第44話 調査②
ヘルガは村を見渡す。夏の盛りだというのに、畑は半ば放棄されていた。かつて整然と並んでいたはずの畝は崩れ、背丈ほどの雑草が風に揺れている。
村の中を歩いても、老人が数名集まって世間話をしているだけで、子供の姿はなかった。
ヘルガはその老人たちに近づき声をかけた。
「こんにちは!なんだか人が少ないわねぇ。暑くて家から出てこないのかしら?」
「あぁ、冒険者さんかい?この村は村長が変わってからすっかり寂れてしまったのさ。息子たちは町に出てそっちで暮らしてるよ。村がこんな状態だから帰ってこない方がいいって言ったのさ」
「こんな状態ってどういうこと?」
「村の奥の大きな家が村長の家なんだけどね、今はゴロツキ共のたまり場さ。夜は酒を飲んで大騒ぎしているよ。まったく、嫌になるね」
「本当に!前の村長はいい人だったけど、子供の育て方は失敗したね!あのドラ息子ときたら!」
「奥さんを早くに亡くしたから、しかたないさ!」
「それにしたってねぇ……」
村のお年寄りたちは、誰かに愚痴を聞いてもらいたかったのか、いろいろ教えてくれた。村長のルードという男は大分好き放題やっているようだ。
「少し様子を見に行ってみようかしらね」
ヘルガは村の奥に向かって歩き出した。小さな村なのでちょっと歩いたら、他よりも大きな家が見えてきた。家の周りにはガラの悪そうな男たちが数人たむろしている。
「ここが村長の家?」
「あ?なんだババァ?」
「ババァとはご挨拶ね、ゴロツキ共!私はグレンハルトの冒険者ギルド、副ギルドマスターのヘルガよ。村長はいる?」
ゴロツキ共がざわつく。冒険者ギルドの副ギルドマスターがいったい何の用でこんな田舎に来たのかと訝しんでいるようだ。
「村長はいるかと聞いたんだけど。聞こえなかった?」
ヘルガの圧に怯える男たち。年寄りしかいない村で調子にのっているだけで、所詮はゴロツキだ。
「ルードは居ねえ、昨日から出かけてる」
「どこへ行ったの?」
「知らねえよ!ここにはいねぇ!帰れ!」
「ふん、仕方ないわね。今日のところは出直すか」
ヘルガは仕方なく、きた道を引き返した。ずいぶんと警戒しているようだ。
ヘルガは村の入り口で、別行動をとっていた冒険者パーティーと合流した。彼らもこの村の様子に違和感を持ったようだった。
「どうしますか?」
「私は一度町に戻るわ。みんなは悪いけど、この村の見張りをお願い」
「わかりました!」
「この村は誰の所領だったかしら。しっかり調べないとねぇ」
***
騎士団本部の会議室。この誘拐組織の対策会議が開かれていた。
テーブルには辺境伯代理のルーカス・ヘルマン、騎士団長セドリック・ヴァイス、副団長フリードリヒ・ハーゲン、冒険者ギルドギルドマスターのガイウス、副ギルドマスターのヘルガが座っていた。
「では、報告を」
辺境伯代理のルーカスが促す。
「では、私から。騎士団では内通者を特定し、拘束しました。内通者は中隊長のカールマン。借金返済のため、ベール商会に機密情報を渡していたと証言しました」
騎士団長のセドリックが報告する。
「ベール商会の役割は何だ?子供を攫って帝国に売っているのか?」
「それは現在調査中です。しばらくベール商会に見張りを付けていますが、帝国人との接触は今のところ確認できていません」
「そうか、町の様子はどうだ?」
「はい!騎士団と冒険者ギルドで町の巡回を強化しています。そのため、今現在子供がいなくなったという情報はありません」
「ただ、怪しい人物も特定できていません。魔法の操作に長けている者や不審者には片っ端から声をかけていますが、証拠がなければ捕まえようがありませんので」
フリードリヒとガイウスが町での動きを報告する。
「町の外の拠点の捜査では、気になる村を見つけました。リステア村という、ここから馬車で半日ほどの場所にある小さな農村です」
ヘルガの報告だ。
「リステア村、たしかカサラ男爵領だったな。ふむ、カサラ男爵か」
辺境伯代理が考え込む。何か思い当たることがあるのだろう。
「はい、カサラ男爵領で現在の村長の名はルード。先代の村長が急死したため、跡を継いだばかりだそうですが、村にはルードの仲間がたむろしていて、非常に治安が悪い状態です。村には年寄りばかりで文句も言えず、手が付けられないのだとか」
「なんと!そんな状態になっているのか、カサラ男爵からはなんの報告もないが……」
「カサラ男爵も承知なのでは?村の人たちによれば、何度か訪れているようですので」
「知ったうえで放置しているのか。ふむ。では、カサラ男爵は私のほうで調べよう」
「ありがとうございます」
「あとは、どのようにして敵を叩くかだが、決定的な証拠が欲しいな。ベール商会の調査となると、間違えましたでは済まされないのでな」
「……」
決定的な証拠。今のところ新たに攫われた子供はいない。隠れ家的な場所の情報もない。森のアジトが見つかったことで、犯人側が自粛しているなら、暫くは膠着状態が続きそうだ。
***
「あーしまった!ピピちゃんとポポちゃんの餌がない!」
『えー!たいへんだ!どうしよう!』
『おなかすいちゃうよ?かわいそうだよ?』
『畑の野菜あげてるだろ?それじゃあだめなのか?』
「うん。野菜だけじゃいい卵は産めないんだって。だから養鶏場の餌を貰ってきたんだけど、もう無くなりそう」
『じゃあ、かいにいこう!ぴぴちゃんが、たまごうめなくなっちゃう!』
『それはたいへんだ!ぽぽちゃんも、うめなくなっちゃう!』
『じゃあついでに、俺たちのごはんも買おう!』
そういうわけで、グレンハルトの町へ向かったオーレリア一行。町の門をくぐると、早速広場へ向かい、買い食いを始める。
『暑いから喉が渇いたな!リア!あそこで売ってる飲み物買ってみようよ!』
『あれなんのじゅーすかな?』
『きれいないろだね!』
「へー!美味しそう!」
季節ごとに新しい店が出てきたりして、オーレリアと三匹は興味津々。今は夏なので、飲み物の屋台が多く出ているようだ。
ひとしきり屋台を楽しんでから、ニワトリの餌を買いに市場へ向かった。目的のものはすぐに見つかり大量に購入する。
さて、帰ろうかと思ったが、次に町へ来たらギルドに寄ってとアニーに言われていたことを思い出し、向かうことにした。
入り口を入るとまだお昼過ぎだからか、ギルドの中はがらんとしていた。すぐにアニーが声をかけてくれる。
「オーレリアさん、こんにちは!こちらへどうぞ!」
「こんにちは、アニー!」
受付のアニーのところへ向かうと、新しい冒険者証が手渡された。
「こちらが新しいDランクの冒険者証です!有効期限が半年に伸びますよ。」
「ありがとう。じゃあこれは返すね」
オーレリアはEランクの冒険者証と引き換えに、Dランクの冒険者証を手に入れた。見た目的にはあまり変わらない。それじゃあ、と帰ろうとしたところに、ギルマスのガイウスと、副ギルマスのヘルガが入り口のドアから入ってきた。
「よお!オーレリアじゃねぇか!」
「なんだ、ガイウスか」
「なんだとはなんだよ!俺一応ギルマスなんですけど!」
「あぁ、あなたが!話は聞いているわ。私は副ギルドマスターのヘルガよ。よろしくね!」
「わたしはオーレリア。よろしく!」
ヘルガは黒いウェーブがかった長い髪に、赤い瞳の強そうな女性だった。
「可愛いわねぇ!こんなに可愛いのに魔の森に住んでるんだってね?オーレリアなら誘拐犯に狙われても返り討ちにできちゃうわね?あはははは!」
「おい、ヘルガ……!!……いや、さすがに……でも実績はあるな……」
「いや、ちょっと……冗談だし……でも……」
「ん?」
何の話か分からずキョトンとするオーレリア。ギルマスの部屋に連れていかれるまであと10秒。




