第56話 謎の碑文
すっかり秋も深まり、風には冬の気配が混じり始めていた。
オーレリアは、えっちゃんとノルとネロをフェンリルの里へ送るために、転移魔法陣までお見送りに来ていた。
「さぁ!ノル、ネロ、ちゃんと防寒着を着てね。フェンリルの里はここよりもずっと寒いでしょ?」
『うん。やまのうえは、すっごくさむいんだよ』
『もうゆきが、たくさんつもってるよ』
ノルに水色のうさぎの着ぐるみを、ネロに黄色のねずみの着ぐるみを着せて、リュックを背負うのを手伝った。
リュックには屋台の食べ物の他にも、オーレリア(と、レミー)が作ったお弁当やおやつ、それに水筒も入っている。もちろん、えっちゃんのマジックバッグにも入っている。
ノルとネロはお弁当が楽しみで通っているようなもので、人語のお勉強は相変わらずだったが、楽しそうなので良しとする。
えっちゃんはそれなりに頑張っているので、一年後ぐらいにはちゃんと喋れるようになっているはずだ。えらいね!
『リアは今日は何をするんだ?』
「わたしは、冬の間とれなくなる薬草を摘みに森に行ってくる。ポーションの予備とかシャンプーリンスも作っておきたいし」
『りあ、ひとりでだいじょうぶ?』
「大丈夫に決まってるでしょ!」
『でも、むしがでたらどうするの?』
「寒くなってきたから、虫系の魔物は出ないんじゃないかな?もし出てきても消し炭にするまでよ!」
『おい!また森を燃やす気か!?』
「そんなことはしないってば!心配しないで行っておいで!」
やたらと心配する三匹を魔法陣に乗せ、いってらっしゃいと言って送り出す。
「もう!ノルやネロにまで心配されるなんて心外だ!」
オーレリアは、自分はしっかり者だと思っているのでちょっと不満だった。
気を取り直して、オーレリアは魔の森へ薬草採取に向かった。
オーレリア自身は回復魔法を使えるが、いざというときのための備えは必要だ。ノルとネロとえっちゃんにもそれぞれポーションを持たせている。冬になってもあの子たちは狩りに出かけるだろうから、予備は出来るだけ作っておきたい。
それに冬だって毎日お風呂に入りたいから、シャンプーとリンスがなくなると大変困る。フェンリルのご婦人達を洗ったりしたので、だいぶ減ってしまったし。あとは思い付きで、入浴剤とか作ってみようかなとも思っていた。
「どの辺にいこうかなー。どっか群生してるとこないかなー」
オーレリアは魔法の杖に横座をして、のんびりと魔の森の上空を飛んでいた。結構広いこの森を、まだ自分の庭と呼べるほど探索できていない。いつも行く場所は限られているので、今日はいつも行かない方へ行ってみようと思っていた。
ちなみにオーレリアの飛行魔法は、杖にかかっているわけではない。そのため杖に座る必要はないのだが、小さかったころ、風に煽られてスカートがめくれるという事件があってから、特に急いでいないときは座るようになった。ちょっとしたトラウマである。
そんなこんなで優雅に飛んでいると、遺跡のようなものが見えた気がした。こんなところに?と思いその場所に降りてみようと高度を下げた。
「気のせいかな?ただの大きい石ってだけかもしれないけど」
その場所に降り立ってみると、確かに所々に大きな石が点在し、蔦や草に覆われていた。遺跡だとしても相当古いものだと思われる。
興味を惹かれその場所をじっくり見て回りたいのだが、そこはやっぱり魔物の巣になっていて、オーレリアの前にわらわらと姿をあらわした。
「よかった~虫じゃなくて!」
そこに巣くっていたのは、ブラッドバブーンというゴリラ系の魔物だった。群れで行動し、怪力で凶暴な魔物だ。多いと30頭ぐらいの群れになると言われているが、ここの群れは15~20頭程度なので、中規模くらいだろうか。
ブラッドバブーンの群れが、襲い掛かって来た。オーレリアは第一陣に対し、風魔法を展開した。オーレリアを中心に風が渦を巻くように広がっていく。それは高速で回転し、周囲を切り刻み薙ぎ払った。頭に血が上ったブラッドバブーンはオーレリアめがけて大きな石や木を投げてくる。再び飛行魔法で上空へ上がり群れの様子を確認する。
「あ、いた。あいつがボスだな」
ひときわ大きいブラッドバブーンを見つけた。こん棒のようなものまで持っているので、間違いなくこの群れのボスだろう。
オーレリアは杖を構え上空から魔法を放つ。高圧力の水の矢でボスを貫き、大きな水流で群れをひとまとめにすると、最後に雷の魔法でとどめをさした。
「よし、みんな倒したね。解体、解体!」
さっさと解体してこの辺りの調査をしようと、テキパキと作業を進めていった。
改めて遺跡のような石を確認していく。確かに大昔、ここに建物があったようだけど、大したものは残っておらず、それ以上のことは分からない。
「なんだー。つまんないの」
そう思って奥へ向かって進んでいくと、オーレリアの背丈ほどの石碑のようなものがあった。蔦が絡みついて見逃すところだった。
丁寧に蔦をはがしてみると、その石碑には古代の文字が刻まれていた。所々霞んでしまっているが、何とか読めそうだ。
「わくわく!えーっと、
”ここは、かつて栄華の極みに至り、万界を統べしカツテノン文明、最後の遺跡なり。
されど今や人心は離散し、その威光は地に落ちぬ。
積み重ねられし業は淀みて渦を成し、ついに深淵の迷宮と化す。
その最奥には、往時の栄華に相応しき至宝、いまなお眠れり”
「へー昔ここにそんな文明があったんだ。知らなかったぁ。里の図書館で調べてみようかな」
”P.S.
「ん?P.S.?」
”カツテノン文明については、私が今考えたので調べても無駄だよ!
でも、この先のダンジョン最深部に至宝が眠るのは本当だよ!
信じるか信じないかは、あなた次第です!
あらあらかしこ
イゾルデ”
「……イゾルデ……師匠じゃん!もう!何やってんの!?」
ああ、わくわくした時間を返してほしい。真剣に読んじゃったじゃないか。なにがあらあらかしこだよ。
でも、この先にダンジョンがあるのか。それはちょっと行ってみたいな。オーレリアは、そのふざけた石碑の先にあるダンジョンの入り口を探しに向かった。
程なくして、石造りの門のようなものを見つけた。門だけがポツンとそこにある。
その石門もすっかり蔦に覆われていたが、ところどころ欠けてはいるものの、しっかりと形を留めていた。
オーレリアはその蔦を引きはがすと、両開きの石門にふれてみた。すると門は音もなく内側に開いた。
その先には一見すると何もなく、ただ向こう側の景色が見えるだけのようだが、空間が歪んでいるのがわかった。手を差し入れてみると、やはりその先はダンジョンにつながっているようで、見えるはずの手はどこにも見えない。
「……行ってみようかな。いや、一人で行ったらうちの子たちが怒るよね……」
オーレリアは一旦、ふざけた石碑まで引き返し、お昼ごはんを食べることにした。石碑の側にブランケットを敷き、持ってきたお弁当を食べる。今日のお弁当は、オーレリアが握った梅干しおにぎりと、肉そぼろおにぎり。レミーに作ってもらったから揚げと、出汁巻き卵だ。ブロッコリーとミニトマトで彩りにまで気を使ってくれている。ありがたや~。
ノルとネロとえっちゃんも食べてるかな〜と思いつつ、おにぎりを頬張る。みんなは梅干しは嫌だというので、鮭マヨにした。梅干しおにぎり美味しいのにな。
ダンジョンは、やっぱり一人で入ったらズルいって言われそうだし、みんなで来よう。どれだけ深いかも分からないしね。数日かかることも想定して、準備してから改めて来よう。
このふざけた碑文にはそういう必要な情報は皆無だし……。師匠はなんでこんな碑文を彫ったんだろう……。
お弁当を食べ終わったオーレリアは、今日のところは本来の目的の通り、薬草採取に専念することにした。この場所には薬草はなかったので、移動のため再び杖に座りその場を後にした。
ダンジョンか。至宝ってなんだろうな。ちょっと楽しみだったりするオーレリアだった。




