第45話 囮作戦①
オーレリアはその日、一人で町を歩いていた。
副ギルドマスターのヘルガが、掘り出し物の魔道具を売っている店と、魔法の本を多く扱っている本屋の場所を教えてくれたのだ。
ノルとネロとえっちゃんはすぐに飽きるから置いてきた。たまには一人でゆっくりと買い物をするのも悪くない。
「こっちかな?」
ヘルガが書いてくれた地図を頼りに通りを歩いて行く。脇道に入り、だんだんと人通りが少なくなってきた。
そのとき、オーレリアの目の前を白い小さな光が横切った。なんだろうと立ち止まり辺りを見渡すと、まるで精霊のような小さな光がふよふよと浮かんでいた。手を伸ばして触れてみようとすると、すーっと移動してしまう。気になったオーレリアはつい後を追いかけてしまった。
しばらく夢中で光の後を追っていた。全く人気のない全然知らない場所だということにも気づかずに。
そして、小さな光がゆっくりと止まり、オーレリアの指がふれたその瞬間、光が弾けオーレリアは膝から崩れ落ちた。
***
ガサッと音がして、物陰から男たちが数名現れ様子をうかがう。
「眠ったか?」
「ああ、大丈夫だ。見てみろよ!かなりの上物だぞ!」
「この町でエルフが手に入るなんてラッキーだったな!」
「こりゃあ高く売れそうだ!」
男たちはエルフの少女を担ぎ上げ、木箱の中に入れ蓋をした。そして、荷車に積み込み、他の荷物に紛れさせた。そのまま荷車を押して町はずれの倉庫へと運んで行く。
倉庫では、これから帝国へ向けて出荷される荷物の選別作業が行われていた。男たちはその中に先程の木箱を並べる。
「おっと、待て!その荷物は貴重品の木箱に入れ替えろ!」
「そうだったな!一番上等な貴重品の箱がいい!」
男たちは木箱を空けて、ぐっすりと眠っているエルフの少女を抱え上げ、貴重品用の木箱のふたを開けた。中は二重底になっていて、下に子供が入る空間が出来ていた。しかも、生体反応が読み取りにくくなる魔道具になっている。
男がエルフの少女を下の空間に寝かせて蓋を閉めようとしたとき、ふいに目が合った。
「は?」
魔法で深い眠りについているはずの少女が、なぜか青い瞳でこちらを見ている。
「な!なんで……!」
「あ?お前何言ってんだ?早く蓋を……!?」
男が言いかけたそのとき、倉庫の入り口から騎士団がなだれ込んできた。
「お前たち動くな!手を頭の後ろに組んでその場に座れ!」
「!!!」
突然のことに頭が真っ白になる男たち。いったい何が起きた?理解が追い付かない。別の出口から逃げようとしていた者たちも、そちら側からきた騎士団に次々と拘束されていく。
なぜだ?今日騎士団の調査が入るなんて情報は無かったはずだ。まさか、カールマンのやつが裏切ったのか?
いまさら考えてももう遅い。男も他の者たち同様、床に押し付けられ、両手を拘束された。顔をあげると、エルフの少女の透き通るような青い瞳と目が合った。
「あなたがあの光を操っていた魔法使いでしょ?精霊を見たことがないの?光の加減も動かし方も、ちっとも精霊っぽくなかったよ?ほら、本物はこんな感じ」
そう言ってエルフの少女が男の方に小さな光を飛ばした。光は優しく柔らかく、男に近づき目の前で弾けた。そして男は眠りに落ちた。
***
「オーレリア!お疲れさん!」
「ガイウス。どう?上手くいった?」
「おう!バッチリだ!外にいた連中も一網打尽だぜ!」
「それならよかった!あぁ!ノル、ネロ、えっちゃん!お利口にしてた?」
ノルとネロとえっちゃんがオーレリアに駆け寄る。
『りあ!おれ、ちゃんとやくにたった!』
『ぼくも、おりこうにしてたよ!』
『ちゃんと騎士団をここまで連れてきてやったぞ!』
「そっか~!偉いね~みんな!」
オーレリアはわしゃわしゃと三匹を撫でまくる。
「どうなる事かと思ったが、上手くいってよかったぜ。まさか、オーレリアが協力してくれるとは思わなかったからよ」
「ヘルガと約束したからね!フフフ」
***
Dランクの冒険者証を手に入れたあの日、騎士団との会議から戻ったヘルガに抱えられるようにしてギルマスの部屋に連れ込まれたオーレリア。
「アニー、お茶頼むな。あと、新しくできたあの角の店でドーナツたくさん買ってきてくれ!可愛らしい奴ね!」
ガイウスは接待の準備に余念がない。
オーレリアは応接セットのソファーに座らされた。ノルとネロとえっちゃんもキョトンとしている。
「何?急に。どうしたの?」
「オーレリアを見込んで頼みがある!」
オーレリアの正面のソファーにドカンと座ったガイウスとヘルガ。二人は膝に手をついて頭を下げてきた。
オーレリアが、えぇ?っと思っていると。
「今、誘拐事件の捜査が膠着状態なんだ!」
「しっかりと証拠を押さえるためにも、こちらから仕掛けたいのっ!」
ガイウスとヘルガが、先程の騎士団本部での会議の様子をオーレリアに話した。話を聞き終わったころ、アニーが紅茶と大量のドーナツを持って現れた。いろんな色でコーティングされた可愛らしいドーナツ。ノルとネロとえっちゃんがさっそく食べ始める。
オーレリアも可愛らしい水色のドーナツを食べてみた。思ったよりも甘さ控えめで美味しい。青い食用の花で色を出しているのだとか。
「それで、わたしに何をしろと?」
「囮よ!誘拐犯に攫われてほしいの!」
ヘルガが、ズバリという。まぁそうだろうと思ったけど。
「誘拐犯を捕まえるんじゃなくて、攫われるの?」
「そうよ!それで誘拐犯の特定と、ベール商会の調査まで一気にいけるわ!」
ヘルガが熱く語るが、オーレリアは懐疑的だ。
「いけるかなぁ?その何とかって村の方はどうするの?」
「そっちはその後、ベール商会の馬車のふりをして運ばれていけばいいわ!」
「えぇ!そこまでやるの?ドーナツだけじゃ割に合わないよ!」
「わかってるわ!報酬はお米でどう?」
「お米!?」
「フフフ。オーレリアは屋台と市場の大口客らしいじゃない?報酬はお金よりも食べ物のほうがいいはず!私のつてで、エルフの国からお米を取り寄せるわ!どう?」
「のった!わたしに任せて!!」
今まで見たことがないほどニコニコのオーレリアに不安を隠せないガイウス。
「え?なんで?そんなに米、欲しかったの?」
「当たり前じゃん!ずっと探してたけど、この町には売ってないし。それでどうする?すぐ行く?すぐ行こう!」
「いや、待て待て!一応準備がある!」
今にも駆け出しそうなオーレリアを、ガイウスが慌てて止める。
「オーレリア。それより、相手の魔法は問題ない?もしオーレリアに害があるなら、この作戦は決行できないわ」
今さらだけど、ヘルガはオーレリアを気遣う。一応心配してくれるんだ?
「全く問題ないよ!わたしの外套、状態異常無効だし、魔法も物理も耐性がある。ついでに体温調節機能もついてるんだよ。フードには認識阻害効果もあるし。すごいでしょ!」
「すごい外套ね!それと、アジトに連れて行かれたとき、私たちと連絡を取る手段はある?」
「う~ん。連絡を取る方法?精霊はいないし……。あ!こんなのはどうかな?」
そういうとオーレリアはのどに軽く指をあてて口を動かした。すると、ノルの口からオーレリアの声が聞こえた。
「ノルの喉を借りるのはどうかな?」
「ネロでもいいよ!」
次はネロの口からオーレリアの声がした。
『「「!!!」」』
『キャーハハハハハ!おもしろーい!』
『キャハハハハハハ!りあのこえがでた!』
ノルとネロは転げまわって笑っている。
「オーレリア!すごいわ!子猫ちゃんからオーレリアの声がでた!」
「ハイエルフの魔法ってすげぇんだな!ところで、ノルとネロはこれ、喜んでるのか?」
「うん。めちゃくちゃ笑ってる。えっちゃんでもやってくれだって」
えっちゃんも期待した目でこちらを見ている。それなら期待に応えなければ!再び先程の魔法を使い、えっちゃんの口からオーレリアの声を出す。
「わたしえっちゃん!おい、ガイウス!もっとドーナツ持ってこい!」
えっちゃんもノルとネロと一緒になって床をバシバシ叩いて笑っている。
『ギャハハハハハ!わたしえっちゃん!だって!アハハハハハハハ!』
「みんなが気に入ってくれてよかったよ!」
「あぁ、そうだな……」
「可愛いわねぇ!それじゃあ外との連絡手段は問題ないと。どちらにしろ、フェンリル様とは別行動をとってもらわないと、誘拐犯が狙ってくれないからね」
「そうだね。じゃあ今回はノルとネロも別行動かな?」
「配置は騎士団とも相談するわ。よし!やる気が出てきた!犯罪組織を捕まえるわよ!」
「『『『おー!!!』』』」




