第8話 畑をつくる
ザリ、ザリ……
「う〜ん。痛い……すー、すー」
ザリ、ザリ……
「痛いよぉ……んぁ、あれ?」
翌朝、オーレリアは、ネロにおでこをザリザリとなめられて目を覚ました。
「おはよう、ネロ。ノルとえっちゃんは?」
『りあ、おはよう!やっとおきた』
「えっ?わたし寝坊した?」
『うん。りあ、ぜんぜんおきなかったから、ノルとえっちゃんはでかけてくるって』
「えぇ〜!?出かけたって、どこにいったの?」
『あさごはんをとっとくるって』
「朝ごはん……そっか、すぐに作らなきゃ!……ネロは行かなくてよかったの?」
『ぼくは、りあがおきるのをみはってたの』
「そう、ありがとう。じゃあ、すぐ用意するね」
昨日は山に登ったし魔法も結構使ったから、疲れ切っていてすっかり寝坊してしまったようだ。すごく眠たくなるから気を付けないと。
「わたしが起きなくても、みんなが朝ごはんを食べられるようにしたほうがいいかなぁ」
いつものように、キッチンで朝食を用意する。今日はスクランブルエッグと、ベーコンでいいかな。パンは、この前たくさん焼いておいたパンケーキを空間収納から取り出す。
飲み物を用意していたら、ノルとえっちゃんが帰ってきた。
『ただいまー!いいにおい!』
『ただいま!リア、起きてたか!』
「おかえり!ごめんね、寝坊しちゃって」
『気にするな!ノルにこの森の美味しい魔物を教えてきたんだ!』
「うん!おいしかった!』
「なんだ、もう食べてきたの?じゃあ朝ごはんいらなかったね?」
『いるよ!それはべつなのっ!』
『そうだぞ!森で食べるのと、リアが作ったものは全然別なんだぞっ!』
「そうなの?……まぁいいけど」
なぜかノルとえっちゃんが必死に訴えてくる。
『おなかすいたよぉ〜。はやくたべようよぉ!』
ネロが待ちかねていたので、みんなでいただきますをする。
「森で何を食べて来たの?」
『おおきなとりをとってたべたよ!でも、りあにやいてもらったほうが、おいしい』
『リアが焼くと美味しくなるのか?じゃあたくさん狩ってこよう!』
『とりにくはね、からあげとかねー、フライドチキンとか、あぶらにいれると、おいしくなるんだよ!』
『ぼくもからあげすきだよー!』
『からあげ?ってそんなに美味いのか!リア、たくさん狩ってくるから、からあげ作ってくれ!』
「うん。別にいいけど……」
なんか、ノルのせいでみんな食いしん坊になってない?朝ごはん食べながら、ずっと食べ物の話してる。
『きょうはどこにいく?』
『くだものさがしにいく?』
「果物もさがしたいけど、畑も作りたいんだよね」
『はたけ?』
「そう、野菜を育てるの。持って来た食料にも限りがあるからね。それに本で読んだんだけど、この辺り、冬は結構雪が降るみたいだから蓄えておかないと」
『やさいは、べつにいい』
『ぼくも、べつにいい』
『俺も』
「むぅ、君たちはいいかもしれないけど、わたしは野菜食べたいのっ!」
外に出たオーレリアは、家の前の敷地を見渡した。
こころなしか、精霊の光がほんの少し強くなった気がする。
ここに来たばかりの頃は、今にも消えてしまいそうな弱々しい光だった。それでも、数はまだ全然少ない。
ハイエルフの里の、蒼の森の精霊たちは、数も比べ物にならないほど多く、光も強かった。特に精霊たちの集まる場所は、派手なイルミネーションのようで、目がチカチカするほどだ。
精霊が多くいる場所は、畑の植物の成長が早い。種を植えてから、2週間ほどで大体の野菜が収穫できる。
ここでは、そんなに早い収穫はまだできないだろうが、とりあえず、10メートル四方の畑を作ることにする。
オーレリアは、空間収納から魔法の杖を取り出した。
畑にする場所へ杖を向けると、土がふわりと持ち上がり、やわらかく耕されていく。
やがて、もこりとした8本の畝が並んだ。
「こんなもんかな。あとで、柵もつくろう」
『おお~!リアは魔力の操作が上手いな!』
オーレリアの近くで、元のサイズに戻り、横座りして作業を眺めていたえっちゃんが声を上げる。ノルとネロはえっちゃんの体を滑り台にして、キャッキャと遊んでいた。いいなそれ!楽しそう!
続けて、オーレリアは種をまいていく。レタス、キャベツ、トマト、玉ねぎ、ジャガイモ、ピーマンも作ろうかな。あとは、ハーブも欲しい。森にないかな?
精霊の加護がある畑では、季節問わず野菜が育つ。ここの畑にも、小さいけれど精霊はいるから大丈夫だと思う。たぶん。
「よし!あとは水を撒いて、っと」
家のそばを流れる川の水が、オーレリアの魔力に応じてふわりと宙へ持ち上がる。球体となった水は、畑の上までふよふよと移動し、雨となって降り注いだ。
陽光を浴びて小さな虹がかかる。
『にじたー!』
『うわーきれーい!』
「ふぅ。よし、毎日水を撒くのを忘れないようにしなきゃね」
あとは引き続き、山や森で食料を探すとしよう。
***
「う~ん……」
『どうしたの?りあ?』
『りあおなかいたい?』
午後、みんなでおやつを食べながらまったりしていたとき、ふと気になった。
「ちがうよ。そうじゃなくて、ミルクのことなんだけど……」
『みるく?』
『みるくだいすき!』
ノルは小さい頃からミルクが大好きだ。今も小さいけど。
『フルーツミルクも美味かったな!』
えっちゃんも気に入ったらしい。
「なんか、ミルクの減りが異常に速いんだよね……このままだと、あと1か月も持たないかも」
『えぇー!!たいへんだー!!』
『もうのめないの〜?』
『そんなっ!俺はまだちょっとしか飲んでないのにっ!』
そうだよね。オーレリアだって、紅茶やコーヒーにはミルクを入れる。朝ごはんのときのミルク入りコーヒーは最高なのだ。
だからけっこうたくさん持ってきたつもりだったのだが……
「……ねぇ、ノルがミルク好きなのは知ってるけど、いつもこんなに飲んでたっけ?」
『おれは、あるしあにも、まいにちもらってた』
アルシアは、ハイエルフの里で食堂を営む、面倒見のいいお姉さんだ。店はオーレリアの家の隣にある。
『ノルは、さとのひとみんなに、みるくもらってたよ』
「あぁ……だからかぁ。こんなに早くなくなると思わなかったよ」
そんなに、いろんな人のところでミルクもらってたのか……知らなかったなぁ。
『もうないの?おれ、もうみるくのめないの?』
すごく泣きそうな顔でノルが聞いてくる。こんなときに申し訳ないけど、かわいい。
「ミルクがとれる動物か魔物が近くにいてくれるといいんだけど……それか、近くの町に買いに行くか」
『えっちゃん!このもりに、みるくくれるこ、いる?』
「あぁ、そうだ!たしかこっちの大陸にも、グラスブルっているよね?その魔物なら、ミルクをもらえると思うんだけど!」
『グラスブルか?それなら、森じゃなくて、向こうの山の方にいるぞ。聖域の外の山に、草原地帯になっているところがあるんだ』
『やったー!りあ!はやくいこう!』
「ノル、落ち着いて。グラスブルは大人しいけど、一応魔物だからね。ミルクをもらうなら、何かお土産を持って行かないと」
『おみやげってなに?』
『なにかあげるの?』
「里にいたときは、岩塩を持っていくと喜ばれていたけど。この辺で岩塩がとれるところはあるかな?」
『岩塩か。どうだろう?』
「じゃあ、まずは岩塩を探そう!お土産用だけじゃなくて、料理にも使えるし。買わなくてすむ」
『よーし!がんえんをさがすぞー(がんえんってなんだろう)!』
『『おー!』』
気合の入ったノルとネロとえっちゃんであった。




