第59話 なんかジメジメしてるし
ヒュージスライムの部屋を出ると、先へ進む階段とダンジョンから地上に戻る転移陣があった。どうやら5階層ごとに外に出られる仕様らしい。さらに階段付近はセーフティエリアになっていて、ちょうどいい休憩場所になっている。実に便利な仕様だ。
オーレリアが結界を張ればどこでも休憩は出来るのだが、ちょうどお昼だし、せっかくなのでここで昼休憩をとることにした。
「みんな何食べたい?」
『おれ、あれがいい!あの、ごはんのうえに、おにくとたまねぎの……あれ!』
「ご飯の上に、お肉と玉ねぎ……牛丼のこと?」
『そう!ぎゅうどん!』
「牛丼なんて久しぶりだね。よく覚えてたね、ノル!」
『ずっとまえに、たべたの、おぼえてる!』
さすがはノル。昔、エルフの里に遊びに行ったときに食べた料理だ。アルシアがレシピを聞いて何度か作ってくれたから、ノルも覚えていたのだろう。ハイエルフの里でも狩人たちに人気の料理となった。
オーレリアはレシピ帳を取り出し、パラパラとめくる。
「あった!アルシアのレシピ帳って本当に助かるなぁ」
空間収納からレミーを取り出して起動し、牛丼のレシピをスキャンさせる。レミーの目の部分から水色の光線がでて、上から下にレシピを読み取っていった。そして頭の部分を一回転させ、指をワキワキと動かすとエプロン型作業台で調理を開始する。
オーレリアは、今回のダンジョン探索に向けて、レミーとニックを改造していた。レミーはエプロン型の作業台が180度ほどだったのを360度開くようにした。前面は調理台、後ろはコンロになっている。焚火をしなくても料理ができるようになった。
ニックは今まで肉を切って焼く機能しかなかったが、揚げ物用のフライヤーとステーキグリルも取り付けた。お腹側がロティサリーオーブン、背中側がフライヤー。そして、両サイドからグリルユニットが前方に向かって半円状に展開する、デュアルウィンググリル機能を搭載した。なんか格好良さそうに説明してみたが、要するに横からステーキ用の焼き網が出てくるのだ。
今回の改良のせいでニックはサイズアップし、ずんぐりむっくりな体形になってしまった。まぁ、ニックにはこのまま肉料理を極めさせたい。
レミーが牛丼の具を作ってくれている間に、オーレリアは空間収納から木製のテーブルセットを取り出し、ご飯を炊いたり、飲み物の準備をする。食事の時間がだいぶ楽になった。
ご飯をそれぞれの器によそっていると、
『おれの、もっとごはんいれて!』
『ぼくも、あとちょっとだけいれて!』
『俺のは大盛で!』
「はいはい、ちょっと待ってねー」
レミーの方も完成したので、ご飯の上にたっぷりとのせていくと牛丼の完成だ。
『やったー!いただきまーす!』
『『いただきまーす!』』
ノルがフライング気味に食べ始める。ネロとえっちゃんも負けじと牛丼を食べ始めた。
『ガツガツガツ!んーおいひー!』
『んん!おにく、あまくておしいー!』
『バクバクバク!おーこの甘辛い味、すごくいい!』
「あー牛丼久しぶり!たしか卵を入れると美味しかったんだよね。みんな卵入れる?」
『んんんー!もぐもぐ』
「それは入れるってことでいいかな?」
『ぼくにもいれて!』
『俺も!』
ノルは口に頬張りすぎて喋れないようだ。頷いているので入れて欲しいってことだろう。みんなの丼に卵を入れてあげる。
たしかエルフの里で食べたときは、紅ショウガとか七味唐辛子なんかが添えてあったけど、そんな気の利いたものは持ち合わせていないので、これで良しとする。
細かいことはさておき、久しぶりの牛丼はとても美味しくて、なにより元気が出た。ノルとネロとえっちゃんも、もちろんオーレリアも大満足の昼食となった。
さて、忘れそうになったが、ここはダンジョンの中だ。お昼ごはんも食べたことだし、さっさと片付けて先に進もう。
下に降りる階段を下りていくと、次の階層はジャングルだった。
「ジャングルかぁ。なんかジメジメしてるし……嫌な予感……」
『りあ、どうしたの?』
『りあ、かおいろわるい?』
『リア、具合が悪いのか?食べすぎか?』
「違うよ。大丈夫!さぁ、行こうか」
牛丼を食べて元気が出たのは気のせいだったようだ。そこはかとない不安を押しやり、ジャングルを進む。
ジャングルには、ジャングルモンキーという蔦を使って高速移動してくる猿や、密林リザード、密林アナコンダといった毒を持つ魔物が出てきた。しかし、どれも魔の森の魔物よりは弱いので、苦労することなく先へ進むことができた。
危険と言われる魔の森に住んでいるオーレリアたちからしたら、苦戦するのも難しいのである。
しかし、1階、2階と下に降りるにつれて、オーレリアの不安は増していく。
遭遇する魔物が段々と植物系に変わってきたのだ。しびれキノコや人食い花など、それほど強くはないのだが、こういう魔物がいるということは、あの類がいないはずがない。……最悪だ。もうお家に帰りたい。
8階層まで降りてきたとき、とうとうオーレリアの足が止まった。
「……」
『りあ?やっぱりへん』
『うん、なんかへん』
『どうしたんだよ、リア?』
「ふー。みんな、落ち着いて聞いて!このフロアには、間違いなく……あれがいる!」
『あれ?』
『あれってなーに?』
ノルとネロが可愛く首をかしげていたそのとき、
――ブゥゥゥゥン……
オーレリアの背筋が粟だった。
『もしかして……虫か!?』
『むし!?』
『たいへんだ!りあ!』
オーレリアはえっちゃんにギュッとしがみつき、目をつぶっていた。
『リア!俺が倒してくるからちょっと離してくれ!』
「えぇー!離れたくないよー!嫌な音がするよー!」
『ネロ!リアの顔にへばり付いててくれ!』
『わかった~!りあ、ぼくにまかせて~!』
ネロがオーレリアの顔にポフンとくっつく。
「わぁ!ネロのお腹、柔らかくてあったかい!それに、いい匂い!」
『うふふ、りあ、くすぐったい!』
さっきまで、青い顔で泣きそうだったオーレリアだったが、ネロの癒し効果は抜群だった。
『さすがネロだな!よし、ノル!俺たちでやっつけよう!』
『うん!ねろ、りあをたのんだぞー!』
えっちゃんとノルがそれぞれ虫の魔物を倒しにかかる。
この階層に生息する虫は、ビッグアント・毒イモムシ。そしてあの羽音の原因である斬り羽バッタだ。斬り羽バッタはその名の通り、羽が刃物の様に鋭く、斬りつけてきたり斬撃を飛ばしてくる。そしてその攻撃の前にはあのブゥゥゥゥンという嫌な羽音が、より大きく聞こえるのだ。
えっちゃんもノルも、虫の魔物には慣れている。魔の森でもオーレリアが虫に遭遇しないようにいつも駆除しているし、フェンリルの里の辺りで狩りをしたときも、虫の魔物はたくさん倒した。
ノルは、虫の魔物よりもオーレリアの方がずっと強いのに、なんであんなに怖がるんだろうと不思議に思っていた。
次々と襲ってくる虫の魔物をバサバサと倒していくえっちゃんとノル。フェンリルのえっちゃんはもとより、ノルもだいぶ強くなった。えっちゃんやフェンリルのみんなと狩りをするうちに、たくさん魔法を使えるようになったのだ。
この雄姿をオーレリアに見てもらいたいのに、今はネロがくっついていて見てもらえないのが残念だった。
一方のオーレリアとネロはというと、
「ネロのお腹、なんだかクッキーのようないい匂いがするよ?なんで?」
『えへへ~!くっきーたべたのばれちゃった!』
「いつの間に!」
『ぼく、まじっくばっぐに、おやつかくしてるの。のるに、とられないように!』
「へ~、そうだったんだ!ノルは食べるの早いもんね」
『そうなの。だからぼく、まじっくばっぐもらえて、うれしい!』
「そっか、そっか!よかったね~!』
『あとね、すごくきれいないしとか、おおきなまつぼっくりもあるよ!』
「宝物入れてるんだね!可愛いね~ネロ~」
先ほどの怯えた雰囲気はどこへやら、めちゃくちゃ和んでいた。




