第60話 お詫びのお子様ランチ
オーレリアの嫌な予感の通り、8層目から虫の魔物が出始めた。えっちゃんとノルが頑張って倒してくれているが、9層目に入るとさらに数が増えてきた。キラーホーネットという蜂の魔物が加わったせいで、羽音がさらに響き渡る。
オーレリアにはネロが張り付いていたおかげで落ち着いてはいたのだが、羽音が聞こえるたびにイライラが募る。
「うるさいなぁ。あの音やめてくれないかなぁ」
『ネロ!リアの耳も塞いでやれよ!』
『ぼくのうでじゃ、とどかないよぉ』
『キャハハハハ!ねろのうで、みじかい!』
『のるだって、おんなじながさだよ!』
『ノル!笑い事じゃないぞ!ノルはそろそろネロと交代したらどうだ?』
『えっ!なんで?』
『ずっと戦って疲れただろ?』
『ぜんぜんだいじょうぶ!』
『のる、つかれた?こうたいする?』
『ぜんぜんだいじょうぶ!』
「うぅ……ノルはわたしと一緒にいるの嫌なんだ……」
『ち、ちがうもん!つかれてないんだもん!』
ノル、ひどい……。とはいえ、えっちゃんとノル二人に任せっきりなのは、なんだか申し訳ないなと思う。だが歩いている最中も、
――ブゥゥゥゥン……
ビクッ!
――ブゥゥゥゥン……
ビクッ!
「ハァハァ……ああ、もう……」
長い時間恐怖にさらされてきたオーレリアのイライラが、そろそろ限界に達しようとしていた。
――ブゥゥゥゥン……
「ねぇ……ここはダンジョンなんだから、別に燃やしちゃってもいいよね?誰にも迷惑かけないもんね?」
『迷惑はかからないかもしれないけど、ダンジョンが燃えたら俺たちも危険なんじゃないか?』
『りあ、またもやすの?』
「んー……じゃあ、燃やさないように気をつける」
『りあ、どうしたの?』
――ブゥゥゥゥン……
「わたし、もうヤダ!!頭にきたーー!!」
『『『えぇーーー!?』』』
もう我慢の限界だった。一体いつまで虫が湧いてくるのだろうか。羽音を聞くたびにビクビクしてしまうが、腹立たしさが次第に募りついに爆発した。
オーレリアの瞳から光が消える。
「……殲滅してやる!このダンジョンから一匹残らず!」
オーレリアは、高火力の青い炎の光を無数に発生させ、魔力探知に引っ掛かった魔物を次々と射貫いていく。まだ視界に入る前にロックオンされるうえ、どこまでも追跡していく。青い炎に射抜かれた魔物は、燃え上がる間もなく消え去った。
「えっちゃん、乗せて!魔物はわたしが倒すから、さっさとここから抜け出そう!」
えっちゃんはオーレリアとノルとネロを背に乗せ走り出した。
『だけど、これじゃあドロップ品を回収できないぞ?』
「虫の残骸なんかいらない!」
『えぇ?でも魔物の素材はいろんなものに使えるって言ってたじゃん!』
「手に入らないものだってあるんだよ。残念だけど」
『全然残念そうじゃないぞ?まぁ虫は食べられないから別にいいけど……」
ドカン、ドカンと爆発音を聞き流しながら先へと進んで、とうとうジャングルの最後のフロアである10階層に到達した。
オーレリアは集中したいのと、何も見たくないのとで目をつむっている。とにかく魔物の虫はデカいのだ。あんまり見ると後で思い出しちゃうかもしれないし。
『じゃんぐるのぼすは、どんなやつかな?』
『ぼく、ずっときゅうけいしてたから、がんばるんだ!』
『そっか、じゃあここはネロに頑張ってもらおう!』
ジャングルのボスはサーベルタイガーだった。今度は特にボス部屋っぽい感じではなく、サーベルタイガーのいる場所の奥に、下に降りる階段と転移陣がある。
『お!ネロ、あれがジャングルのボスみたいだぞ!』
『さーべるたいがーだ!おおきいね!』
『ぼく、がんばる!』
『おれも、てつだうからね!』
『俺も援護するから思いっきり行けよ!』
『わかったー!じゃあ、いく――』
ちゅどーーん!
オーレリアの魔法が命中し、サーベルタイガーはあっさりと消えてしまった。
『ああああ!』
『さーべるたいがーがきえた!』
『リア!なんで倒しちゃったんだよ!』
「え?」
ようやくパチッと目を開けたオーレリアは、虫の殲滅に集中していたため、ネロたちの会話を全く聞いていなかった。
『りあのばかぁぁぁぁぁぁ!』
「え?」
『りあ、ひどい!』
「え?」
『ボスはネロがやっつけるって言ったのに!』
「え?……あ、ごめ……」
ネロにボスボスとパンチされ戸惑うオーレリア。
『うわ~ん!』
『ねろ、いじけちゃったよ?』
『リア、どうするんだよ』
「ご、ごめんね!ネロ!わたし……あの……その……ど、どうしよう」
えっちゃんの背中に突っ伏していじけるネロ。それを慰めるノル。ジト目でオーレリアを見つめるえっちゃん。これはまずい状況だ。なんとかしなければ。
サーベルタイガーがいたところには、牙やら毛皮やらのドロップ品が落ちている。今はそれさえも気まずいので、さっさと回収して視界から消した。
「ネロ。えっと、今日の夜ごはんはネロの大好きなものを作るよ!」
『ぼくの、すきなもの?」
ネロがチラッとこちらを見た。いける!もう一押しだ。
「食後のデザートもつけるよ?」
『でざーと?』
「あ、あと、明日はわたしなにもしないから、ネロに頑張ってもらおうかな……」
『ほんと?』
「うん、本当だよ!」
『……じゃあ、ゆるしてあげる!』
「ありがとう、ネロ!」
ふ~、よかった。今日は散々ネロにお世話になったのに、いじけさせてしまった。せめて夜ごはんは好きなものばかりにしてあげよう。
ネロの隣でなぜかノルも嬉しそうだ。夜ごはんに期待しているのだろう。
そういうわけで、セーフティエリアへ移動した一行。石造りのそこは魔物が侵入できないようになっているが、虫の気配を感じたくないのでなるべく奥の方へと向かった。今日はここで一泊することになるので、テントを張り、テーブルセットとニックとレミーの準備をする。
「さぁ、ネロ!何食べたい?」
『ぼくね、えっと、はんばーぐと、ぽてとと、おむらいすと、からあげ!』
「お、おぉ。……いっぱいあるね?」
『だめ?』
「ダメじゃないよ!これは、お子様ランチだね!」
『リア、お子様ランチってなんだ?』
「お子様ランチってのはね、好きなものを全部詰め込んだ豪華なご飯だよ!よし!ニック!レミー!手伝って!」
ニックにから揚げとポテトフライを、レミーにはハンバーグとオムライスの作成を頼む。オーレリアは、ニックに揚げてもらうお肉やポテトの準備、それからデザートのレシピをパラパラとめくり、お子様ランチにピッタリな物を探した。
オーレリアとニックとレミーが忙しく夕食の支度をしている間、完成が気になって仕方がないノルとネロとえっちゃん。ノルとネロはオーレリアの背中にくっつき、作業を眺めているし、えっちゃんはニックが油で揚げているところをワクワクしながら眺めていた。
程なくして料理が完成した。ニックとレミーは作業が早くて助かる。オーレリア一人だったらまだ半分も作れていなかっただろう。
お子様ランチらしく、一つのお皿にハンバーグ・から揚げ・フライドポテト・オムライスを可愛らしく配置した。オムライスに立てる旗はないので、代わりにケチャップで名前を書いた。
「よし!完成!」
みんなの席にそれぞれの名前のお子様ランチを置いて、大好きなミルクも用意する。
『わーい!たべていい?』
「いいよ!」
『『『いただきまーす!』』』
『ぱくぱく!おいしーよ、りあ!ぱくぱく!』
『ガツガツガツ!んん!サクサク!んん!』
『うまーい!凄い豪華だね!美味しいものがたくさんだ!』
「うん、美味しい!揚げ物も上手に出来てる!」
お子様ランチって豪華だよね、準備するのは大変だけど。好きなものの詰め合わせ、最高!ニックとレミーの機能増やしといてよかった〜!
『ぼくのすきなものばっかり!』
『ぜんぶうまい!』
『ニック、から揚げおかわり!』
『『おかわりー!』』
みんな心ゆくまでおかわりをして夕食を楽しんだ。
そしてデザートは、オーレリアたちが食事をしている間冷やしていた巨大なプリンだ。魔法でだいぶ時短して作ったけど、美味しくできているだろうか。
『わ~!でっかいぷりんだー!』
『すごーい!』
『いい匂い!』
レミーに取り分けてもらって、みんなで一口食べる。
「ん!美味しい!ちゃんと出来てる!」
『おいしー!』
『あまーい!』
『俺はこれ、一人で全部食べるのが夢だ!』
『おれも!』
『ぼくも!』
「あはは!そのうち作ってあげるよ!」
『ぼく、すごくおいしかった!おなかいっぱいで、しあわせ~』
あ~ネロが可愛い!オーレリアは思わずギュッとネロを抱きしめた。
こうして、ノルとネロとえっちゃんの笑顔に囲まれて、満ち足りた夜は更けていく。




