第50話 フェンリルの里③
熱した岩の上で肉がジュワっと音を立て、香ばしい匂いが辺りに広がった。
オーレリアは今、火魔法で平べったい大きな岩を熱して肉を焼いている。ちまちまと小さな肉を焼いていては間に合わないので、火力を上げて次から次へと大きな塊肉を焼いていた。
お肉をひっくり返すのは、えっちゃんのママとライリエルがやってくれている。爪に肉を引っかけて、ひょいっと軽々ひっくり返していく。
そして焼けたお肉には、オーレリア特製のハーブソルトや、町で買ってきたピリッと辛い調味料を混ぜ合わせたもの、野菜や果物を煮詰めて作ったソースなどで味付けをしていった。
これがとんでもなく好評で、最初はえっちゃんの家族だけだったのに、里のフェンリル全員かと思うほどの数が集まってきた。すると当然、お肉が全然足りない。
ということで、やっぱりパパが張り切って、若くて元気なフェンリルを引き連れて狩りに出かけていった。もちろん、えっちゃんも連れていかれた。
そんな中、防寒対策でパステルブルーのうさぎの着ぐるみを着せられたノルと、パステルイエローのねずみの着ぐるみを着せられたネロがふてくされていた。
『ぜんぜんたべられなかった!みんなたべるのはやすぎる!』
『おくちがおおきいから、あっというまになくなっちゃった』
二匹とも怒っているけど可愛い。日が暮れて寒くなってきたので、防寒用の着ぐるみを着せられたことについては文句は無いようだ。
「大丈夫だよ。今パパとえっちゃんたちがたくさんお肉を狩ってきてくれてるから!それにわたし、ニックに焼いてもらったお肉たくさん持ってきてるよ。わたしが用意したえっちゃん家族へのお土産なんだけど、ちょっとだけ食べる?」
『たべる!』
『たべる!』
空間収納から焼き立てのお肉を取り出して、ノルとネロに食べさせた。着ぐるみで食べている姿がなんとも愛おしい。
『お!いい匂い!リア、私にもちょうだい!』
ライが匂いを嗅ぎつけて声をかけてきた。すかさずノルがモグモグしながら注意をする。
『モグモグ……おれのぶんは、たべちゃだめだぞ!』
『アハハ!わかってるよ!次にお肉を焼いたときは、ちゃんとノルとネロの分は別にしておくからさ!』
『ぜったいだぞ!……モグモグ』
ライとママはずっと手伝ってくれていたから、しっかりとニックの肉を食べてもらう。そもそもお土産で渡そうと思っていたものだからね。こっちのお肉はオーブンで焼いてあるから、さっきのとはまた違った食感だ。二匹とも、とても気に入ってくれたみたいでよかった。
くつろいだ雰囲気の中、オーレリアの魔法のお水をパックっと飲んで遊んでいると、狩りに出ていた集団が帰ってきた。なにやら大量の獲物を持っている。
『リア!ただい――』
『リア!ただいまー!パパがたくさんお肉を狩って来たぞ!』
えっちゃんを押しのけてパパがご機嫌で報告に来てくれた。
『今日はリアのために、氷角獣を狩って来たんだ!角が氷の槍みたいだろ!こいつの肉は引き締まっていて美味いんだ!』
氷角獣は巨大な山羊のような魔物だった。岩場を縦横無尽に移動するのだそうだ。それと、スノーホッパーというやたらとデカい白いウサギの魔物。これは動きがめちゃくちゃ速くて、群れで行動しているらしい。そのおかげで結構な数が狩れていた。
『リア!俺は氷翼鳥を狩ったぞ!こいつはなかなか狩れないんだ!ご馳走なんだぞ!』
『パパが手伝ってあげたんだよ!』
『違うぞ!俺一人で狩ったんだ!』
「うん、二人ともありがとう!氷角獣も氷翼鳥も初めて見たよ。食べるのが楽しみだね」
『『えへへ』』
『あら、なんだかパパとエルディオールって似てるわね』
『デレた顔がそっくりだわ』
ママとライがそんな二匹を生温い目でみていた。
その他にも、スノーロックリザードというトカゲの魔物も狩っていた。普段は岩に擬態している巨大なトカゲで、栄養豊富なのだそうだ。
とりあえず、狩ってきてくれた魔物を片っ端から解体していく。オーレリアの解体魔法であっという間だ。
『リア、そんなに一気に魔法を使って平気か?』
「もう平気!体は慣れたよ。それに、ここは結界の中と同じくらい魔素が濃いよね。居心地はいいよ」
『そうか!それならよかった!』
先ほどのように、岩を熱して肉を焼いていく。いつの間にか平べったい大きな岩が三個に増えていた。誰かが岩を切り出して持ってきたようだ。クリーン魔法で綺麗にしてから三つの岩を同時に熱していく。
『リアは魔法の扱いが上手いな!』
『お料理も上手だし!』
パパとママは誉め上手らしい。四匹も子供を育てたからね。わたしは子供じゃないけど。
平べったい岩にはそれぞれひっくり返すのが上手なフェンリルがついてくれたので、オーレリアは火加減だけ気にすればいい。落ち着いたところでみんなと一緒にお肉を食べ始める。
「おお!氷角獣のお肉美味しい!しっかりした赤身肉なんだね!」
『リア!美味しいか?たくさん食べるんだよ!』
『リア!こっちの氷翼鳥も食べてよ!』
「ありがとえっちゃん!――わぁ!これは脂が乗っていてジューシー!』
『そうだろう?美味しいだろう?ノルとネロにも食べさせなきゃ!』
パパとえっちゃんの気遣いが嬉しい。特にえっちゃんはもてなそうとしてくれていてほほえましい。
スノーホッパーのお肉は柔らかくてあっさり、スノーロックリザードは皮ごとパリパリに焼いたら、外はカリカリ中は思いのほかジューシーで美味しかった。
『はじめてたべたおにく!ぜんぶすごくおいしかった』
『トカゲのおにく、かわパリパリでおいしかった!』
ノルとネロもしっかりと食べられたようでとても満足していた。ライリエルが約束通り、ノルとネロのお肉をちゃんと確保してくれていたようだ。
そこへ、えっちゃんが年配だと思われるフェンリルを連れてきた。
『リア!長のじいちゃんを紹介するよ!』
『いや~!ついつい肉に夢中になってしまったわい。わしがこの里の長、ギデオンじゃ。お前さんの料理は実に美味じゃった!さすがは女神様の愛し子じゃ!』
「はじめまして!わたしはオーレリア。お肉を焼いただけなんだけど、気に入ってもらえてよかった。ところで、女神様の愛し子ってなに?」
『オーレリアはハイエルフじゃろう?昔はハイエルフのことを女神様の愛し子と言ったものじゃが、最近では言わんのか?』
「そういえば、ライラもそんな風に言ってたような……?でも、人族には伝説の種族だって言われたよ。実在するんだって驚かれた」
『はっは、人族の間ではほんの数百年で忘れ去られるからなぁ。まぁよい、エルディオールのこと、よろしく頼む』
「うん!えっちゃんはとってもいい子だから、わたしも心強いよ!」
えっちゃんがオーレリアの隣に座り胸を張っている。可愛くて思わず抱きついてしまう。
『そうかそうか。エルディオール、よかったなぁ。愛し子と従魔契約を結べるなんてなかなかないからなぁ。しっかりオーレリアをお守りするんじゃぞ!』
『もちろんだよ、じいちゃん!』
「ギデオン?ってえっちゃんのおじいちゃんなの?」
『まぁこの里のフェンリルは大体が血縁者だからのぉ。オーレリアも気にせず、わしのことはじいちゃんと呼んでおくれ』
パパとママに続いて、次はじいちゃん。フェンリルは気に入った者を家族として受け入れる、懐の深い種族らしい。
『あらあら、それじゃあ私はばあちゃんね。はじめまして、ギデオンの妻のイアンシーよ。可愛い愛し子さん』
「おばあちゃん?わたしはオーレリア、よろしくね」
おばあちゃんもできた。なんだか急に大家族になったみたいで楽しい。フェンリルの里は思っていたよりも温かい場所だった。
『それで、どうして急に帰ってくることにしたんだい?何か問題があったかね?』
おじいちゃんの言葉に、ここに来た目的を思い出した。
『そうだった。俺、じいちゃんとばあちゃんに人語を教えてもらいに来たんだ!』
そうでした。えっちゃんの人語の習得のために来たのに、なんで焼肉パーティーしてるんだろう。




