第47話 報酬
「えっちゃんはさ、フェンリルなんだから本当なら人の言葉を喋れるんだって聞いたよ?なんで喋れないの?」
『人語が喋れるフェンリルなんて、1000歳以上の大人ばっかだ!必要がないのにわざわざ覚えないだろう?』
「必要だよ。えっちゃんが私の代わりに説明してくれればいい場面、けっこうあるよ?」
『でもリアに会うまでは、人里に行こうなんて思いもしなかったからさぁ」
「ダメなえっちゃんだねぇ。やっぱりまだまだお子ちゃまだから――」
がぶぅ
えっちゃんが大きな口でオーレリアの頭をまるごとガブリと咥えた。
「あぁ!!」
『キャハハハハハハハ!』
『キャハハハハハハハ!』
ジタバタするオーレリアを見てノルとネロは大爆笑!いつものじゃれ合いなのだが、
「キャー!ちょっとやめて!それ遊んでんの?怖いんですけど!」
ガイウスが裏声になって慌てている。ガイウスは驚いたときによく裏声になる。ノルとネロはそれがまた面白くてケラケラ笑う。このおかげなのか、ガイウスにはだいぶ懐いたようだ。今では、頭に毛が無くてかわいそうだからと、毛づくろいならぬ頭皮マッサージをしてあげることもある。ノルとネロは人語を話せなくてよかったかもしれない。
「ちょっと遊んでるだけだよ!いつものこと」
「遊びで頭かじるなよ!心臓に悪い!それにな、ここはギルドマスターの部屋だぞ!俺今すっごく忙しいんですけど!」
「でも、ヘルガがここで遊んで待っててって言うから」
「クソッ!なんでここで待たせるんだ、ヘルガの奴!」
オーレリアがリステア村で眠りこけてから一週間ほどが経っていた。
あの後、騎士団と冒険者たちは、事件の後始末で大忙しだったらしい。
ベール商会は本店が王都にある大商会だったが、今回の事件への関与で取り潰しが決まった。支店の数が多かっただけに、各地で大変な騒ぎとなっているそうだ。国からも商会の実態調査と登録情報の再確認が通達されて、商業ギルドも大変な状況らしい。
カサラ男爵は、爵位をはく奪され投獄された。ルードたちも同じく投獄されたようだ。村長が不在になったリステア村は、だからといって特に困ることはなかった。むしろ心配していた娘や息子たちが子供を連れて帰ってきて、少しにぎやかになったほどだ。若い人たちが戻れば、村はまた豊かになっていくだろう。
帝国については、今回の誘拐犯グループは捕まえたが、奴隷制度がある限りまたこのような事件が起きるかもしれない。国境警備の強化と、出入国審査の厳重化、あとは、今回アジトが作られた魔の森周辺の見回り強化などがされることとなった。
こんな感じでやることがいろいろあり、ガイウスは今とても忙しい。机の上には書類が山のように積み上がっている。もともと書類仕事が苦手なガイウスは苦戦していた。その上、オーレリアたちが遊んでいるので、尚更気が散る。
ガイウスはとうとう頭を抱えてしまった。
「ガイウス、大丈夫?」
仕方がないので、オーレリアはお茶を入れることにした。こういうときはコーヒーがいいだろうと、空間収納から挽いたコーヒー豆を取り出してお湯を入れる。マグカップに注いでガイウスに渡した。
部屋に広がるコーヒーの香りに、なんだかそれだけで落ち着いてくる。ノルとネロとえっちゃんにはミルクを入れた。
「はぁ、なんだか落ち着くぜ!もう今日は仕事やめようかな」
うんうんとガイウスの話に頷くオーレリアだったが、部屋のドアが勢いよく開き、受付嬢のアニーと副ギルマスのヘルガが入ってきた。
「うわぁ!ビックリした!なんだよ、もっと静かに入って来いよ」
「何言ってんですか!今サボろうとしてませんでした?」
「オーレリア、待たせてすまないわね!」
「うん、いいよ。コーヒー飲む?」
アニーとヘルガにもコーヒーを入れて、ついでにバターケーキも出した。このバターケーキは、いつだか蜂蜜タルトを食べそこねたお店で買ってきたものだ。蜂蜜タルトは売り切れていて、いまだに食べられていない。
「あー美味しいねぇ!」
「落ち着きますね~」
「あぁ、甘いものが沁みるぜ!」
ノルとネロとえっちゃんにもバターケーキをあげてオーレリアも一口食べてみた。しっとりとした生地と濃厚なバターのコクで、満足感のある口当たりだった。三匹とも実にいい食いっぷりだ。
「うん!美味しいね!」
「オーレリア!報酬のお米よ!」
そういってヘルガがマジックバッグから米俵を二つ取り出した。
「わ!こんなにくれるの?やったー!」
「それだけ頑張ってもらったからね。ほんと、助かったわ!」
わーいわーいと喜ぶオーレリアたち。ガイウスはなぜこんなにオーレリアがご機嫌なのか理解できない。
「なんでそんなに喜んでるんだ?米なんてそんなに美味いか?」
「ガイウスはダメだね。何も知らないんだから」
「えー?でもよぉ、昔獣人の町で食ったけど、そんなに美味くなかったけどな?」
「じゃあ、外れに当たったんだね。可哀そうに」
「おい!憐みの眼差しやめろ!」
「あはは!私はエルフの国で食べさせてもらったことがあるんだけど、すごく美味しかったよ」
「へーそうなんですねぇ。オーレリアさんはお米の料理出来るんですか?」
「うん、出来るよ!ハイエルフの里でもお米作ってる人がいるんだよ。量が少なかったから持ってこれなかったんだけどね。エルフほどじゃないけど、お米料理もわりと一般的なんだよ」
「そうなのですか?いつか食べてみたいですねぇ!」
「今度作って持ってきてあげるよ!この国でもお米作ればいいのに。そしたらもっと食べられるのになぁ」
これだけあるし、庭で育ててみようかな?いや、場所が狭いか。どこかいい場所があれば試してみたいかも。
それから少しケーキを食べながら雑談をした。ヘルガによると、前に保護したライラたち、誘拐された子供は、無事べリスの町に帰って親と再会できたそうだ。護衛にはSランク冒険者黄昏の獅子たちがついていたので、道中も問題なく過ごせたそうだ。
「お、そうだオーレリア。魔の森の魔物で売れる奴があったらローデリックのところに持ってってくれ。最近売りに来てくれねぇってボヤいたぜ!」
「うん、わかった。みんな、食べられない魔物は全部売っちゃおうか。バッグに入ってるんでしょ?」
『はいってるよ!りあにみせたらいけやいやつ!』
『いっぱいたおしたもんね!』
『そうだな。どうせ食べないし全部売って屋台で買い物しよう!』
そういうわけで、ギルマスの部屋を出て、一階受付の奥の解体所にやってきた。なぜかガイウスやヘルガ、アニーまで付いてきた。
「みんな、忙しいんじゃなかったの?」
「ちょっと息抜きだよ!」
「魔の森の食べられない魔物ってどんなのか興味があるわ!」
「そう?わたしは見たくないけど。アニーも見ない方がいいかも」
「どうしてですか?」
「……」
声が聞こえたのか、解体所の奥からローデリックが出てきた。
「よお!皆さんお揃いで、どうしたんだ?」
「オーレリアが魔の森の魔物を売ってくれるっていうから、私も見に来たんだよ」
「おお!ありがてぇ!どんな魔物だ?」
「わたしじゃなくて、この子たちが狩った魔物だよ。いい?みんな。わたしが離れてから、この台の上に魔物を出してね?」
そう言ってオーレリアは、小走りで物陰に隠れた。それを見た三匹が台の上に次々と魔物を出していく。
グリムマンティス、グリムモス、グリムアントが次々と出てくる。さらに、ブラッドホーネットやディザスターセンチピードなど、魔の森の固有種以外の虫系の魔物もどんどん出てくる。
ガイウスとヘルガ、ローデリックは呆気に取られてその様子を眺めていたが、アニーは気が付いたらオーレリアの隣にいた。プルプル震えて涙目になっている。
「……だから言ったのに」
「そういうことは!もっと!!ちゃんと!!詳しく言ってください!!!」
オーレリアは真っ青な顔で震えるアニーにしこたま怒られた。
「おい、スゲーな。こりゃあ、腕がなるぜ!」
支払いはノルとネロとえっちゃんそれぞれにしてもらったので、みんなは初めてお金を手にして喜んだ。さっそく屋台で買い食いをするのだと言って、オーレリアを引っ張って行ってしまった。
「……屋台で買い食いするって額じゃねーだろ」
ガイウスの呟きがむなしく響いたのだった。




