第27話 湖でキャンプ①
夏になり、天気のいい日が続いている。
今日は湖でキャンプだ。みんなでのんびり山を下って湖を目指す。家から湖は歩いて10分ほど。ずっと獣道のような幅の狭い山道だったのだが、歩きやすくなるように事前に整地しておいた。
邪魔な木を数本伐り、下草を払い、土を軽くならした。これでえっちゃんと並んでも余裕で歩ける道幅になったし、木漏れ日が差し込み、雰囲気も明るくなった。
湖に着くと、さっそくテントを立てる。野営で使った自動テントだ。中は広々としていて、フワフワの厚手のラグと、たくさんのクッションが置かれていて居心地がいい。夜になると魔法のランタンが灯る。
テントの外では焚火ができるように準備をする。地面の草を払い、その辺で拾ってきた石を円く並べた。あとは薪を集めに行く。
「薪を集めに行くから、みんなは遊んでていいよ」
『おれ、いっしょにいくよ!』
『ぼくも、いっしょにいく!』
『俺も行くぞ!』
「薪を集めるだけなのに」
『むしがでたらどうするの?』
「ドキッ!」
『またもりがもえちゃうよ?』
「グサッ!」
『迷子になるかもしれないし』
「ちょっとえっちゃん!わたしそんなにドジじゃないよ!」
みんなで笑いながら薪を集めていく。ありがたいことに、あれから虫系の魔物は見ていない。たぶん、ノルとネロとえっちゃんのおかげなんだと思う。
薪が集まったところでテントへ戻った。朝はゆっくり出てきたのでもうそろそろお昼ごはんの時間だった。
お昼ご飯は、空間収納に入れてきたピタサンドにする。これはオーレリアが家で作ってきたものだ。ピタパンをひたすら焼いて、ニックに焼いてもらった肉を、野菜と一緒にポケット状になったピタパンに挟んでいく。それにソースをかけて完成。ソースは適当にいろいろなものをかけたので、食べてみてのお楽しみだ。
「お昼ごはんにしよう!みんなこっちにおいで!」
『わーい!おひるごはんだー!』
『きょうはなにー?』
『俺の分、たくさんある?』
「今日はピタサンドだよ。たくさん作って来たけど、えっちゃんには足りないかもね。午後は自由に狩りに行ってきていいよ」
『リアは午後はどうするの?』
「わたしは、釣りだよ!せっかく湖で過ごすんだもん、夜ごはんは魚がいいじゃん!」
『おさかなつり?おれもやるー!』
『ぼくもいっしょにやりたい!』
『魚かぁ、俺はちょっと森で狩りをしてからにするよ!』
「うん、じゃあそうしよう」
みんなでピタサンドを食べながら、湖を眺める。気温は高くなったが、風が爽やかで気持ちがいい。たまに精霊がフワフワと漂い、絵の具を溶かしたような水色の湖面を揺らしている。
オーレリアはアイスティーで喉を潤す。みんなにはミルクを用意した。
そういえば、ローラは元気かな。ミルクの在庫はまだあるけれど、天気のいい日にピクニックがてら、ローラに会いに行こうかな。ローラは牛の魔物だけど、よくしゃべるから面白いのだ。たまにあのおしゃべりが聞きたくなる。
食事を終え、えっちゃんは狩りに出かけた。えっちゃんのマジックバッグは、肩ひも部分を長くするだけでよかったので、オーレリアがグリムサーベントの皮で作った肩ひもに付け替えた。
ノルとネロのバッグはまだ出来ていない。そもそも子猫サイズの子たちが使えるバッグがないので、ハイエルフの里にノルとネロ用のバッグが作れないか手紙で問い合わせている。
オーレリアは湖畔の石に腰を下ろし、静かな水面に糸を垂らした。ノルとネロは隣で水面を覗き込み、時々揺れる浮きをじっと見つめている。
そんなにすぐには釣れないよと伝えようとした矢先、グンと浮きが沈んだ。
「え?かかった?」
竿が大きくしなり、オーレリアが力いっぱい引っ張ると、銀色の魚が水面を跳ねた。
『おお!』
『わあ!』
ノルとネロが大興奮で釣り上げた魚を見に来た。前足でちょんちょん触っては、ビチビチ動く魚に驚いている。
オーレリアは水魔法で湖の水を球体にして、魚をこそに閉じ込めた。空中に浮かんだ水の球体の中で釣り上げた魚が泳いでいる。
どんな魚なんだろう。鑑定魔法で調べてみる。
「どれどれ、アズールトラウトだって。神聖な水に生息する魚。銀色の身体の横に、虹色の帯が特徴。美味。だって」
『おいしいんだ!やったね!』
『こんなにすぐつれるなんて、すごい!』
「たまたまだと思うよ?さすがに、そんな簡単には釣れないでしょ」
『どんどんつろうよ!りあ!』
ノルにせかされ、また釣り糸を垂らす。1分ぐらいプカプカしている浮きを眺めていたら、なんと、またあたりが来た。
「わぁ!すごい、まただ!」
『がんばれー!りあー!』
『がんばれー!』
またしてもアズールトラウトだった。30センチぐらいだろうか。串焼きにしたらおいしそうだ。
それからも、次々と釣れた。今日の夜ごはんはたくさん魚が食べられるかもしれない。
7匹ほど釣れたところで、えっちゃんが戻ってきた。
『おお!すごいな、結構釣れてる!』
『りあ、いっぱいつってるよ!』
『すごいでしょー!』
「おかえり、えっちゃん。結構釣れたけど、えっちゃんには足りないね。もっと大きいのが釣れたらいいんだけどな」
えっちゃんもオーレリアの側に座り、みんなでのんびりと水面を眺める。今度はなかなか釣れなかった。
ノルとネロがえっちゃんに寄りかかりお昼寝を始めたとき、釣竿がすごい力でガクンと引っ張られた。
「わぁー!すごく重い!」
水面の下で大きな影がゆっくりと旋回した。えっちゃんがオーレリアの身体を支えてくれる。
「……ぐぐぐ!むんっ!」
竿がしなり、跳ね上がった魚は、キラキラと光る水晶のような鱗をしていた。大きさは80センチはあるだろうか、かなり大きい。
「おぉ!」
『すごい!』
『おおきい!』
『きれいな魚だなぁ。美味いのかな?』
「ふーむ。これはクリスタルパーチ。銀色の半透明の体に、水晶のような鱗が特徴。神聖な水の、深いところに生息している。白身で美味。だって。」
『これもおいしいんだ!やったね、りあ!』
『きらきらしてるねぇ』
『よし!どんどん釣ろう!リア、もっと遠くまで糸を投げて!』
「今ので腕が疲れたよ。次大きいのがかかったら、えっちゃん手伝ってね」
『まかせろ!』
オーレリアがヒュンと釣り糸を飛ばす。結構遠くまで飛んで行った。
しばらく何もかかることなく、水面は静かなものだった。オーレリアは本を読みながら魚がかかるのを待つことにした。
しばらく本に集中していたが、何かの気配を感じて顔を上げた。えっちゃんも、感じたらしい。竿をしっかりと握り様子をうかがうと、今までにない重さで引き込まれた。湖の奥で水が渦を巻く。
「ヤバい!……これ、普通の魚じゃないんじゃない?」
『リア、竿を貸せ!俺が持つ!』
えっちゃんが竿をくわえて、引っ張る。水面の下には巨大な影が見える。
『ぐぐぐ……!すごい力だ!』
「えっちゃん、そのまま!魔法で一気に引き上げるよ!」
ザッパーン!!
湖面が割れ、巨大な魚が姿をあらわした。それは雪のように白い巨大魚で、鱗の上を淡い光がゆらめき、長い尾ひれは金色に輝いている。背びれは燃えるように赤く、体の側面にも細い赤の帯がすっと走っていた。大きさは、3メートル近くありそうだ。
『わぁぁ!でっかい!まもの?』
『すごーい!おおきーい!』
『おお!すごいのが釣れたぞ!やったな、リア!』
「聖域だし魔物じゃないよね?この湖、こんなのいたんだ!」
鑑定してみると、それはミラージュサーモンというめったに姿を見せない伝説級の魚だった。とんでもない魚を釣り上げてしまったようだ。
「伝説の魚かぁ!これ食べられるのかな?」
伝説だろうが何だろうが、オーレリアたちにとっての一番の問題は、美味しいかどうかだった。




