第48話 フェンリルの里①
真夏の暑さから解放されて、少しずつ涼しくなってきた秋の夜、オーレリアたちは湖の畔でキャンプをしていた。
「綺麗だね〜」
『ほしが、いっぱいだぁ!』
『キラキラしてるねぇ!』
『流れ星がたくさん見えるな!』
テントの外にブランケットを敷き、みんなで寝っ転がって夜空を見上げている。
焚き火はすでに消していて、光源はテントの中の魔法のランタンだけ。満天の星空にはたくさんの流れ星が流れていた。
「だいぶ涼しくなってきたよね。秋は森でキノコとか栗とか、食べ物いっぱい取るぞ!」
『『『おー!!!』』』
『なにがとれるかな〜?』
『果物も探しに行こう!』
『あと、どらごん!』
ノルはまだドラゴンテールの赤ワイン煮込みが忘れられないらしい。たしかにあれは美味しいからね。そのうち探しに行こう。
『ふわぁ〜』
「ネロ、眠くなった?そろそろテントに戻ろうか」
『うん。ねむい』
二匹を抱き上げてテントに向かう。えっちゃんが丸まったところにノルとネロと一緒に潜り込む。モフモフのえっちゃんのお腹は温かいし、なんだかいい匂い。毛布を掛けて、ぬくぬくと幸せな気持ちで眠りについた。
数日後、ふと思い出したオーレリアによる、えっちゃんのための人語口座がリビングで開催された。
「オーレリア。はい!」
「おーぅわわわん」
『『キャハハハハハハハ!』』
ノルとネロがえっちゃんのか細い声に、お腹を抱えて笑っている。
「もう!笑わないの!えっちゃんは今特訓中なんだからね!」
『そうだぞ!お前たちだって喋れないだろ!』
『おれたちは、ふぇんりるじゃないから、しゃべれなくてもいいんだぞ!』
『なんでだよ!ケット・シーだって喋れてもいいはずだぞ!』
『え?そうなの?ぼくたちも、しゃべれるようになるの?』
ネロが首をかしげて聞いてくる。ケット・シーが人語を喋るのかオーレリアは知らなかった。ハイエルフは精霊や妖精、神獣などとは念話で話ができるので気にしたことがなかった。
「う~ん、どうなんだろう?でも練習してみたら?みんなで喋れた方が面白いし、かっこいいよ!」
『かっこいい!?じゃあぼくも、れんしゅうする!』
『おれも!おれもかっこよくなるー!』
「じゃあいくよ。オーレリア。はい」
「おーぅわわわん」
「にゃ~にゃにゃにゃん」
「にゃ~にゃにゃにゃ!」
「……」
可愛い。とっても可愛くて悶絶しそうなところをグッと我慢する。
「ふ~。オーレリアはちょっと難しかったかな。まずはもっと簡単な単語にしよう。じゃあ、お肉。はい」
「がうぅ」
「にゃにゃにゃ!」
「にゃにゃにゃん!」
とりあえず無言で抱きしめる。愛おしい。別に喋れなくてもいいかなって思ってしまう。
『りあ~はなせよ~!』
『ぼく、しゃべれてた?』
『……(鼻息フーン)』
「ぜんぜん喋れてないよ。カワイイ。どうやって練習したらいいんだろうね?えっちゃん、練習方法知らない?」
『知らないなぁ。練習してる奴も見たことないし。じいちゃんとかばあちゃんなら知ってるかもしれないけど』
えっちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんか。
「なるほど!じゃあ、行こう!フェンリルの里に!」
『えー!?わざわざ行くの?秋は森で食料探しって言ってたじゃん!』
『ふぇんりるのさと、いってみたい!』
『えっちゃんの、かぞくがいるところ?いきたーい!』
「えっちゃん、実家に帰るの嫌なの?何か怒られることでもした?」
『してないよそんなこと!別に嫌じゃないけどさ』
「よし!それなら準備だ!手土産は何がいいかな~!」
ウキウキと準備を始めたオーレリア。えっちゃんは浮かない表情だが、別に実家が嫌なわけではない。なんとなく恥ずかしいだけだ。それに、オーレリアが他のフェンリルを気に入っちゃったらどうしようとも思っていた。
「ニックー!お肉焼いて!これ全部ね。えっちゃんもお土産になりそうな獲物とか準備してね。明日の朝出発するよー!」
そして翌日、畑の水やりをしている間に、ノルとネロにニワトリのピピちゃんとポポちゃんのお世話をしてもらってから出発した。
『山を二つ越えたところだよ。俺一人だったらあっという間の距離だけど、リアを乗せてるからゆっくり行くよ』
「えっちゃんだけだとどれくらいで着くの?」
『本気で走れば一時間もかからないよ!でも全速力で走ったら、リアが飛ばされても気付かないかも。それに、とっても綺麗な景色だからいろいろ見てもらいたいんだ!』
「えっちゃんは優しいねぇ~!」
『えっちゃん、すごいねぇ!』
『たのしみ~!』
『えへへ、じゃあ行くぞ!』
えっちゃんはいつもの速度でのんびりと走る。これでも十分早いんだけど、えっちゃんにしてみればなんてことのない速度らしい。風魔法でオーレリアが強風に煽られないようにしてくれてるし、なるべく揺れないようにかなり気を使ってくれていた。本当に優しい子だ。
えっちゃんは所々で立ち止まり、いろいろな景色を見せてくれた。
高い崖から落ちる大きな滝。水しぶきが光を受けてキラキラと輝いている。近くから見ると大迫力だった。
「わぁ!綺麗だねぇ!」
『すごーい!』
『すごいねぇ!』
滝を通り過ぎると、岩に囲まれた細い道が続いた。風が吹くと岩の隙間から音が鳴る不思議な道だ。風の強さで音が変わるらしい。ネロはびっくりしてオーレリアの外套のフードに隠れてしまった。
その後は広々とした草原を進み、小さな湖を通過し森を越えると、大地が避けたような巨大な谷が現れた。下は雲が広がっていて見ることができない。
『ここは風が強いからしっかり掴まっていろよ!』
えっちゃんはそんな強風もものともせず進んでいく。むしろその風を利用してさらに加速しているようだ。さすがフェンリル。
巨大な渓谷をすぎると、雪原が広がっていた。
『ゆきだー!たくさんつもってる!』
『ゆきだー!さむーい!』
「真っ白で綺麗なところだね!」
『もうすぐ着くよ!ここは里の麓なんだ。もうちょっと上の方に里があるんだよ』
ギュギュっと音をさせて雪原をゆっくり進んでいると、前方から気配がした。
『来たな』
えっちゃんがそうつぶやくと、真っ白な雪に溶け込むフェンリルが三匹、雪煙を巻き上げて駆けてきた。えっちゃんの家族だろうか。勢いが凄いので、オーレリアはえっちゃんから降りて少し離れる。
『エルディオール!』
『エルディオールだ!おかえりー!』
『エルディオール、久しぶりー!』
えっちゃんより少し小さいフェンリルが一匹と、二回りほど小さなフェンリルが二匹。嬉しそうにグルグルと回ってはしゃいでいる。小さい子たちは大型犬ほどの大きさで、まだ子供のようだ。
『ただいま!お前たち元気だったか?少し大きくなったな!』
『元気だよー!』
『大きくなったでしょー!』
久しぶりの再会で嬉しいのか、ピョンピョンと飛び跳ねてすごく可愛い。
『エルディオール!この子と従魔契約をしたのね?』
えっちゃんより少しだけ小さいフェンリルがオーレリアをじっと見つめる。
『そうだよ!オーレリアっていうんだ!ハイエルフなんだよ。リア、こいつは俺の双子の姉でライリエルっていうんだ!』
『ライリエルよ!よろしくね!』
ライリエルが鼻先を差し出して挨拶をしてきた。オーレリアも手を差し出して挨拶を返す。
「わたしはオーレリア。この子たちはノルとネロだよ。よろしくね!」
『おれがノル!よろしくな!』
『ぼくがネロだよ!よろしくね!』
『まぁ、ケット・シーね?よろしく!』
ノルとネロもオーレリアの肩の上に乗り挨拶する。すると小さいフェンリル二匹がオーレリアたちの匂いをクンクン嗅ぎに来た。
『私はシャノンって言うの!』
『僕はヴァイゼルだよ!』
シャノンとヴァイゼルはオーレリアにスリスリして挨拶してくれた。力が強いので、オーレリアは耐えられず座り込む。とっても人懐っこい性格のようだ。
「うわぁ!シャノン、ヴァイゼル?よろしくね!」
そろそろ名前が不安になってきた。えーっと、えっちゃんのお姉ちゃんの名前は何だっけ?
『こら!シャノン、ヴァイゼル!リアには力を加減しないと、ひっくり返っちゃうぞ』
『あはは!オーレリアは小さいね。まだ子供なの?』
『オーレリア!僕たちと遊ぼうよ!』
えっちゃんが注意してくれたけど全然勢いが弱まらない。シャノンとヴァイゼルにもみくちゃにされて雪に埋まりかけたとき、ライリエルがオーレリアの外套を引っ張って救い出してくれた。
『オーレリアたちはお客様よ!ちゃんとお家まで案内しましょう。ようこそ、フェンリルの里へ』




