第43話 調査①
オーレリアたちはようやく解放されて、家に帰ってくることができた。
なんて長い一日だったのだろう。えっちゃんに頑張ってもらって家についてからも、疲れて何もしたくなかった。
しかし、世の中は厳しい。リビングのソファーで横になっていたら、やっぱり三匹から声がかかった。
『りあー!なんでねてるのー?ごはんたべようよー!』
『りあ!ぼくも、もうおなかぺこぺこだよ?』
『リア!疲れたのか?そう言うときは肉を食べるといいんだぞ!』
ちょっと無視してみようかなと思い、しばらく目をつぶっていたら、オーレリアの周りを走り回って騒ぎ始める。ワーワーキャーキャー言いながら暴れたり、しまいにはノルとネロがオーレリアの上に飛び乗ってくる。
「ぐぇぇ!」
いくら子猫とはいえ、二匹揃って飛び乗ってくるのは勘弁してほしい。年頃の女子にあるまじき声が出た。
『りあー!おなかすいたよー!』
『りあー!おきてよー!』
『次は俺が飛ぶ番だぞ!』
「わかったよぉ。起きるよぉ」
とても寝ていられない。仕方なく起きて夜ごはんを食べることにした。
「よし、今日は疲れたから、とっておきのごはんにしよう!」
『とっておきのごはん!なになにー?』
『わーい!たのしみー!』
『俺が食べたことない肉かな?』
「ふふ~ん!アルシア特製ドラゴンテールの赤ワイン煮込みだよ!」
『『『うおぉぉーーーー!!!』』』
三匹が興奮して叫びながら走り回る。ドラゴンと聞くとテンションが上がってしまうのだ。
「フフフ。これはあんまり量がないから、いざというときのとっておきにしてたんだ!」
ダイニングテーブルでみんなのお皿に、ドラゴンテールの赤ワイン煮込みをよそっていく。それからバケットと作り置きのサラダをテーブルに置いていくと、なんとも豪華な食卓になった。
「よし、食べよう!いただきまーす!」
『『『いただきまーす!』』』
作り立てを収納してきたので、ほかほかと湯気が立っている。
さっそく、柔らかく煮込まれたドラゴンテールにスプーンを入れ、ビターチョコレートのような濃い色のソースを絡ませ口に入れると、濃厚な旨味が口いっぱいに押し寄せてくる。お肉を噛んでいくとそのたびにホロホロとほどけて、飲み込んだそばから体がじんわりと温かくなる。
ドラゴンの肉には魔力が多く含まれているため、こんな風に疲れたときにぴったりの料理だった。体の中に魔力が巡るのを感じる。
「う〜ん!沁みる~!」
『うわぁ!とけた!おにくがとけたよ!』
『すごいよ!とろとろだ!』
『美味ーい!これ美味いなー!それに、体がポカポカする!』
三匹とも大興奮で食べている。オーレリアもソースも残さずパンにしみ込ませて綺麗に食べ切った。
「あー!美味しかった!最高!」
『『『さいこー!!!』』』
『おいしかったー!おれ、もっとたべれるよ!』
『ぼくはもうたべれないけど、またたべたいなー』
『俺ももっとたくさん食べたいな!こんど、ドラゴン狩りに行こうか?』
『『いくー!!』』
大満足の夕食のおかげで少しやる気を取り戻したオーレリアは、みんなとお風呂に入ってから眠りについた。やっぱり自分のベッドは寝心地がいいなと思いながら、あっという間に眠りに落ちた。
翌朝、前日のドラゴンテールのおかげか、スッキリと目を覚ますことが出来た。朝食を食べ、畑のお手伝いゴーレム、ノーグと一緒に畑の水やりをして、ニワトリのピピちゃんとポポちゃんに餌をあげる。のんびりとしたいつもの朝。やっぱりこれでなくちゃ!
それから数日は湖で釣りをしたり、ローラたちのところでピクニックをしたり、森の焼け跡を果樹園にするべく種を植えたりして過ごしていた。
『ねーねー、りあ!どらごん、いつさがしにいくー?』
ノルはドラゴンテールの味が忘れられないみたいだ。相変わらず食いしん坊だなぁ。
「そうだねー。どこにいるか分かったらねー」
オーレリアの疲れもすっかりとれて、のんびりとした生活に戻った。心なしか、精霊の数が増えた気がする。
あぁ、やっぱり事件なんて起きない方がいい。スローライフ最高!
***
オーレリアがクタクタになって家に戻った頃、グレンハルトの町では本格的に誘拐事件の調査が始まっていた。
オーレリアが捕えた誘拐犯たちは末端の使い捨てらしく、大した情報は持っていなかった。あの場所に運ばれてきた子供たちを、帝国から迎えに来る馬車に乗せるだけ。これからさらに厳しく取り調べる予定だが、あまり期待はできそうにない。
騎士団はまず、内通者の炙り出しから始めた。以前、有力拠点のガサ入れに失敗したときに、その調査に参加していたチームを割り出した。その結果、どのガサ入れにも参加していたのは2チームのみ。
これら2チームに、すでに出荷の届け出が出されている、ベール商会の抜き打ち検査を実施するとの情報を通達する。
すると、Aチームの方の日程は何も動きは無かったが、Bチームの方の日程は、ベール商会が品物の変更届を出してきた。
その後は、Bチームに的を絞り、ふるいにかけていく。すると小隊長のカールマンという人物が浮かび上がった。
彼の素性を調べていくと、仕事は真面目だが、いつからかギャンブルにハマり借金が嵩んでいるのだという。
そこからは怪しまれないよう、さらに偽の情報をカールマンにだけ教え、ベール商会と接触するのを待った。それには冒険者ギルドにも協力を要請し、接触場所を掴む。
ある日の深夜、約束の場所に来たベール商会側の人物をあらかじめ捕縛し、カールマンと面識のない冒険者の一人がその人物に成り代わる。何も知らないカールマンが偽の情報を渡した瞬間確保となった。
少し時間がかかったが、カールマンを押さえたことで、辺境伯にベール商会の調査の申し入れができた。大きな商会相手では、辺境伯と言えども簡単には動けない。カールマンのおかげで調査をする口実が出来たと言っていい。
一方で、冒険者ギルドの方では、近隣の村の調査をしていた。子供たちの受け渡しが、町の外で行われているのではないかと言う話を裏付けるためだ。
冒険者を何チームか、グレンハルトの町の周辺にある農村や隠れ家になりそうな場所へと派遣した。その結果、グレンハルトの町から馬車で半日ほどの距離にあるリステア村という村に行きついた。
その村は、かつては黄金色の麦畑が風に揺れ、村の周囲には畑が広がり、収穫の季節には一面実りの色に染まった美しい村であったが、現在はお年寄りばかりの寂しい村になっている。若者は皆、町での暮らしに憧れ、グレンハルトの町へ行ってしまう。
その上、穏やかだった村長が急死してしまい、跡を息子のルードが継いでいた。ルードといえば、さんざん遊び歩いていた放蕩息子である。村長を継いだ後は、仲間たちを村に呼び寄せ私物化していた。かつての長閑なリステア村は、もはや見る影もない。
冒険者ギルドの捜査指揮を執っているのは、副ギルドマスターのヘルガという女性だった。彼女は戦斧を振り回す豪傑であるが、書類仕事もバッチリこなすスーパーウーマンだった。そのため、ギルドマスターのガイウス及び、ギルド職員から乞われて副ギルドマスターの職に就いた。
そんな彼女がリステア村に入ったとき、違和感を感じた。この村はこんなに雰囲気の悪い村だっただろうか。ギルドもない小さな農村のため、冒険者はめったに立ち寄らない。しかし、かつてヘルガが訪れたときは、もっと長閑ないい村だったはずだ。
これはしっかり調査せねば、ヘルガはそう判断した。




