第61話 こんどはヌメヌメ
ダンジョン内で一泊したオーレリアたちは、朝食を済ませ下の階層へと降りたった。次の階層は洞窟だった。
「なんかダンジョンっぽいね」
『普通の洞窟だな』
『どんなてきが、いるのかな?』
『りあ!きょうは、てき、やっつけないでね!』
「うん、わかってるよ」
ネロに言われてしまったので、よけいなことはしないよう、オーレリアは一番後ろを歩く。
洞窟の中には、青や緑に淡く光るスライムがいて、天然のライト代わりになっている。こちらから手を出さない限り攻撃はしてこない、大人しい性質のようだ。
「えっちゃん、スライムやっつけないでね?」
『むぅ、仕方ない』
ノルとネロが張り切って先頭を歩く。出てくる魔物と言えば今のところ、巨大コウモリだが、魔法が上手になった二匹がサクサクと倒していく。オーレリアとえっちゃんの出番はなさそうだった。
しばらく歩いていると、ネズミの魔物が出てきた。これはスニークラットと言って、ちょこまかと走り回って鬱陶しい。
だがそのとき、ノルとネロの目つきが変わった。
『『シャーーーー!』』
いつもと様子が違う。瞳孔が縦長になっているし、毛を逆立てて興奮している。
『なんだ?急にやる気スイッチ入っちゃったのか?』
「あぁ、うん。ネズミをみるといつも性格かわっちゃうんだよね」
急な変化に驚くえっちゃん。ノルとネロはシャーシャーといいながらスニークラットを追いかけ回し、魔法ではなく爪で仕留めている。
『生き生きしてるな!』
「可愛いねぇ!」
そして最後のスニークラットを倒し振り向いたノルとネロは、すでにいつもの真ん丸お目目のノルとネロだった。
『あー!たのしかったー!』
『おいかけっこ、たのしーねー!』
ノルとネロが満足そうに戻ってくる。
『おー!元に戻った!』
『ん?えっちゃん、どうかした?』
『りあ!ぼく、いっぱいたおしたよ!』
「うん、二人とも格好よかったよ!」
『えーほんと?ぼくかっこよかった?』
『おれも、かっこよかった?やったー!』
ノルとネロはカッコいいと言われると、とても喜ぶ。やっぱり男の子だからか、可愛いと言われるよりも嬉しいらしい。
『なんでネズミのときだけ目つきが変わるんだ?』
『え?なんかね、せなかが、びびびってなるの!』
『なんかね、しっぽが、ぞくぞくってするの!』
『よく分からないけど、面白いなー!』
そんな感じで、ネズミとの追いかけっこを楽しみながら奥の方へ進んでいくと、少しジメジメとしてきた。地面がじっとりと濡れている。地下に水脈でもあるのだろうか。
「なんか濡れてるね。転ばないように気をつけてね」
まぁ、このなかで転びそうなのはオーレリアだけなのだが。
『リア、俺に掴まってろよ。なんだかビチャビチャ音が聞こえるな?』
『ほんとだ!』
『きこえるね!』
「え?そう?何も聞こえないけど……なんかたくさん来てる」
オーレリアにはまだ音は聞こえていないが、魔力探知をしてみると、大量の何かがこちらに向かってくるのが分かった。
『びちゃびちゃきこえるよ!』
『いっぱい、いる?』
「あ~、なんか聞こえてきた」
『来るぞ!』
そこに現れたのは、やたらと派手なカエルだった。
『わー!いろんないろの、かえるだ!』
『たくさんいるねー!』
『派手な奴らだなー!』
「うわ~なんか、ヌメヌメしてる」
このカエルはスプラフロッグといって、緑色のヌメった体表に、赤や黄色、オレンジの斑模様が不規則に散っている。まるで、絵の具をぶちまけたような派手な色合いだった。
『りあは、たたかっちゃ、だめだからね!』
「はい」
オーレリアはカエルは虫ほど苦手ではない。ただ、好きでもない。このスプラフロッグは体の模様の様な派手な色の毒をペッっと吐き出してくるし、なんかヌメヌメしてるので、サポートに回ることにする。
ノルとネロはピョンピョン跳ねるカエルの間を縫って一匹ずつ確実に倒していく。えっちゃんは得意の風魔法でバシュバシュとやっつけている。
派手な色の粘液が飛び散って気持ち悪いので、オーレリアはノルとネロとえっちゃんに付かないように防御魔法をかけていた。
『それにしても数が多いな!』
『ぜんぜんへらないね!』
『たくさんいるなー!』
「……手伝おうか?」
『だめ!りあは、そこにいて!』
『りあは、うごいちゃだめ!』
『リアはダメだぞ!』
「あ、はい……」
なんか、仲間外れにされているようでちょっと寂しい。昨日うっかりサーベルタイガーを倒しちゃったことが、こんなに尾を引くとは思わなかった。
『よーし!じゃあ、ひのまほうね!』
『おー!』
『じゃあ俺は、風の魔法で火の魔法を大きくするよ!』
なんか三匹で仲良く連携してる。ノルとネロが火魔法でカエルたちを囲い込み、それをえっちゃんが風魔法で竜巻にした。火炎旋風だ。
火に弱いスプラフロッグは火炎旋風に一気に飲み込まれていく。あんなにたくさんいたのに、あっという間にジュワっと消えていった。そして後にはドロップ品が残されていた。
『やったー!』
『ぜんぶ、やっつけた!』
『気持ちよかったなー!』
オーレリアはちょっとした疎外感を感じつつ、みんなとドロップ品を回収して回った。ドロップ品は粘液や染料、被膜といった魔道具や錬金術に使えそうな素材だった。オーレリアには使い道はなさそうなので、町で売ってしまおう。
「お疲れ様!もうちょっと進んだら休憩にしようね」
なにしろこの場所は、スプラフロッグの粘液でヌメヌメしていているのだ。こんなところで休憩はしたくない。
洞窟をさらに先へと進んでいくと、地下水が沁みだした地下湖があった。その場所は少し開けているので、休憩するのにちょうど良さそうだ。
『ここが良さそうだな!』
「そうだね、ここで休憩しよっか」
『おひるごはん!』
『おなかすいたー!』
「じゃあ次はえっちゃんの食べたいものにしようか!」
『えっ!俺の食べたいものでいいの?』
「うん!ノルとネロの食べたいものは作ったからね。次はえっちゃんの番!」
『やったー!じゃあね、俺は肉がいい!』
「そう言うと思ったんだけどさ、肉って言ってもいろいろあるじゃない?」
『でも、俺はリアと一緒に食べた料理しか知らないし。じゃあ、俺がまだ食べたことのない肉料理がいい!』
「なるほど。じゃあちょっとレシピ帳を見てみよう」
オーレリアはとりあえず休憩が出来るように辺りに結界を張り、テーブルセットとニックとレミーを取り出した。そして椅子に座りレシピ帳を眺める。
「なにがいいかなー。ステーキやビーフシチューは食べたもんね」
『まだ、つくってないの、ある?』
「いっぱいあるよ!特に面倒くさそうなのは作ってないし」
『りあ、めんどくさがり!』
「えへへ~。でも今はニックとレミーがいるから大丈夫!あ!これどうかな、ローストビーフ!」
よし、そうしようと早速ニックとレミーを起動する。ローストビーフのレシピを読み込ませて大きなグリムバイソンの肉を渡す。
今回はレミーがお肉の下処理とソースづくり、その間にニックがオーブンでお肉を低温調理。オーレリアは丼にするべくご飯を炊く。分担できてとても楽ちんだった。
そしてわずか20分後、ローストビーフ丼が完成した。
「出来たよー!」
『わーい!』
『やったー!』
『わぁ!綺麗だなぁ!』
しっとりとしたピンク色のローストビーフが、ご飯の上に山のように盛り付けられ、上には温泉卵がのっていた。
『『『「いただきまーす!」』』』
『んん~!美味い!このお肉さいこー!」
『ガツガツガツ……うまうまうま!』
『モグモグ……たまごも、おいしいね!』
「美味しいね!お肉も柔らかいし!」
えっちゃんもとっても気に入ってくれたみたい。ニックがどんどんお肉を焼いているから何回でもお代わりできるし、よかったね。
「それにしてもこのダンジョン、ちっとも美味しそうなものドロップしないね」
『確かに!』
『そういえば!』
『そうかも!』
師匠がわざわざ石碑に残していたぐらいだから、何かはあると思うんだけどな。まぁでも師匠のいたずらかもしれないし、あんまり期待せずに先に進もう。




