第51話 フェンリルの里④
その日はもう夜も更けていたので、話は明日にしようということになった。オーレリアたちはえっちゃんの家族が寝床にしている穴倉に案内された。
『リア!こっちこっち!』
『一緒に寝よう!』
シャノンとヴァイゼルが嬉しそうにリアたちを案内してくれる。
『そうだねl今日はパパもリアと一緒に寝ようかな!』
『じゃあママも!』
『私もー!』
全員が寝床で丸くなり、さぁここへおいでと場所を空けてくれる。五匹のフェンリルのど真ん中だ。それはもうモフモフである。
「わーい!」
『『わーい!』』
オーレリアもノルとネロもご機嫌で、真っ白なモフモフの中に潜り込む。
『あー!俺がリアの隣なのにー!』
少し出遅れたえっちゃんが文句を言うが、
『エルディオールはいつも一緒に寝てるんだからいいじゃん!』
『『そうだそうだ!』』
ライリエルとシャノンとヴァイゼルが言い返し、さらに
『エルディオールはパパとママの間にいらっしゃい!』
『えぇ?いや、いいよ……』
えっちゃんは、なるべくオーレリアに近い場所を探りながら寝る場所を整えた。
ネロはライリエルのお腹に登っている。ノルはえっちゃんの上が落ち着くようだ。パステルブルーとパステルイエローの着ぐるみ姿の子猫がフェンリルのお腹で寝ている姿はとても可愛かった。ライリエルもクスクス笑って眺めてる。
オーレリアは、いつものようにテントで寝るのだと思っていたのだが、たくさんのフェンリルに囲まれて眠れるなんて幸せだ。えっちゃんのようにシャンプーリンスでフワフワではないが、ポカポカと温かくてお日様の匂いがした。
オーレリアは、シャノンとヴァイゼルにぎゅうぎゅうに挟まれて眠りについた。
翌朝、まだ薄暗いというのにパパに起こされた。
『リア!おはよう!朝だよ』
「すーすー」
ちょんちょん……
冷たい鼻先がオーレリアの頬をつつく。
「う~ん……すーすー」
冷たい感触を嫌がり、目の前のモフモフにしがみつく。あ~温かくて幸せ。
『ウフフ、リアが抱きついてきたわ!小さな妹が増えたみたいで可愛い!』
『リアはお寝坊さんだね。パパが朝ごはんを狩って来たのに!』
もう一度鼻先でチョンチョンされ、ハッと目を覚ました。
「ん?……なんだ、まだ夜か」
『リア!もう朝よ!起きて」
「朝?……でも、まだ薄暗い」
『それは穴倉の中だからよ。さあ、行きましょう!』
オーレリアはライリエルにひょいっと背中に乗せられ、穴倉から外に出た。寒さに慌てて外套を羽織る。
眠たい目をこすり辺りを見渡すと、狩りから戻ったのか、獲物をくわえたフェンリルたちがいた。
「うぅ〜顔が寒い。えっちゃんは?ノルとネロも」
『ノルとネロは、シャノンとヴァイゼルと一緒にまだ寝てるわよ。今父さんが起こしているわ。エルディオールは、今こっちに向かっているわ!ほらあそこよ!』
「わたしもまだ寝ていたかったなぁ……」
遠くからえっちゃんが駆け寄ってきた。
『リア、もう起きたのか?まだ寝てると思ってた!』
「ライに起こされた。なんでこんなに早起きなの?」
『普通だぞ?薄暗い時間に狩りに出かけて朝ごはんを獲ってくるんだ」
「朝ごはん……。昨日あんなに食べたのに」
『やぁね、リア!昨日のは夜ごはんよ?』
えっちゃんとライと話していたら、ノルとネロを背中に乗せて、シャノンとヴァイゼルが起きてきた。ノルとネロはまだ眠そうだったが、朝ごはんと聞いてノルはしゃっきりと目を覚ました。
これからみんなで狩ってきた魔物肉を分け合って、朝ごはんだそうだが、オーレリアは遠慮した。昨日の夜たんまりお肉を食べたので、朝ごはんはいつものパンがいい。外は風が冷たいので、穴倉に戻って朝食を食べることにしたら、ネロも付いてきた。
「ネロもパンがいいの?」
『うん。ちーずのせたやつがいい!』
「いいね、そうしよう!」
パンとチーズ、それから結構前に収穫していたルベリアの実という果物を空間収納から取り出し、朝食の準備をしていたら、ノルとえっちゃんもやってきた。
「あれ、どうしたの?」
『おれ、りあといっしょにたべたい』
『俺も!』
「お肉はよかったの?」
『あとで、えっちゃんと、かりにいくことにしたんだ!』
『魔の森とは違う魔物ばかりだから面白いよ!リアも行こうよ!』
「うん!でも、ちゃんと人語のお勉強もしようね?」
『……ウン』
えっちゃんの返事は小っちゃくてよく聞こえなかったけど、ネロが催促してくるので、とりあえずみんなで朝ごはんを食べた。
朝食後、改めて長のところへ行った。
「おはよう!おじいちゃん、おばあちゃん!」
『おお、おはよう、オーレリア』
『おはよう、朝ごはんは食べたかい?』
「うん、食べたよ!それで、昨日のお話の続きなんだけどね」
『あぁ、エルディオールに人語を教えてほしいって話じゃったな。最近では人との交流がなく、人語を話す機会がなかったからなぁ。若いもんはみんな喋れんかったな』
『必要なかったからな。でも人語を話せたら、リアと町に行ったときに屋台で買い物ができるんだ!』
「え?えっちゃん。別に買い物のために覚えてもらいたいわけじゃなくて――」
『屋台で買い物?エルディオール!その屋台ってところでは何が売っているの?』
なぜかついてきたライリエルが興味津々で聞いてくる。えっちゃん家族はみんなついてきた。おじいちゃんを中心に思い思いの場所でくつろいでいる。
『屋台はたくさんあって、肉を焼いたやつとか、甘いものとか、そのときによっていろんなものが売ってるんだよ!』
『いろんなあじがして、おいしーんだよ!』
『おかねと、こうかんするんだよ!』
『そうだぞ!俺たち、魔物の素材を売ってお金を貰ったんだ!』
えっちゃんとノルとネロが、町での買い物を自慢している。この子たちが町で自由に買い物なんかして大丈夫かな?でも、お金もそれぞれ持ってるし、悪いことをするわけじゃないもんね?
『へー!面白そう!私も屋台の食べ物食べてみたいなぁ』
「え?ライも人族の町に興味あるの?」
『う~ん、町っていうか食べ物には興味あるよ!昨日のオーレリアの料理美味しかったし!』
『私も興味あるー!』
『俺もー!』
「なんだ、ただの食いしん坊か。でもみんなで町に押しかけたら事件になるよね?またわたし怒られるんじゃない?」
想像すると心配しかない。また騎士団本部に呼び出しされそうで嫌だ。
『これこれ、それじゃあ、オーレリアが困ってしまうわよ?』
『そうだなぁ。人族についてはちゃんと知っておかねばならんぞ!エルディオールはオーレリアと従魔契約をしたのだから、しっかり勉強していきなさい!』
こうして、おじいちゃんとおばあちゃんによる人語レッスンが始まった。参加者は、えっちゃん家族とノルとネロ。えっちゃんのパパとママは昔少しだけ話せていたそうだが、最近使ってなかったので忘れてしまったらしい。
ノルとネロが人語を話せるようになるかはわからないが、せっかくやる気になっているのだから応援しようと思う。
「ところで、人語ってどれくらいでマスターできるの?」
『そうじゃなぁ、早ければだいたい一年ぐらいで、なんとなくは話せるかのぉ』
「そっかぁ、じゃあその間はえっちゃんここで暮らす?ノルとネロはどうしようか?」
『えぇ!?そんなに長い間離れるのは嫌だ!毎日通うよ!』
『おれ、りあといっしょにいる!』
『ぼくも!りあといっしょにいる!』
「じゃあその辺のことちょっと考えとくね。みんなはしっかりお勉強してね!」
オーレリアはここで暮らすわけにはいかないので、そうなるとえっちゃんは一年間毎日通わなくてはならない。本気で走れば大した距離ではないらしいけれど、ノルとネロもいっしょならちょっと心配だ。
オーレリアはうーんと、考え始めた。




