第42話 ベール商会
銀鹿亭を出て、冒険者ギルドへとやって来たオーレリア。
入り口の扉をくぐると、受付嬢のアニーがすぐに気が付き、ギルマスの部屋に案内してくれた。
「おお!オーレリア!来たか!」
「来たよ。何か用?」
ギルマスに勧められたので応接セットのソファーに座る。えっちゃんは空いているスペースで横になった。ノルとネロもえっちゃんと一緒だ。
アニーがお茶を入れてきてくれた。えっちゃんたちにはミルクの入った大きなお皿を置いてくれる。アニーはそのまま一緒に話を聞くらしく、メモの準備をしていた。
「なんだよ、なんか冷たくない?」
「そんなことないよ。あ、そうだ!あの失礼な見習い三人組を教会に行かせて大丈夫なの?」
「ん?あいつらはよく孤児院の依頼も受けるからな。面倒見はいいぞ?」
「そうなんだ。それならいいけど」
「なんかあったか?」
「あの人たちはいつも失礼なんだけど、今日も失礼だった」
「あぁ、それはたぶんお年頃ってやつだ!」
「オーレリアさんは可愛らしいですからね!」
「なにそれ?」
「あいつらもまだ子供だからな。そういう時期なんだ。許してやってくれ」
「むー、子供なのか。じゃあ仕方ない」
子供だから失礼なの?でも誘拐された子供たちはみんな素直でいい子なのに。やっぱりあの三人組が特別に失礼なのでは?と、ブツブツと考えるオーレリア。そんな彼女を見て、ガイウスとアニーは苦笑を交わした。
「それはそうと、オーレリアが誘拐犯を捕まえた件で、町から報奨金が出てるぜ!お手柄だったな」
「報奨金?そうなんだ、ありがとう」
「なんだよ、ぜんぜん嬉しそうじゃねーな」
「お金もらっても、何に使ったらいいか分からないし。あ、そうだ!それ教会に寄付する!」
「え?寄付しちゃっていいのか?」
「いいよ」
「そうか、わかったよ。じゃあアニー、手続き頼むな!」
「はい!分かりました!」
「お話ってそれだけ?」
「まぁ、待て。こっちにも誘拐犯についての情報をくれないか?」
「情報?騎士団に話したこと以外なにも無いけど」
「騎士団からの報告を待つより、お前から直接聞いた方が早いだろ?」
「まぁ、そうだけど」
オーレリアは、騎士団で話したことをだいたい話した。
「そうか、隷属の首輪か。まったく、趣味の悪い奴らだな」
「でも、どのようにして町から子供たちを出すのでしょう?そのような魔道具は門の検査で引っ掛かるはずですよね?」
「ああ、町に持ち込むのも難しいはずだが……」
「じゃあ町の外で付けたんじゃないの?アジトにあった馬車はとくに細工はしてない普通の馬車だったから、あれで外へ連れだしたわけじゃないだろうしね」
「つまり、どういうことだ?」
「だから、どこかで馬車を乗り換えて、そのとき首輪をつけられたんじゃない?」
「どこかって?」
「さぁ?」
「子供たちの証言は?」
オーレリアは、子供たちに聞いたことを思い出しながら話した。
「たしか、町を歩いていたら不思議な丸い光がふよふよ飛んできて、それを追いかけたんだって。その光を触った瞬間から覚えてないらしいよ。気が付いたら馬車に乗せられていて、アジトまで運ばれていったみたい。その間はずっと寝てたっていうから、いつ首輪を付けられたかは分からないね」
「不思議な光ってなんですかね?」
「魔法でしょ。こんな風に光か幻影の魔法でふわふわとした小さな光をとばして、子供たちを人気のない場所まで誘導する。光にふれた瞬間に強力な睡眠魔法か、強制的に冬眠状態にさせるような魔法で眠らせる。たぶんこんな仕掛けじゃないかな?」
オーレリアは魔法で小さな光の玉をつくり、アニーの方にふわふわと飛ばしていった。つい手を差し伸べてしまうような光の玉。アニーが指を伸ばして触れると同時に、バンと弾けて消えていく。
「なるほど、魔法使いなら出来るかもな。そして眠った子供を馬車で外へ、か」
「でも、子供を外へ連れ出すとなると、やはり門で気付かれるのではないでしょうか」
「馬車に細工がしてあるってことか。どんな魔道具を使ってやがるんだ?」
「わたし、今日ベール商会に魔道具を見に行ったんだけどさ、値の張るものが多かったんだよね。あーゆうの運ぶときって、結構頑丈な入れ物を使うんじゃない?」
「そうだが、そんなのは大きな商会でしか扱えないだろ。まさか、その大きな商会が関わっているとでもいうのか?」
「なんで関わってないって言えるの?」
「……ですが、あのように商会が大きくなるには、今までの信頼あってこそなんですよ?税金もしっかり納めていますし、貴族の顧客も多く抱えています」
「……だから出入りの審査は形式的なものだな。出そうと思えば簡単にできる!」
「それに、ベール商会ってべリスの町にもあるんでしょ?ライラが言ってたよ」
「……たしかにあるな。このことって騎士団は知ってるのか?」
「どうかな?わたしがベール商会を知ったのは騎士団本部を出た後だから、こんな話はしてないよ。それに、騎士団には内通者がいるみたいだからね。気をつけないと」
「そうだったな!めんどくせぇ。だがベール商会か。調べるとなると、辺境伯様の力添えが必要だろうな。なんだか大変なことになってきやがったぜ!」
ギルマスの虚しい叫びが部屋に響いた。
「じゃあ、調査頑張ってね。わたしはもう帰るよ」
「なんだよ。もう帰るのか?他人事だなぁ」
「そうは言っても、わたしは森にいるのが仕事だからね。この町の住人って訳でもないし。もし何かやらかして、師匠みたいに追放とか出禁とかになったら嫌だしさぁ」
「お前の師匠はいったい何をやったんだ?」
「いろいろやってたみたい。でも千年前のことだよ!」
そう、千年も前の話だし、その国はすでに存在しない。貴族による独裁政治で腐敗が進み、いずれ崩壊することは目に見えていたらしい。師匠は貴族相手でも遠慮なく本当のことを言ってしまうし、ときには鉄拳制裁を加えたりする。だから疎まれて追放されてしまうのだ。
「千年前……。それにしてもよぉ、お前はここの冒険者ギルドに登録してるじゃねぇか!だったらギルドのために少し手伝ってくれてもよくない?」
「あぁ、そっか。従魔登録しなきゃと思って冒険者ギルドに登録したけど、買い出しだけならわたし一人で来ればいいわけだし、毎回門で通行料払えばいいんだもんね?ギルドカード返すね」
オーレリアはギルドカードを返却するため、テーブルの上にスッと出した。
「ちょーーーーー!早まらなーーーい!!俺が悪かった!!!」
「もう!ギルマス!!何やってんですか!!!オーレリアさん、ギルマスの言うことは無視してくださって結構ですよ。ちゃんとギルドカード持っていてください!」
「でも……」
「大丈夫です!ギルマスが甘えているだけです!この事件はちゃんと、うちの副ギルドマスターが責任を持って調査に参加してますから、気にしないでください!」
返却したギルドカードを、アニーはグググと押し返してきた。
「副ギルドマスターなんていたんだ」
「はい!調査で外に出ていることが多いのですが、ギルマスよりしっかりした方なのでご心配なく!」
「それならよかった」
「えー?俺の扱いひどくない?」
「では、オーレリアさん気をつけて帰ってくださいね。次に町へ来たときには、今回の件でランクアップしてると思いますので、ギルドに寄ってください!」
「ランクアップ?なんで?」
「町から報奨金が出るようなことをしたのですから当然です!」
そう言ってアニーがギルドから送り出してくれた。
はぁーーー!疲れた。やっと解放された。早くお家に帰って眠りたい。オーレリアは町を出て、えっちゃんに乗ってようやく家路についたのだった。




