閑話 ギルドでの評判
ガイウスは騎士団からの報告書に目を通していた。先日のオーレリア誘拐未遂事件の報告書である。
「あん?犯人に逃走経路を指示?何でまた……。まさか誘拐犯の仲間か?……イヤイヤ、誘拐された本人だよな?どういうことだ?」
ガイウスは頭を抱える。まったく、オーレリアという子はよく分からない。見た目の割には落ち着いていて、しっかりしているように見える。しかし、ときに驚くほど子供っぽい。常識があるようでいて、どこか抜けている。まったくもって不思議な子である。
「いや、こちらの常識で考えるな。あいつはハイエルフだ。ああ見えて俺よりも年上だ。……いや、それを言ったらエルフやドワーフも……。そうだよな、じゃあやっぱり成人したばかりの……うん、そうだな!この件は忘れよう!」
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「おう、アニーか。なんだ?」
「ギルマス!お手紙ですよー。ん?どうかしましたか?」
「いや、オーレリアが誘拐されたときの報告書なんだがよ。訳が分かんねぇ」
アニーはガイウスから手渡された報告書を確認する。
「失礼しますね。……フフフ、やっぱり!」
「あ?なんだ?やっぱりって」
「オリビエが言っていたんですよ、ノルちゃんとネロちゃん、それにエルディオール様がやけに楽しそうだったと」
そう。あの日、ギルマスの部屋から解放され、ぐったりとしたオーレリアを見送った後、オリビエから聞いたのだ。それが何故かはオリビエも知らないようであったが。
「それって、つまり?」
「この報告書をみる限り、遊んでいたのでしょうね!」
「やっぱりか!あいつめ!」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。誰にも迷惑はかけていませんし、結局は犯人を捕まえてくれだのですから!」
「まぁそうなんだが……」
「オーレリアさんにとっては、人間の誘拐犯など危険の対象ではないんですよ!」
「そうなんだろうな。あいつが強いってことは知っているが、実際に見たわけじゃねぇからな。つい、普通の子供だと思って心配しちまうんだよな」
見た目だけでいえば、普通のエルフの子供だから心配するのは分かる。でもオーレリアは空間収納から魔の森の魔物を次々と取り出しては売りさばいていくような子だ。つい先日はワイバーンの素材を売り払っていた。全然普通じゃないということをアニーは知っている。
「ギルマスって、意外と面倒見がいいですよね」
「意外じゃねぇだろ。俺はギルマスだぞ?」
「それもそうですねぇ」
***
「今日も大した依頼はなかったな」
「俺たち見習いだからな。仕方ないよ」
「今日のはまだいいほうじゃないか?」
早朝、町の大通りを歩くのは、オーレリアよりも一か月先輩のアルト、ピノ、セトの見習い三人組だ。
ギルドで受けてきた依頼は、屋台の手伝いだった。なんでも、毎回大量に買っていく客がいるらしく、食材の補充が間に合わないのだとか。
屋台広場に着くと、依頼人たちの代表がいる串焼きの屋台へと向かった。今回の依頼は、いくつかの屋台が共同で出したものだった。
「こんにちはー!」
「ギルドの依頼できましたー!」
「よろしくお願いしまーす!」
元気よくあいさつすると、屋台のおやじが手招きした。
「おう!待ってたぜ!まずは市場で荷物を受け取ってきてくれ。これがメモだ、頼んだぞ!」
見習い三人組は、受け取る食材のメモをもらい、荷車を押して市場へ向かった。市場では肉から野菜から調味料まで、大量の食材を受け取ることになった。
「ずいぶん多いな?屋台ってこんなにたくさん仕入れるんだな」
「何日分なんだろうな?」
「ぐっ!荷車が重いぜ!」
市場を回り屋台広場まで戻ると、持ってきた食材をそれぞれの屋台へ運搬していく。量も多いし、食材の重量もかなりのものだったので、依頼が終わったときにはクタクタになっていた。
「あ~疲れたー!」
「筋肉痛だー!」
「腹減ったぁ!」
「おう、お疲れさん。助かったぜ!これ、うちの串焼きだ。食ってけ!」
屋台のおやじが三人に焼き立ての串焼きを差し出した。
「いいのか?」
「やったぜ!」
「ありがとう!オヤジさん!」
「いいってことよ!最近、屋台広場で爆買いしていく上客がいてな、ここの連中もけっこう儲かってるんだぜ」
「そうなのか?どんな奴なんだ?その上客って」
アルトが気になって聞いてみた。ピノとセトは美味い美味いといって串焼きにかぶりついている。
「黒猫と白い犬を連れたエルフの女の子だ!」
「「「な、なにー!!!」」」
「なんだ?知ってるのか?」
「知ってるぜ!そいつは俺たちの後輩だ!」
「後輩?あの子は見習い冒険者なのか?黄昏の獅子と一緒にいたこともあるぞ?」
「えっ?黄昏の獅子と?」
「なんでSランク冒険者と一緒にいるんだ?」
「でも、見習いではないって言ってたよな?」
「「「う~む」」」
三人組は考え込んでしまう。エルフだから見た目ほど子供ではないのかもしれないが、誘拐されていたよな?未遂だったけど……。でも連れてる犬はホワイトウルフではなくフェンリルだって言っていたし……。う〜む、わからん。
「まぁとにかく、あの嬢ちゃんが上客であることは間違いない。いつも大量に購入しては、何もない空間にしまっていくんだ。スゲーぞ?」
「魔法か……まぁエルフだしな。それは仕方ない」
「空間収納か!かっけぇ!」
「そんなにたくさん買う金があるってことだよな?もしかしてランクも高いのか?」
オーレリアについての謎は深まるばかりだが、依頼は完了したので冒険者ギルドに戻ることにした。
ギルドに着くと、空いていた受付へ向かい、依頼完了の報告をして報酬を受け取った。今回の報酬はまぁまぁといったところか。串焼きももらえたし、悪くない。
「お疲れさまでした。最近はオーレリアさんのおかげで、屋台や市場からの依頼が増えているんですよね。またお願いしますね!」
「オーレリア?やっぱりあいつのことだったのか!」
「あいつ、何者なの?」
「ただの新人じゃないのか?」
「あら?……そういえば、ちょっと前に変な冒険者に絡まれたって言っていましたね。もしかして、あなた達かしら?」
「えっ?」
「ギクッ!」
「俺たちって言うか、アルトだな」
「おいっ!セト!」
アルトが焦ってセトの口をふさぐがもう遅い。
「オーレリアさんは、冒険者登録をされたばかりですが、それは従魔契約のためです。あなたたちはご存じありませんか?オーレリアさんと一緒にいるフェンリルを」
「フェンリル……」
「そうだ、ホワイトウルフだと思ってたけど……」
「本当にフェンリルなんだ……」
「ええ、間違いなくフェンリルですよ。よかったですね、何もなくて!もしオーレリアさんにちょっかい出していたら、ガブッとされかねません」
見習い三人組は顔面蒼白だ。
「で、でも……フェンリルってもっと大きいんでしょ?」
「そ、そうだよ。図鑑でみたぞ」
「あの白い狼は小さかったぞ!」
「フェンリルは神獣ですからね。大きさも自由に変えられるそうですよ。それにオーレリアさんは魔の森に住む魔法使いです。ランクこそ低いですが、実力はSランク以上ですから、変に絡まないでくださいね。ご機嫌を損ねたら、この町は見捨てられてしまうかもしれませんし」
アニーとしては、オーレリアが素材の売却先を他所へ変えてしまうことを心配しただけだった。だが、見習い三人組には違って聞こえた。
『ご機嫌を損ねたら、この町が見捨てられる』――つまり。
オーレリアを怒らせたら町が滅ぶ。自分たちはヤバい人物に絡んでしまったようだ。
「ど、どうしよう!」
「こんど会ったら、謝ろう!」
「全力で土下座だ!」
アニーのせいで、オーレリアへの誤解が深まった瞬間だった。災厄認定されるのはこれで二度目だが、本人からすればまったく心外な話である。




