第5話 ようやくスローライフ
チュン……チュン
チチチ……
寝室の窓から朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。魔の森は今日も天気が良さそうだ。
チョン……チョン……
「すぴー、すぴー」
ペシ……ペシ……
「う〜ん、あと5分……」
ベシッ……ベシッ……
「いたっ!痛いよー。うー、もっと優しく起こしてよ〜」
『りあー!あさだぞー!つぎはつめをだすぞー!はやく!ごはん!』
「わかったよ〜おきるよ〜」
食いしん坊のノルは、お腹が空いているので、朝は厳しい。
一方のネロはまだ、オーレリアのお腹の辺りで丸まって寝ている。
仲良しの双子の兄弟なのに性格は全然違うのだ。
クリーン魔法をかけて寝癖を直し、服を着替える。
オーレリアの服は至ってシンプル。ひざ下まである白いワンピースで、装飾はほぼなく、森の暮らしに馴染む簡素な仕立てだ。
足元にはふくらはぎの半ばほどまである茶色いブーツ。
それぞれに防御魔法などがかけられている、ハイエルフ特製の服である。
銀色の髪の毛は結いもせず、そのまま背に流している。ハイエルフの里にいたときは隣の食堂の、面倒見のいいお姉さんであるアルシアがアレンジしてくれていた。
オーレリアは不器用で無頓着なため、髪を上手に結べないのだ。一つに結ぶぐらいがせいぜいである。
荷物はすべて空間収納に入れているのでバッグなどは持っていない。
ノルにせかされ寝室をでる。階段を下りると下はリビングになっている。
この家は今、1階にリビングとキッチン。お風呂とトイレ、あとは、時間停止の魔法がかかった食糧保管庫がある。リビングは吹き抜けで、階段を上がって2階にはオーレリアの寝室と、師匠が泊まっていた部屋がある。ちなみに、ゼフィはリビングのソファーで寝てたらしい。
お風呂やトイレ、キッチンなどの水には魔石を使用する。コンロの火も魔石だ。魔石の魔力が切れたら自分で補充をすればいい。
さらに、リビングの中央にある暖炉のようなものには、薪ではなく大きな魔石が設置されている。それで部屋の中は一年中、快適な温度と湿度に保たれる。
部屋の数や広さなどは魔法で後から変えられるが、魔力の消費量が大きいので、ちょっと魔法を使うと疲れてしまう今のオーレリアにはできない作業となる。でも特に不満はないので当分はこのままだ。
あくびをしながらキッチンに入ったオーレリアは、コンロの火でお湯を沸かす。その間にベーコンを焼き、目玉焼きを作る。
お湯が沸いたらコーヒーを淹れ、ノルとネロにはミルクを用意する。
ハイエルフの里のパン屋で大量にもらってきたパンを空間収納から出し、軽く火であぶれば朝ごはんの完成だ。
四人掛けのテーブルに朝食のお皿を置きながら、二匹に声をかける。
今か今かと出来上がりを待って、オーレリアの肩にしがみついていたノルとネロが席に着く。
「さぁ、できたよ!」
『やったー!いただきまーす!』
『いただきまーす!』
ノルとネロが勢いよくベーコンにかぶりつく。子猫といえども妖精ケット・シーなので、食べられないものは特にない。好き嫌いはあるけれど……
ネロはノルの様に食べ物にがめつくはないが、けっして小食でもない。好きなものはノルに負けじとよく食べる。
パンにいちごのジャムを塗ってあげると嬉しそうにモグモグと食べている。
(可愛いなぁ)
オーレリアは、ノルとネロが美味しそうにごはんを食べている姿が大好きで、いつもニマニマしながらお世話を焼いている。そのせいで食べ終わるのが一番遅かった。
さて、お腹もいっぱいになったし、後片付けもクリーン魔法でさっさと終わらせて、森へ出かけるとしよう。
ようやく本格的に一人と二匹の『魔の森』生活が始まったのだ。この10日間はほとんど家から出なかったし、まずは、家の周りを探索したい。
「じゃあ早速お散歩にいこうか!」
『いこー!』
『いこー!』
オーレリアはお気に入りの濃紺の外套を羽織り外へと踏み出した。
拠点となるこの樹の家は、山の中腹にあり、家の前には、結構な広さの平坦な土地が広がっている。
「ここには畑を作ろう。もっと精霊がいればしっかり育つんだけど、でもそのうち増えるだろうから、大丈夫かな」
家の右側には小さな小川が流れていて、澄んだ水音が小さく聞こえてくる。ノルとネロが水面を覗き込んでいる。何かいるのかな?
家のある場所から、山を10分ほど下っていくと、目の前に美しい湖が現れた。
「わぁ、きれい……」
その湖は、まるで空色の絵の具を溶かしたような青色で、太陽の光を受けて、キラキラと輝いていた。
『きれいだねー!』
『おさかないるかな?』
ノルは相変わらずだ。それにしても本当に綺麗な湖だなぁ。女神様がおすすめしていただけのことはある。
「お弁当持ってくればよかったね。釣竿と、桟橋もあるといいなぁ」
『おべんとう?食べたい!』
『おべんとう!』
「さっき朝ごはん食べたばかりでしょ?それに、今日は持ってきてないから、また今度ね」
『じゃあおれが、さかなをつかまえてくるっ!』
『え~、ぼくはぬれたらやだなぁ』
二匹は、トテトテと歩いて湖を覗き込む。
『おさかないた?』
『うーん、いると思うンだけど』
ネロが首を傾げながらノルに聞いている。
そのとき、岸から少し離れたところで魚が跳ねた。
ノルが反射的にそちらの方向に向かって飛ぶ。ネロが跳ねた魚とノルに驚いて飛び上がる。
ザブン!!!ザブン!!!
ノルは魚につられて飛びかかってしまったが、水に入る気はさらさらなかった。飛んだ瞬間我にかえって、アッと思ったときには水に落ちていた。
ネロに至っては、とにかくビックリして身体が勝手に反応しただけで、気がついたら水に落ちていた。
「ああ!!大変!!」
オーレリアは咄嗟に魔法を使って二匹を陸に引き上げた。
この程度の魔法なのに、少し身体が重く感じる。
風魔法で二匹を乾かそうと思ったけど、これ以上魔法を使うと帰り道がきつそうなので、空間収納からタオルを取り出し拭いてあげようとしら、
ブルブルブル!
「……」
『うわ〜ん!びしょびしょだよぉ!リアー!』
ネロが濡れたまましがみついてくる。
『くすん。おちちゃった』
ノルが濡れたまま頭を擦り付けてくる。
こうして、濡れた二匹を抱っこして、オーレリアもびしょびしょになって家までの山道を帰ることになった。
「身体が冷えちゃったから、お風呂に入ろうね」
『やだ』
『ぼく、だいじょうぶ』
「だめ、ぜったい」
『『えーーー』』
「お風呂から上がったら、フルーツミルクあげるよ!」
『それならしかたない!』
『やったー!ふるーつみるく、だいすき!』
家に着いてからお風呂に直行し温まる。オーレリアはお風呂が好きなので、師匠はなかなか広めのお風呂を作ってくれていた。ありがたい。
二匹はお風呂は好きじゃない。最初はいやいや入っていたが、泳ぐ練習を始めたらちょっと楽しくなったらしい。今度は湖に落ちても余裕で泳げるように修行をしているそうだ。
お風呂から出た後は、約束通り、みんなでフルーツミルクを飲んだ。ノルとネロは大満足だ。
「ちょっと外に出ただけなのに、なんだか疲れちゃった。はやくこの森の環境に体が慣れてくれば、もっと魔法も使えるのに。でも、体力もつけなきゃ!このままじゃ、いつまでたっても森の探索が進まないよー!」
『りあ、つかれちゃったの?いっしょにおひるねする?』
ネロはやさしいなぁ。一緒にお昼寝かぁ……するっ!
『りあ!おひるごはんのじかんだ!』
ノルは……そうだよね……知ってた。
けっきょくこの後、お昼ごはんを食べて、みんなで寝た。




