第58話 ウェルカムビーチ
ザザーン……ザザーン
繰り返す波の音に心が安らぎ、ゆったり穏やかな気持ちになる。
青い海、白い砂浜、照りつける太陽と晴れ渡る青空。オーレリアたちは今、南国のビーチリゾートのような場所にいた。
『キャー!アハハハハ!』
『まてまてー!アハハハハ!』
『……!!……!!』
バシャバシャと、波打ち際で遊ぶノルとネロ。一心不乱に砂を掘るえっちゃん。ここがダンジョンだということを忘れ楽しそうに遊んでいる。
「綺麗な海!ダンジョンってこんな感じなんだぁ」
オーレリアは、ヤシの木の木陰に座りジュースを飲んでいる。
ダンジョンの入り口を入ってすぐがこの場所、南国ビーチリゾートだった。ここに来た瞬間は呆気にとられたものの、すぐに走り出し遊び始めた三匹。魔力探知で調べた限りでは、近くに魔物の気配はなかったので、しばらく自由にさせている。
「……いや、遊んでいる場合じゃ……いや、別に急いでないからいいのか」
とはいえ、いつまでもここにいても仕方がないので、そろそろ先に進もう。
「ノルー!ネロー!えっちゃーん!そろそろ行くよー!」
『えーもういくの?』
『りあもあそぼうよー!』
『海って楽しいな!』
「楽しいけど、一応ここダンジョンだからね。先に進まないと」
みんなも、それもそうかと歩き出す。いつものように楽しくおしゃべりしながら、砂浜をしばらく進むと、砂に埋まりかけた石板がみつかった。
『りあ!なにかうまってるよ!』
『いしに、なにかかいてある!』
『魔法陣だな』
「次のフロアへ行く魔法陣かな?転移ではなさそう。ちょっと魔力を流してみるね」
オーレリアが石板に魔力を流すと、突然海が大きな音を立てて二つに割れた。
「おぉ~」
『わぁ!うみがわれた!』
『みちができてる!』
『凄いな!海の中を歩くのか!』
砂浜から沖へと続く海の中に、まるで道のような空間が開けていた。左右に割れた海は壁の様に立ち上がり、その断面から青く透明な海の中がよく見えた。
オーレリアたちは海の道を歩く。
『すごーい!うみのなかだ!』
『あっ!ちいさいおさかなだ!』
『海の中ってこんななのか!綺麗だなー!』
「ほんと、綺麗だねー!」
ノルとネロは綺麗な貝殻を拾ったり、お魚を見つけては喜んでいる。えっちゃんは海の断面が気になるのか、前足を差し入れてはビシャっと水を飛ばしていた。
本当に美しい眺めで、いつまで見ていても飽きなかった。ここでブランケットを広げてお茶でもしたいところだったけれど、いつ魔力が切れて元の海に戻ってしまうか分からないので、仕方なく先に進んだ。
長く続いた海の道の先には洞窟があり、地下に降りる石の階段があらわれた。
「なんか急にダンジョン感出してくるじゃん」
みんなが階段の近くまで来ると、今まで美しく開けていた海の道が閉じ、元の海へ戻ってしまった。そして洞窟の入り口は消え、もう先に進むことしかできない。
『あ~あ、きえちゃった』
『うみのなか、たのしかったな~』
『でも魔物もいないし、なんだったんだろうな?』
「う~ん。ようこそ!的な?わかんないけど。まぁとにかく先に進もう!」
そして一行が階段を降り、たどり着いた場所はだだっ広い草原だった。
「今度は草原か。洞窟っぽいのが続くのかと思ったのに」
『ひろーい!』
『ぴくにっく、できるよ!』
『でもここには魔物の気配がするぞ!』
えっちゃんが言った通り、このフロアはさっきのビーチリゾートとは違い、魔物の気配がする。でもなんかあまり強くはなさそう。
みんなでスタスタと歩いていると、ホーンラビットやワイルドドッグなどがチョロチョロと襲い掛かってくる。今はまだノルとネロが遊びながら倒してくれるからいいけど、きっとすぐに飽きてしまうだろう。
えっちゃんに乗せてもらってさっさと次のフロアに行こうと提案しようと思ったとき、オーレリア一行の前にスライムが現れた。
『あ!スライムだ!大食い大会の借りはここで返す!』
突如えっちゃんがやる気を出してきた。前足でプチプチとスライムを潰しにかかっている。
「大食い大会?……えっちゃんたら、まだ……」
『えっちゃん、くやしかったんだねー』
『まだ、ねにもってたんだねー』
ノルとネロは、可哀そうなものを見る目でえっちゃんを見ていた。きっとオーレリアもそんな目をしていただろう。
ひとしきりスライム潰しでストレス発散したえっちゃん。どこかスッキリとした表情で、もう行こうと言ってきた。
『この階は退屈だからさっさと行こう!俺に乗って!』
「退屈?楽しんでるようにみえたけど……」
『えっちゃん、たのしそうだったよー!』
『えっちゃん、すっきりした?』
『もう満足した!これ以上は飽きる』
たしかに、みんなはもうとっくに飽きていたので、えっちゃんに乗って進むことにした。
いつものように素晴らしいスピードで、草原を駆け抜けていくえっちゃん。でもスライムを見つけてはしっかり潰している。
ダンジョンの敵は外の敵と違い、倒すと消えてしまう。そしてたまにドロップ品が残る。一応スライムやホーンラビットからも、小さな魔石などがドロップしたりするのだが、あまり小さいと魔道具作りにも使えないので無視している。ホーンラビットの肉はノルが少しだけ回収していた。
えっちゃんに乗って進んでいたら、あっという間に次の階層に降りる階段が見えてきた。そのままの勢いでさっさと下に降りる。
次の階も先程と似たり寄ったりという感じだったので、そのままえっちゃんに乗って通過する。5階まで降りたところで、少しだけ木々が増え、ゴブリンやコボルトなどの敵が出てくるようになった。それもえっちゃんが走りながらなぎ倒していく。
やがて、木々の間から石造りの大きな扉が姿を現した。ここがボス部屋なのだろう。分かりやすくていいではないか。
「どうする?休憩しなくて大丈夫?」
『このまま行こう!ボスなんだから少しは強いんだよな?』
『がんばるぞー!』
『おー!』
「強いのかな?……まぁいっか、じゃあさっさと行こう!」
オーレリアが扉に触れるとゴゴゴッ!と低く唸りながら開き始めた。そして、中に踏み込むとそこにいたのは、大きなスライムだった。
『またしてもスライムか!少しはやれるんだろうな!』
『えっちゃんがんばれー!』
『えっちゃんやっちゃえー!』
「ヒュージスライムかな。でっかいねぇ」
ここはやる気満々のえっちゃんに任せようということで、ノルとネロは応援に回ったようだ。いつもは自分たちもやりたがるのに、スライムはえっちゃんに譲ることにしたらしい。
えっちゃんはヒュージスライムに向かって駆けだした。得意の爪攻撃でヒュージスライムを真っ二つに切り裂いた、と思ったら、なんとヒュージスライムは大量の小さいスライムに分裂してしまった。
コアを動かして斬撃を避けたのだろう。これは面倒くさい。
『スライムのくせにちょこまかと!』
えっちゃんはスライムが溶解液を吐き出すより早く、風魔法で巨大な竜巻を起こし、スライムを飲み込んでいく。やられたスライムの破片がベチョベチョと飛び散ってくるので、オーレリアとノルとネロは、部屋の隅っこで防御魔法を展開し、しゃがんで観戦していた。
『べちょべちょだね』
『さわっても、だいじょうぶかな?』
「さわったらお風呂ね」
『『……』』
竜巻でほとんどやられてしまったヒュージスライムだったが、なかなかしぶとく、残ったスライムが集まり再度1体のスライムに戻った。が、大分小さい。もうコアを動かして逃げられるほどの大きさではなくなったヒュージスライムは、鼻息荒いえっちゃんに、あっさりと踏みつぶされ消えていった。
『むふー!!』
『えっちゃん、おかえり!』
『えっちゃん、おつかれさま!』
「えっちゃん、スッキリした?」
『いや、まだ物足りない!』
「まぁまぁ、そこは一旦落ち着いて。ほら、ドロップ品があるよ!」
ヒュージスライムが消えた跡に、ドロップ品が落ちていた。
「魔石だ。これは使えそう。あとは溶解液か。これは……スライムスキン?なにこれ。何に使うんだろう」
『すらいむすきん?』
『りあ、それなーに?』
「ちょっと待って、鑑定してみる。……捨てようかな」
『リア!待って!スライムスキンって何なんだ?』
「んー……スライムスキンを顔に被ると、スライムに擬態でき、スライムの能力を使うことが出来るようになる。ただし、外した時、顔がベトベトになる……」
『……つまり!これを使えば大食い大会で――』
「ダメだよ!」
『キャハハハハ!えっちゃん、ずるしようとしてる!』
『キャハハハハ!えっちゃん、はんそく!』
もういい加減、大食い大会のことは忘れてくれないかな……。




