第35話 従魔たちのモーニングルーティン
「すー……すー……」
東の空がうっすら明るくなる午前4時すぎ。小さな影がむくりと起き上がり、音もなく部屋から出て行った。
その後に続く小さな影と大きな影。階段を降りてスルリとキッチンに入り込む。
『おはよう、にっく!おにくやいて』
小さな影は引っ張ってきたマジックバッグから巨大な肉の塊を取り出し、お肉焼きゴーレム『ニック』に差し出す。
ニックは顔の部分の球体をくるりと回し、お肉を受け取ると、程よい大きさにカットし、お腹のグリルに入れていく。
小さな影と大きな影は、お肉が焼けるのをじっと見つめて大人しく待っている。
ニックのお腹では、串に刺されたお肉がゆっくりと回り、表面が色づいてくる。滴る脂が火に落ちるたび、ジュっと小さな音が弾け、香ばしい香りが広がった。
ニックが焼きあがったお肉をお腹から取り出すと、小さな影と大きな影が自分のお皿を差し出す。お肉を入れてもらってきちんと自分の席に座ると、小さな声で、
『『『いただきまーす!』』』
と言って、バクバク食べ始めた。
『うま……うま……』
『あつい!ふーふー』
『うん、美味い!いい焼き加減だ!』
薄暗いキッチンで美味しそうにお肉を食べる、小さな影と大きな影。ニックが焼いたお肉を何度もおかわりして満足すると、ごちそうさまをして再び寝室に戻る。そして、何食わぬ顔でベッドに戻り再び眠りについた。
東の空がすっかり明るくなった。季節は夏真っ盛り、すでに外は暑そうだ。
「ふわぁぁ!おはよー!」
オーレリアが目を覚ますと、ノルとネロとえっちゃんはまだ寝ていた。いいこいいこと三匹をなでてから服を着替え、キッチンに降りる。
「今日は、レタスたっぷりサンドイッチにしよう!あとは、ヨーグルトに、この間作ったブルーベリージャムをかけよう」
薄切りにしたパンに、レタスをたっぷりと挟み、ハムとチーズも挟みこむ。マヨネーズとマスタードソースをたっぷりかけて完成。
コーヒーを入れていたら。眠そうな顔で三匹が降りてきた。
「おはよー!みんなも朝ごはん食べる?」
『『『たべるー!』』』
そして彼らは、本日二度目となる朝ごはんを食べるのだった。
朝食の後はみんなで庭に出る。お庭のお手伝いゴーレム『ノーグ』と一緒に畑にお水をあげる。
「精霊が増えてきたから、野菜もいい感じに成長してるね。このレタスは収穫しよう」
ノーグは収穫した野菜から余分な葉を落とし、籠へと積み上げていく。足元には落とされた葉が小さな山になっていた。
オーレリアはその葉っぱを鶏小屋に持っていく。
「ピピちゃん、ポポちゃん、畑の野菜だよ!」
『ピピちゃん!たくさんたべてね!』
『ポポちゃんも、たくさんたべてー』
ネロは自分で名前を付けたせいか、ニワトリをとても可愛がっている。ノルも同じように可愛がっていて、ニワトリが野菜を食べているところをニコニコと眺めていた。
野菜の収穫が終わり、次の野菜の種を植える。冬は雪が積もってしまうので、それまでに冬の間の野菜を育てておきたい。特にサラダにつかう野菜はたくさん欲しかった。
畑の世話を終えると、家のすぐそばを流れる川に足をつけて涼む。小さな川だが、山から流れてきた水は冷たくて気持ちがいい。
ノルとネロとえっちゃんも川の水でバシャバシャと遊んでいる。みんなで水の掛け合いになり、オーレリアも巻き込まれ、全身びしょぬれになったところでお昼ごはんだ。魔法でさっと体と服を乾かした。
「今日は暑いから、冷たいパスタにしようかな」
畑で採れたトマトとバジルを使って冷製パスタを作った。オーレリアは大好きなメニューなのだが、お肉が入っていないので、三匹の反応はイマイチだった。
「美味しーのにー!」
『おいしいけど、ものたりない』
『俺も物足りないなぁ』
『ぼくは……すきだよ!』
「もー!じゃあ、里から持ってきた生ハムとチーズを入れてあげる!とっておきだよ!」
あまり量がないため、少しずつ使っている生ハムとモッツァレラチーズを加えると、途端に勢いよく食べ始めた。
『なまはむ、おいしい!もっとちょうだい!』
『この、しろいちーず、おいしい!』
『うん!美味しい!俺にももっとたくさん入れて!』
「だめ!これはあんまりたくさんないの」
『ちぇ!』
『ざんねん』
『まぁ、お昼ごはんだからな。こんなもんでいいか』
お昼ご飯を食べ終わると、リビングで少し休む。家の中は大きな魔石の空調設備があって、夏でも冬でも一定の温度に保たれていて快適に過ごせた。
オーレリアは本を読み、ノルとネロとえっちゃんは思い思いの場所でくつろいだ。ネロがオーレリアにかまってもらおうと、開いた本の上に乗っかったり、ページをめくる手にじゃれついてくる。
「うふふ、どうしたの?遊びたいの?」
『なでなでして!』
「御意!」
オーレリアは思う存分ネロをなでなでする。ネロはゴロゴロと喉を鳴らしてご機嫌だ。そのうちノルもやってきて、頭をさしだす。頭を撫でてあげると、ノルもゴロゴロと喉を鳴らして、オーレリアに寄り添って眠り始めた。
いつのまにかえっちゃんも近くに来ていたので、えっちゃんもモフる。そうしてみんなをもふもふしてニコニコしていたオーレリアだったが、眠るみんなを見ていたら、つられて寝落ちした。
はっと目を覚ますと、1時間ほど眠っていたようだ。オーレリアは身体を起こし、キッチンに向かった。暑くなってからのおやつは、もっぱらグラスブルのミルクで作ったアイスだ。今日はナッツを混ぜ込んだアイスにする。
器に盛っていると、音を聞きつけた三匹が走ってやってきた。
「ちゃんと起こしてあげるから、心配しないで!」
『きょうのあいすは、なに?』
『ぼく、あいすだいすきー!』
『俺の、ちょっと多めにして!』
『えっちゃん、ずるい!おれのもおおくしてね!』
『えー!ぼくも!』
「はいはい。(いつもと同じ量ね)どうぞ」
『う〜ん!おいしー!』
『あま~い!』
『ナッツの食感がいいね!俺、これ好き!』
「うん、ナッツ美味しいね!」
ちょっと早めのおやつを食べ終わったら、みんなそれぞれ、やりたいことをやる。狩りに行ったり、湖に釣りに行ったり、お散歩したり。オーレリアはパンを焼いたりもする。
この日は、オーレリアとネロが湖に釣りに出かけて、えっちゃんとノルは森に狩りに出かけて行った。
湖では魚は全く釣れなかったが、読書は捗った。ネロは魚がちっとも釣れないことを、ノルに知らせたので、ノルたちは森に流れる川でグリムトラウトをたくさん狩ってお土産にした。マジックバッグにたくさん魚を詰め込む。
ノルとネロとえっちゃんは、オーレリア特製マジックバッグに狩った魔物も入れるが、森や湖で拾った『何かいいもの』もしまい込んでいる。
ノルは、森で拾った大きな松ぼっくり。ネロは湖で拾った綺麗な石をしまっている。えっちゃんはなぜか、長い木の棒をしまっていた。何がいいのかは、本人たちにしか分からない。
夕方になって家に戻り、夜ごはんの準備を始める。ノルとえっちゃんがせっかくグリムトラウトを獲ってきてくれたから、今日は魚料理だ。
内臓を取り除き、代わりにハーブを詰め込んでニックに焼いてもらう香草焼きにした。残りはスープにしよう。グリムトラウトにトマトと香草を加えてブイヤベース風にする。
あとは、空間収納からパンやチーズを出せば、なかなか豪華な夜ご飯になった。
みんなでワイワイお話しながら夜ごはんを食べる。森の中も暑かったとか、遠くの空にワイバーンが飛んでいたとか、湖で綺麗なピカピカの石をみつけたとか、他愛のない話ばかりだけど、とても楽しい夕食だった。
夕食の後はまたリビングでゴロゴロしたり、お風呂に入ったりするのだが、暑くなってから三匹はちっともお風呂に入らなくなった。でもフルーツミルクは飲みたいので、オーレリアがお風呂から出てくると、待ち構えていたりする。
それから寝室に移動して、みんなで眠る。ベッドに横になり、もふもふ、もふもふ。みんなの体温を感じながらいつの間にか眠りに落ちていくのだった。




