。
オーレリアが湖に近づいたとき、水面がゴゴゴ……と割れ、見上げるほど巨大な青い蟹が姿をあらわした。そしてその眷属なのだろうか、一回り小さめ、といっても牛ほどの巨躯を持つ青い蟹がわらわらと湖から湧いて出てきた。
「蟹だ!」
『うぉぉデカい!』
『りあ、このかに、たべられる?』
『たべていいやつ?』
みんなの目は巨大な青い蟹にくぎ付けだった。オーレリアは蟹の鑑定を行う。
「名前はブルーケイブクラブ。洞窟に住む青い蟹の魔物。強固な甲羅と巨大なハサミを持つ。なお、美味。」
最後の一文を聞き、みんなの瞳がきらりと光る。蟹の青みが増したように見えたのは気のせいだろうか。
『『『うおーーー!!!』』』
『やるぞー!』
『びみー!』
『びみー!』
急にやる気満々のみんなが、それぞれ蟹をやっつけにかかる。
「みんな!ドロップしたらわたしが回収するから、倒すことに専念してね!」
『分かった!』
『まかせてー!』
『びみー!』
ノルのあれは返事なのだろうか。まぁ集中してるってことかな?
オーレリアも小さいほうの蟹を仕留めていく。今日は何もしないって約束だったけど、もういいよね?ようやく見つけた美味しい食材を逃がしたくない。
蟹も必死の抵抗でバシャバシャと水を飛ばして攻撃してくる。そこへ、ボスのブルーケイブクラブが突進してきた。
「大人しくしててよ!」
オーレリアは氷魔法で湖を一気に凍らせ、蟹たちの動きを封じた。ボスの態勢が崩れたところをノルとネロとえっちゃんが仕留めにいく。オーレリアも、残りの小さい蟹を一匹残らず狩っていった。
すべての蟹を倒し、オーレリアもみんなもご機嫌だった。ドロップ品は、蟹の足、蟹のハサミ、蟹の甲羅。ハサミや甲羅は武器や防具の素材にもなる。ボスからは少し大きめの水の魔石もドロップした。
「よし、たくさんとれた!今日は蟹パーティーだ!」
『やったー!』
『わーい!』
『蟹パーティー!楽しみだ!』
そういうわけで、湖のすぐ先、階段があるセーフティエリアへ向かって野営の準備をする。今日もニックとレミーに頑張ってもらおう。
「まずは茹でたほうがいいかな?でもこんな大きな蟹が入る鍋がない……」
オーレリアが持っている鍋ではこの蟹を茹でることは難しい。大きい鍋、欲しいなぁ。仕方がないので魔法でやっちゃおう。
オーレリアは湖の水を魔法で汲み上げ、空中に巨大な球体を作った。その中に蟹を入れて火魔法で加熱。すると、空中に浮かんだ球体の中で、青黒い甲羅がゆっくりと赤へ変わっていく。
『わぁ!あかくなった!』
『すごい!いろがかわったよ!』
『なんか美味しそうになってきた!』
茹であがった蟹をまずは食べてみよう。レミーに殻を割ってもらうと、白い湯気とともに、甘い香りがあふれ出した。
「身がぷりっぷりだね!さっそく食べてみよう!」
『『『いただきまーす!』』』
『わぁ!あまーい!』
『ほんとだ!すごくあまいね!』
『美味い!身がプリプリで食べ応えがあるな!』
「これは、味付けいらないぐらい美味しいね!」
ボイル蟹は、素材そのものの味って感じで甘くて美味しい。そして次は焼いてみよう。
ニックのステーキグリルでボイル蟹の大きな足やハサミを焼いていく。焼き始めると香ばしい匂いが漂い食欲をそそった。
『はやくたべたーい!』
『りあ、まだー?』
『ワクワク!』
一度茹でてあるのですぐに焼きあがる。熱々の身をレミーがお皿に取り分けてくれた。
「あっついから気をつけてね」
『ぱくぱく!あっつい!』
『ふーふー!ぱくっ!あっつい!』
『ん~!熱いけど美味い!』
「おー!焼くと香ばしくなるね!旨味が濃厚!」
そして大きな甲羅。ここには蟹味噌がたっぷり詰まっている。それも甲羅を器のようにしてニックのグリルで軽く炙ると、ぐつぐつと香ばしくなってきた。そこに、ほぐした蟹の身をいれる。
ノルとネロとえっちゃんが固唾をのんで見守っている。
さっそくみんなで食べてみると、
『んー!おいしい!おいしい!』
『のうこう!すっごくおいしいね!』
『おお!蟹味噌って美味いんだな!』
「うっ……う~ん?ちょっと苦い」
蟹味噌は大人の味だった。オーレリアにはまだちょっと早いようだ。
「みんな苦くないの?」
『ぜんぜんへいき!おいしい!』
『りあ、たべられないの?』
『なんだ!リアはお子ちゃまだなー!この苦みがいいんじゃないか!』
「お子ちゃまって言うな!ちょっと……苦手なだけだし!」
『りあは、まだちいちゃいから、しかたないよ!』
『そうだね!しかたないね!』
ノルとネロに小さいとか言われたくないんですけど!もう、失礼しちゃう!




