第46話 囮作戦②
作戦は至ってシンプル。オーレリアが普通のエルフの子供を装い誘拐犯に攫われる。距離をとり、遠巻きに見張っている騎士団と冒険者チームには、それぞれノルとネロとえっちゃんが配置され、オーレリアの状況が逐一報告される。
「今箱に入れられたよ。どこかに運ばれるみたい。ノルとネロとえっちゃんならわたしの魔力を追ってこれるから、道案内は任せちゃって大丈夫」
えっちゃんはフリードリヒ率いる騎士団チームと、ノルはガイウス率いる別動隊チームと、ネロは町の中を見回るヘルガのチームと共に行動していた。
ちなみに騎士団は他にもベール商会の動きを監視するチームなど、複数に分かれている。
ノル、ネロ、えっちゃんの口からオーレリアの言葉が伝えられると、それぞれのチームが動き出す。が、いまだにオーレリアの声が自分から出ることが面白くて仕方がない三匹は、人間には分からないが、ケラケラと笑っていた。
ノルとネロはにゃーにゃー言っているようにしか聞こえないし、えっちゃんはガフッとか、バフッとか言って周りの人々に心配された。
しばらくたって、またオーレリアから連絡がきた。
「乗り心地が悪いなぁ。ガタガタしてるよ」
特に意味のない愚痴だった。ちょっと飽きてきたらしい。
「なんか緊張感がねえなぁ」
ガイウスがぼやくが、緊張感などあるわけがない。オーレリアたちは緊張していないのだから。ノルはガイウスの頭にしがみつき、スキンヘッドの毛づくろいを頑張っているし、ネロはヘルガの髪の毛にじゃれついているし、えっちゃんはエルディオール様とか言われてちょっと偉そうにしている。
その後も何度かオーレリアの愚痴がつぶやかれ、そのたびにノル、ネロ、えっちゃんがクスクス笑うのを繰り返したころ、ようやく目的地に到着した。
「目的地に着いたみたい。なんか、もしかしたらわたし以外にも攫われた子がいるかも。分かりにくいんだけど」
騎士団と冒険者チームに緊張が走る。
「あ、わたしの箱入れ替えるって!大丈夫、油断してるから入ってくるなら今だよ!」
そして、表の出入り口からフリードリヒが、裏口からガイウスが突入する。建物のまわりはヘルガたちが見張っていて一人も逃がさない体制を整えていた。
こうしてオーレリアの囮作戦は成功したのだった。
倉庫の他の箱には、オーレリアが言ったように獣人の子供が入れられていた。人数は3人。猫獣人の女の子と、狐獣人の男の子、虎獣人の男の子だった。三人とも眠らされて、というより、冬眠状態にされていて、心拍数や呼吸も通常よりかなり少ない。
この状態で魔道具の箱に入れられたら、入り口の検査には引っ掛からないだろう。
オーレリアが冬眠状態の魔法を解除すると、子供たちはゆっくりと目を覚ました。騎士団の医療班がかけつけ、健康状態を確認する。まだ少しボーっとしているようだが、問題はなさそうだった。子供たちはそのまま騎士団本部に保護されていく。
倉庫の周りを警戒していたヘルガが、ネロと一緒に入ってきた。ネロが勢いよくオーレリアに駆け寄ってくる。
「オーレリア、休みなく悪いけど、次はリステア村まで運ばれてくれる?」
「うん。お米のためだからね!」
「今日は辺境伯代理の計らいで、リステア村にカサラ男爵もいる。この機を逃すわけにはいかない!頼んだぞ、オーレリア殿!」
フリードリヒも気合が入っていた。最初はオーレリアを囮にすることに反対していたんだけど、ガイウスとヘルガの説得で、普通の子供じゃないことを思い出したらしい。
輸送用の馬車が用意され、空の荷箱を積み上げていく。最後にオーレリアが入る魔道具の箱を積んで、馬車を門へと移動させる。
御者も護衛も変装した騎士団と冒険者だった。門はそのまま通過するのでオーレリアは村の手前で箱に入ればいい。それまでは、街道の長閑な景色を楽しみながら馬車に揺られていた。
夕方、日が沈みかけた頃、ようやくリステア村に到着した。
馬車は事前に調べていたように、村の端を通り村長の家へと向かう。村長の家の前に到着したときは、ルードとその取り巻きのゴロツキ共が数名待ち構えていた。
「お疲れ様です!じゃあ、荷物の積み替えやっちゃいますね!おい、お前ら!」
「「おう!」」
村長のルードが慣れたように荷台から箱を下ろす。商会員のフリをした騎士が荷箱の鍵を開けると、二重構造の上の荷物をどかす。箱の中を覗き込んだルードは思わず声を漏らす。
「おお!エルフじゃないですか!こりゃ上物だ!」
「ルード、声を上げるでない!静かに済ませなさい!」
そう言って家の中から出てきたのは、細面で神経質そうな、薄い口ひげを蓄えた男だった。見た目はそれなりに整えているが、なんだか薄っぺらい人物である。この男がこの村を治めるカサラ男爵であった。
「カサラ男爵!でも、みてくださいよ、このエルフ!」
「うるさい!静かにしろと言っているのだ!村の者に気付かれたらどうする!」
「大丈夫ですよ、ここにはジジババしかいねぇんだから。耳が遠くて聞こえやしませんよ!」
「「「ハハハッ」」」
ルードとゴロツキ共は笑っているが、カサラ男爵は笑わない。気の小さい人物のようだ。
「いいから早く首輪を付けてしまいなさい!まったく、ゴロツキ共め」
ルードは仕方なくゴロツキ共に指示を出し、箱の中のオーレリアを担ぎ上げ乗り換え用の馬車の荷台に寝かせる。
そしてルードがオーレリアの首に隷属の首輪をカチリとはめた。
「そこまでだ!カサラ男爵、及び村長ルードとその取り巻き共!貴様らを、誘拐、人身売買、違法な隷属化、その他共謀の罪で拘束する。」
「な、なんだと!?お前たちは何を言っているのだね!ふざけるのも大概にしろ!」
「ふざけてなどいない。私は、グレンハルト騎士団副団長、フリードリヒ・ハーゲンだ!ベール商会はすでに制圧済みだ。帳簿も関係者も全て押さえている!逃げ場などないぞ!」
「な……に……?ば、馬鹿な……!」
「俺たちは関係ない!俺は言われた通りにやっただけだ!領主様に逆らえるわけないだろう?」
「詳しい話は後で聞こう。騎士団本部へ連行する!」
騎士団が動き出した時、ゴロツキ共が暴れだしたが、歴戦の騎士団と冒険者に敵うはずもなく、全員あっさりと拘束された。
「ふぅ、これで一件落着だぜ!おーい、オーレリア!もういいぜ?」
「……」
「おい?どうした?オーレリア!お前、首輪は平気だって……」
「すーぴー……すーぴー……」
「えぇ!?寝てんの?嘘だろ?……おい!起きろ!こんなところで寝るな!」
「……う~ん……なに?」
「何じゃねーよ!普通こんな状況で寝るか?やだもう!信じらんねぇ!」
「…うる…い…なぁ」
「ねぇ!わかった!寝てもいいから!その前に首輪だけとってお願い!心臓にわりぃよ!」
オーレリアは仕方なくいつの間にか付けられていた首輪を破壊した。寝ぼけていたので、ちょっと強めに呪い返しをしちゃったかもしれないけど、まぁいい。
カサラ男爵とルードたちは、村の外に待機させていた鉄格子のはめられた護送用の馬車に乗せられ、町まで運ばれていった。
残りの騎士たちは、ルードの家の調査をしたり、村人たちへの説明で忙しく駆け回っていた。
すっかり眠り込んでしまったオーレリアは、村の優しいおばあさんが空いてるベッドを貸してくれたので、そこで朝までぐっすり眠ったのだった。
ノルとネロとえっちゃんはというと、オーレリアが先に寝てしまったので、三匹でマジックバッグにしまっていた屋台の食べ物を持ち寄り、しっかりと夕食を済ませた。
村のおばあさんがくれたミルクも綺麗に飲み干し、オーレリアと一緒に眠りについたのだった。




